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第6話 イルーシャ、お花見をする
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「さくら~」
お茶会をすませたイルーシャは、新名所になったエーメの並木道に来ていた。
イルーシャは舞い落ちる花びらを追いかけて、とてとて歩く。
「なんでカディスまで来るかな。それもアリスト老に執務押しつけてまで」
キースは不満を隠そうともせずに、カディスに言った。
「書類の整理を頼んだだけだろう。決裁を頼んだわけでもないし、たまには俺も息抜きしてもいいだろう」
「カディスは息抜きしすぎだよ」
カディスの息抜きというのは、たいていイルーシャ絡みなので、自然とキースの口調も辛辣になる。
「きいす、かでぃす、けんかよくないっ」
むぅ、と頬をふくらませてイルーシャが怒る。
「ああ、ごめん、イルーシャ」
「すまない」
小さいイルーシャに怒られて二人は素直に反省した。
せっかく花見に来ているのだから、その風情を楽しまなければ損と言うものだ。……傍にはイルーシャもいるのだから。
「おや、珍しい組み合わせですね」
ふいに声をかけられて、三人はその方向を向く。
そこに立っていたのは、ブラッドレイとヒューイだった。親友同士の二人は、普段もつるんでいることが多い。
「今、執務室に伺うところだったのですよ、陛下」
ブラッドレイに報告書の束を掲げられたカディスは一変して辟易した顔になる。
「持ってこなくてもいい」
「そういうわけには参りませんよ。それはそうと、その御子は……」
ヒューイが苦笑してから、イルーシャを見る。
「……ああ、イルーシャだ」
カディスの言葉にブラッドレイとヒューイの目が点になる。
「は? ……いや、これは失礼を」
よく考えてみれば、子連れでカディスとキースが花見をしていること自体が異様なのだ。……だが、これがイルーシャとなれば全ては合点がいった。
「……なぜ、このようなことに」
「誤って若返りの薬を被ってしまってね。三歳まで若返ってしまったんだよ」
ヒューイが呆然として尋ねると、キースが苦笑して答えた。
「もしかしたら、あと一月はこの姿のままかもしれないんだよね。……効果を薄める薬は急いで作らせてはいるんだけど」
「なんだと、そんなことは聞いてないぞ」
「かでぃすっ」
声を荒げたカディスに、イルーシャがぴと、とくっついた。
「あ、ああ。すまないな、イルーシャ」
イルーシャを抱き上げ、ふくれるイルーシャをあやすように背中を撫でた。
「……しかし、三歳になってもイルーシャ様はイルーシャ様ですね……」
「陛下をすぐに諫められるところは、さすがというしかありませんね」
ヒューイとブラッドレイの感心したような言葉にキースは苦笑した。
「そうだね、カディスの手綱を一番取れるのはイルーシャなのかもね。……嫌だけどね」
「かでぃす、おりるっ」
「そうか」
カディスが残念そうにイルーシャをおろすと、てってっとブラッドレイ達に駆け寄った。
「危ないよ」
慌ててキースがイルーシャの傍に行く。それでも、イルーシャは見慣れない二人が物珍しいのか、その手をすり抜けてブラッドレイとヒューイを見上げた。
「おじ、おにいちゃん、だれ?」
イルーシャはブラッドレイにおじちゃん、と言いかけたが、カディスでどうやら学習したらしく、きちんと言い直した。
一方のブラッドレイはイルーシャの言いかけた言葉をしっかり聞いてはいたが、この歳の子供には珍しくもないことだと認識していたので笑っていた。むしろ、言い直したイルーシャに賢いなと感心もしていた。
「ブラッドレイです、イルーシャ様。ブラッドとお呼びください」
「ぶらっど?」
「はい、そうです」
ブラッドレイが笑顔で答える中、イルーシャは「ぶらっど、ぶらっど」と復唱していた。
「わたしはヒューイです。ヒュー、とお呼びください」
ヒューイがイルーシャの前に出て名乗る。すると途端にイルーシャが目をきらきらと輝かせた。
「うんっ、ひゅーおねえちゃん、とってもきれいだね!」
頬を紅潮させてイルーシャが言う。
……その場の空気がピシリと凍ったのは言うまでもない。
お茶会をすませたイルーシャは、新名所になったエーメの並木道に来ていた。
イルーシャは舞い落ちる花びらを追いかけて、とてとて歩く。
「なんでカディスまで来るかな。それもアリスト老に執務押しつけてまで」
キースは不満を隠そうともせずに、カディスに言った。
「書類の整理を頼んだだけだろう。決裁を頼んだわけでもないし、たまには俺も息抜きしてもいいだろう」
「カディスは息抜きしすぎだよ」
カディスの息抜きというのは、たいていイルーシャ絡みなので、自然とキースの口調も辛辣になる。
「きいす、かでぃす、けんかよくないっ」
むぅ、と頬をふくらませてイルーシャが怒る。
「ああ、ごめん、イルーシャ」
「すまない」
小さいイルーシャに怒られて二人は素直に反省した。
せっかく花見に来ているのだから、その風情を楽しまなければ損と言うものだ。……傍にはイルーシャもいるのだから。
「おや、珍しい組み合わせですね」
ふいに声をかけられて、三人はその方向を向く。
そこに立っていたのは、ブラッドレイとヒューイだった。親友同士の二人は、普段もつるんでいることが多い。
「今、執務室に伺うところだったのですよ、陛下」
ブラッドレイに報告書の束を掲げられたカディスは一変して辟易した顔になる。
「持ってこなくてもいい」
「そういうわけには参りませんよ。それはそうと、その御子は……」
ヒューイが苦笑してから、イルーシャを見る。
「……ああ、イルーシャだ」
カディスの言葉にブラッドレイとヒューイの目が点になる。
「は? ……いや、これは失礼を」
よく考えてみれば、子連れでカディスとキースが花見をしていること自体が異様なのだ。……だが、これがイルーシャとなれば全ては合点がいった。
「……なぜ、このようなことに」
「誤って若返りの薬を被ってしまってね。三歳まで若返ってしまったんだよ」
ヒューイが呆然として尋ねると、キースが苦笑して答えた。
「もしかしたら、あと一月はこの姿のままかもしれないんだよね。……効果を薄める薬は急いで作らせてはいるんだけど」
「なんだと、そんなことは聞いてないぞ」
「かでぃすっ」
声を荒げたカディスに、イルーシャがぴと、とくっついた。
「あ、ああ。すまないな、イルーシャ」
イルーシャを抱き上げ、ふくれるイルーシャをあやすように背中を撫でた。
「……しかし、三歳になってもイルーシャ様はイルーシャ様ですね……」
「陛下をすぐに諫められるところは、さすがというしかありませんね」
ヒューイとブラッドレイの感心したような言葉にキースは苦笑した。
「そうだね、カディスの手綱を一番取れるのはイルーシャなのかもね。……嫌だけどね」
「かでぃす、おりるっ」
「そうか」
カディスが残念そうにイルーシャをおろすと、てってっとブラッドレイ達に駆け寄った。
「危ないよ」
慌ててキースがイルーシャの傍に行く。それでも、イルーシャは見慣れない二人が物珍しいのか、その手をすり抜けてブラッドレイとヒューイを見上げた。
「おじ、おにいちゃん、だれ?」
イルーシャはブラッドレイにおじちゃん、と言いかけたが、カディスでどうやら学習したらしく、きちんと言い直した。
一方のブラッドレイはイルーシャの言いかけた言葉をしっかり聞いてはいたが、この歳の子供には珍しくもないことだと認識していたので笑っていた。むしろ、言い直したイルーシャに賢いなと感心もしていた。
「ブラッドレイです、イルーシャ様。ブラッドとお呼びください」
「ぶらっど?」
「はい、そうです」
ブラッドレイが笑顔で答える中、イルーシャは「ぶらっど、ぶらっど」と復唱していた。
「わたしはヒューイです。ヒュー、とお呼びください」
ヒューイがイルーシャの前に出て名乗る。すると途端にイルーシャが目をきらきらと輝かせた。
「うんっ、ひゅーおねえちゃん、とってもきれいだね!」
頬を紅潮させてイルーシャが言う。
……その場の空気がピシリと凍ったのは言うまでもない。
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