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第0話

プロローグ

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 無力。

 無力は罪だ。大切なものが目の前で奪われていくのを見ていることしかできない。

 炎。

 真っ赤な炎だ。美しかったはずの森の深緑が灼熱に飲み込まれ、故郷を、家族を、同族たちを焼き尽くしていく。
 人間。

 惨劇の渦中で人間たちが笑っている。何がそんなに楽しい。他人を傷付け命を奪うことがそんなに愉快なのか。

 妹。

 妹はまだ生きている。しかし煙を多く吸い込んでしまったらしく、意識が朦朧としていて今にも目蓋が閉じてしまいそうだった。弱っていく妹を腕の中に抱きかかえる。

 大丈夫。大丈夫だから。根拠のない励ましが空虚に響く。このままでは長くはもたないだろう。それは己も同様だ。力なき者は何ひとつ守れやしない。

 憎い。

 大切なものを奪っておきながら、児戯に興じる子供のように笑う人間どもが憎い。そして何もできず打ちひしがれるしかない自分自身も。

 力。

 人間に復讐できるだけの力が欲しい。

 力さえあれば──。

 いつの間にか隣には男が立っていた。

 男は告げる。

 ──では、与えてあげましょう。
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