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「──落ちぶれ果てたものだな。まあ、当然の帰着ではあるが」

 近衛に連れていかれたあと、王宮内の貴人牢きじんろうに収監されたマブロゥ様をわたくしの父であるアウグスト公爵が冷ややかな目で見つめながら言いました。
 わたくしも本日はお父様についております。ええ、もちろん言い足りなかった文句をマブロゥ様に突きつけるためです。

「お、叔父上は、わたしがこんな目に遭っても平気なのですか!? わたしはあなたの大事な甥なのですよ!」

 普通の神経だったら、まずこのようなことを言えるはずはないのですが……。
 マブロゥ様のありえないその言葉に、お父様の目がさらにさげすみの色に染まりました。

「……よくもそんな言葉が吐けるものだ。不貞を行った上に、娘にくだらぬ冤罪をかけ、殺そうとした愚か者に、なぜわたしが心を砕かねばならない? 厚かましいにもほどがある」
「叔父上!」
「うるさい。貴様はもう血縁とも思わん。そもそもわたしは、貴様とセレーネの婚約には最初から反対だった。このような帰結になったのだから、その考えは間違いではなかったということだな」

 まあ、お父様がマブロゥ様を嫌うのも分かります。幼少時から傲岸不遜で鼻持ちならない性格でしたものね。
 ……わたくしですか? もちろんわたくしも大嫌いでしたよ。陛下のご命令でマブロゥ様の婚約者に決定した時は、この世の終わりかと思ったものです。

「まあ、もう縁が切れたも同然ですし、マブロゥ様がコリンヌ嬢を選んでくださったのは重畳ちょうじょうでしたわ。あのままでは我が家に婿に来ることになっていたかもしれませんでしたもの」

 わたくしがにっこりと笑うと、お父様は思わずと言うようにため息をつきました。

「おまえはそう言うが……。この愚か者にもっと言ってやっていいのだぞ」
「婿……、婿だと……っ!? どういうことだ、それは!」

 マブロゥ様がわめいてますが、そういえばこの方、王太子になるつもりでいたんですものね。本当に知らなかったのでしょう。……まあ、知らないほうがどうかしているとは思いますが。

「陛下が王位継承権のないあなたをおもんばかって、わが公爵家の婿に入れることにしたのですわ。だからこそのわたくしとの婚約でしたのに。……ですが、このような結果となって、わたくしは助かりましたが」
「公爵家としても助かったぞ。こんな害にしかならぬ者、家に入れていたらと思うとぞっとする」

 ……そうですね、わたくしもぞっとします。このような最低の男を夫になんて冗談じゃありませんわ。

「な……っ、無礼な!」

 マブロゥ様が真っ赤になって怒鳴りましたが、お父様はそれを鼻で笑いました。

「なにが無礼なのだ? 王位継承権もない者が笑わせる」
「し、しかし、わたしは王子で! それにセレーネとて、たかが五位ではないか!」

 ……その五位ですらないあなたはなんなのでしょうね。既にお父様に敬語すら使ってませんが、それこそ不敬ですよ。

「いくら王子でも、王位継承権のない者はある者よりも地位は下だ。よって貴様は、己より地位の高いセレーネに喧嘩けんかを売ったことになるな。それでなくとも、まともな神経をしていたら、婿入りする予定の家の者に高圧的に出られないものだが」
「まあお父様、これでよかったではありませんか。マブロゥ様がコリンヌ嬢を選んでくださったおかげで、マブロゥ様のわが公爵家への婿入りもなくなりましたし」
「……そうだな。よい厄介払いになった」
「やっ、厄介払いだと!」

 ふん、とお父様が鼻を鳴らすと、マブロゥ様が気色ばみました。
 それを無視してわたくしは続けます。

「あ、そうでしたわ。マブロゥ様がバチール男爵家に婿入りすることを陛下が決定されましたの。陛下ご公認で、晴れてコリンヌ嬢と結ばれることになってよかったですわね! お二人とも本当にお似合いですわ!」

 ……ええ、似た者同士で。

「なっ、わたしが男爵家に婿入りだと!? なぜわたしがそんなところに入らねばならん!」

 ろくな特産もないバチール男爵家の婿では、贅沢ぜいたくなんて夢のまた夢でしょうね。まあ、この方のことですから、単に爵位の低い家に婿入りということに憤っているのでしょうが、こちらがそのことを伝える義理などありません。
 ──そして憤慨するマブロゥ様に、わたくしはとてもよい笑顔で言いました。

「まあ! 陛下にもご納得いただいて、愛する方と一緒になることができるのですから、これでよかったではありませんか。おめでとうございます! わたくし、心から祝福いたしますわ!」
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