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第7話 イルーシャ、理解する
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ヒューイは我に返ると、慌てて訂正した。
「いや、わたし、いえ、俺はおにいちゃんですから」
「うそっ」
大きな瞳を見開いて、イルーシャが驚く。
「本当です」
「んー、ひゅー、おにいちゃん? かがんで、かがんで」
イルーシャがぴょんぴょんと跳ねながら、ヒューイに屈むように言った。
「?」
疑問に思いながらもヒューイが屈むと、イルーシャは鎧を身につけていない彼の胸をペタペタと触った。突然のことに周囲が沈黙する。
「ほんとだ、おむねがないー。おにいちゃんだー」
感心したようにイルーシャはヒューイの胸を触りまくる。
「いや、あの……っ」
ヒューイは頬を染めながら、おかしなほどうろたえた。
触りまくって満足したのか、イルーシャはヒューイから離れてキースに近寄る。
「じゃあ、みんな、おにいちゃん?」
「……そうだね」
ヒューイは赤い顔をして、その場に固まっていた。その肩をブラッドレイが叩く。
「しっかりしろ。あらぬところを確認されるよりましだろう?」
「……っ、イルーシャ様がそんなことするか!」
ヒューイが耳まで真っ赤にして勢いよく立ち上がる。
「ひゅー、なあにー?」
イルーシャが自分が呼ばれたのかと勘違いして、とてとてとヒューイに近づく。
「い、いえ、なんでもないですから……っ」
途端にヒューイはさっきまでの勢いをなくして真っ赤な顔で首を横に振る。その様子をキースが冷たい目をして見ていた。
「……ふうん、ヒューイはイルーシャの信者なんだ。これは、これから気をつけないとね。イルーシャも彼のこと結構気に入ってるみたいだし」
「……ばれましたか。本人も気をつけていたみたいですけど、こうなっては仕方ないですね」
「あれでは隠しようがないな。……ところで」
カディスとキースがブラッドレイの肩を叩く。
「おまえは大丈夫なのか?」「君は大丈夫だろうね?」
「……さあ、どうでしょう」
「ひゅー、おひめさまみたいにきれいでも、おにいちゃんなんだね!」
一部で不穏な空気が流れる中、イルーシャは無邪気にヒューイの傷に塩を塗り込むようなことを言った。
「……はあ」
ヒューイはイルーシャに手を掴まれて赤くなったままだ。
「んー、いるーしゃ、わかったー。みんなおにいちゃん」
イルーシャはヒューイの手を離すと四人の前に立つ。
「ええと、かでぃす、おうさまで、きいす、おうじさま」
王子様? とブラッドレイとヒューイが首を傾げる。
「それでね、それでね」
イルーシャが楽しそうにその場でぴょんぴょん跳ねる。
「かでぃすときいすは、けだものなのーっ!」
「……っ」
「イルーシャ!」
噴き出すブラッドレイとヒューイ。叫ぶカディスとキース。
「いる……っしゃ、さまの口から……っ、けだもの……っ」
ブラッドレイが腹を抱えて爆笑する。
「おいっ」
ブラッドレイの脇腹をヒューイが肘でつつく。
「だって、おまえ……っ、くっ、おかしすぎる……っ」
確かにすごい皮肉ではある。……言った本人は全く意図してはいないが。
「?」
イルーシャが不思議そうに首を傾げる。
「どうしたのー?」
「イルーシャ、それは違うと言ったろう?」
「……ちがうの?」
カディスとキースの鬼気迫る表情に、イルーシャは肩を震わせた。
「うん、違うから」
「とにかく、それは二度と人前で言うな。分かったな?」
二人に言い含められて、イルーシャは眉を下げて頷いた。
「うん、……ごめんね?」
イルーシャに泣きそうな顔で小首を傾げて見られると、カディスとキースはなにも言えなくなってしまう。むしろ、そんな顔をさせた自分達が悪いような気になってきた。
「……つくづく天然は怖いな」
ブラッドレイが感心したように言う。ヒューイはそれを肯定していいのか逡巡してから、結局は頷いた。
「いや、わたし、いえ、俺はおにいちゃんですから」
「うそっ」
大きな瞳を見開いて、イルーシャが驚く。
「本当です」
「んー、ひゅー、おにいちゃん? かがんで、かがんで」
イルーシャがぴょんぴょんと跳ねながら、ヒューイに屈むように言った。
「?」
疑問に思いながらもヒューイが屈むと、イルーシャは鎧を身につけていない彼の胸をペタペタと触った。突然のことに周囲が沈黙する。
「ほんとだ、おむねがないー。おにいちゃんだー」
感心したようにイルーシャはヒューイの胸を触りまくる。
「いや、あの……っ」
ヒューイは頬を染めながら、おかしなほどうろたえた。
触りまくって満足したのか、イルーシャはヒューイから離れてキースに近寄る。
「じゃあ、みんな、おにいちゃん?」
「……そうだね」
ヒューイは赤い顔をして、その場に固まっていた。その肩をブラッドレイが叩く。
「しっかりしろ。あらぬところを確認されるよりましだろう?」
「……っ、イルーシャ様がそんなことするか!」
ヒューイが耳まで真っ赤にして勢いよく立ち上がる。
「ひゅー、なあにー?」
イルーシャが自分が呼ばれたのかと勘違いして、とてとてとヒューイに近づく。
「い、いえ、なんでもないですから……っ」
途端にヒューイはさっきまでの勢いをなくして真っ赤な顔で首を横に振る。その様子をキースが冷たい目をして見ていた。
「……ふうん、ヒューイはイルーシャの信者なんだ。これは、これから気をつけないとね。イルーシャも彼のこと結構気に入ってるみたいだし」
「……ばれましたか。本人も気をつけていたみたいですけど、こうなっては仕方ないですね」
「あれでは隠しようがないな。……ところで」
カディスとキースがブラッドレイの肩を叩く。
「おまえは大丈夫なのか?」「君は大丈夫だろうね?」
「……さあ、どうでしょう」
「ひゅー、おひめさまみたいにきれいでも、おにいちゃんなんだね!」
一部で不穏な空気が流れる中、イルーシャは無邪気にヒューイの傷に塩を塗り込むようなことを言った。
「……はあ」
ヒューイはイルーシャに手を掴まれて赤くなったままだ。
「んー、いるーしゃ、わかったー。みんなおにいちゃん」
イルーシャはヒューイの手を離すと四人の前に立つ。
「ええと、かでぃす、おうさまで、きいす、おうじさま」
王子様? とブラッドレイとヒューイが首を傾げる。
「それでね、それでね」
イルーシャが楽しそうにその場でぴょんぴょん跳ねる。
「かでぃすときいすは、けだものなのーっ!」
「……っ」
「イルーシャ!」
噴き出すブラッドレイとヒューイ。叫ぶカディスとキース。
「いる……っしゃ、さまの口から……っ、けだもの……っ」
ブラッドレイが腹を抱えて爆笑する。
「おいっ」
ブラッドレイの脇腹をヒューイが肘でつつく。
「だって、おまえ……っ、くっ、おかしすぎる……っ」
確かにすごい皮肉ではある。……言った本人は全く意図してはいないが。
「?」
イルーシャが不思議そうに首を傾げる。
「どうしたのー?」
「イルーシャ、それは違うと言ったろう?」
「……ちがうの?」
カディスとキースの鬼気迫る表情に、イルーシャは肩を震わせた。
「うん、違うから」
「とにかく、それは二度と人前で言うな。分かったな?」
二人に言い含められて、イルーシャは眉を下げて頷いた。
「うん、……ごめんね?」
イルーシャに泣きそうな顔で小首を傾げて見られると、カディスとキースはなにも言えなくなってしまう。むしろ、そんな顔をさせた自分達が悪いような気になってきた。
「……つくづく天然は怖いな」
ブラッドレイが感心したように言う。ヒューイはそれを肯定していいのか逡巡してから、結局は頷いた。
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