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「せ、賤民、わたしが賤民だと……っ?」
信じられないというようにバザックがわなわなと身を震わせた。取り巻き達やアマンダも愕然としたようにマティアスを見つめている。
まあ、この反応も無理もない。
この世界において、神に対しての罪人である賤民に対する目は非常に厳しい。プライドだけは高いバザックが耐えられる訳はない。
……だからと言って、同情する気など一切起こらないが。
「そんな巫女姫なんぞ知らん! それなのに、なぜわたしが賤民になるのだ! ……そうか、分かったぞ! マティアス、貴様大神殿からの書状を捏造したな!」
よほど現実逃避したいのか、自分の気に入る結論を出したバザックは勝ち誇ったように口を歪めた。
「──本当に愚かだな」
「うん、真の馬鹿よね」
「な……っ」
精霊王達が侮蔑を浮かべた瞳でバザックを射抜くと、彼は絶句する。
「大神殿の名を勝手に騙れば、それこそ神の怒りに触れる。まさに禁忌だというのに、マティアスがそんなことをする訳もないし、する意味もない」
「だ、だが……! 本当にわたしは巫女姫の顔も知らないんだ! そんなわたしが神の怒りに触れるわけはない!」
すると、アマンダとその取り巻き達以外の者が呆れたように彼を見た。
「……なぜ、この話の流れで巫女姫が誰か分からない。巫女姫はルーシエだ」
フレドリクが侮蔑の瞳で見やると、バザックは驚愕から目を瞠った。
「ルーシエが……馬鹿な! それならなぜ婚約者のわたしが知らないのだ!」
「それを聞きたいのはわたしの方だ。別に隠していた話でもないのに、近くにいたはずの貴様がなぜ知らない。巫女姫であるルーシエに釣り合うように、オランディア国王が貴様を王太子にまでしたというのに」
「な、な……っ!」
真実を知って身を震わせるバザックを無視して、マティアスはフレドリクの言葉に頷く。
「そうだな。王太子だからルーシエへの無礼も許されるなどとは笑わせる。そもそもがルーシエありきの王太子位だというのにな。……そうでなければ、おまえのような愚かな男にそんな重要な地位など授けるわけがない」
「もっとも、それ自体が失敗だったようだな。まさか、こんな広く知られたことをこの男が知らないとは。常識知らずにも程があるだろう」
「まあ、相当な勉強嫌いだったらしいからな。それにしてもあり得ないレベルだが。そもそもルーシエが巫女姫でなくても、普通の知能を持っていたら、公の場で公爵令嬢を婚約破棄などしない」
それに対して、フレドリクは頷いた。
「確かにな。そんなことをしたら、内乱になってもおかしくないからな」
「なっ、なぜ、それで内乱になるのだ!」
心底驚いたというようにバザックが叫ぶ。それをマティアス達は侮蔑のこもった目で見つめた。
「いくら王族とて、有力貴族をないがしろにしていいわけがない。そのようなことをしたら、君主として戴く意味なしと彼らに判断されるのは当然のことだと思うが?」
「そんなわけはない! 国王の権力は絶対だ!」
「……なら、なぜオランディア王家はほとんどの貴族に離反されたのだ?」
フレドリクが純然たる事実を突きつけると、噛みついていたバザックもさすがに二の句が継げなかったらしく、口をパクパクさせる。
「まあ、オランディア王家から見放されたおまえにはもうどうでもよいことだな。──さて、神殿の兵士が待っていることだし、彼らにこの愚か者どもを引き取っていただこう」
マティアスの言葉を皮切りに、様子を窺っていたらしい神官兵達が断罪の場に入室してくる。
「……! 待て、ルーシエに会わせてくれ! 婚約者のわたしがこんな理不尽な目に遭うなど、ルーシエには耐えられないだろう!?」
バザックの厚顔無恥なその言葉に、マティアス達は呆れかえる。まさに、おまえが言うなである。
「……おまえとルーシエの婚約は、そもそもなかったということになった。巫女姫と賤民が婚約などあり得ないからな。……だからと言って、おまえがルーシエにした侮辱はなかったことにはならないが」
「だ、だが、ルーシエに会えば!」
この馬鹿は、彼女に会えさえすれば慈悲でどうにかなると思っているようだが、そうはいかない。
「ルーシエを貶めたおまえに、周りがそれを許すはずもない。それに、他でもないルーシエが、二度とおまえに関わりたくないと言ったんだ。これが覆ることはない」
「……っ!」
頼みの綱を絶ち切られて絶句するバザックを神官兵達が無理矢理立たせた。アマンダや取り巻きたちも同様だ。
「なにをする! 無礼な!」
「やめてよ、乱暴にしないで! わたしはこの世界のヒロインなのよ! こんなことしたら、神様のばちが当たるわよ!」
アマンダの聞き苦しく甲高いその叫びに、マティアス達は唖然とする。
今まさに、彼女達がその神のばちに当たっているのだが……。
しかし、神官兵達は慣れたもので、冷静に対処していた。
「黙れ、この神に対する罪人が。……それでは、わたしどもはこれにてかの地へ向かいます」
「……ああ。後はよろしく頼む」
神官兵達は、巫女姫の兄であるマティアスに対して礼をとった後、わめく罪人達を引っ立てていった。
信じられないというようにバザックがわなわなと身を震わせた。取り巻き達やアマンダも愕然としたようにマティアスを見つめている。
まあ、この反応も無理もない。
この世界において、神に対しての罪人である賤民に対する目は非常に厳しい。プライドだけは高いバザックが耐えられる訳はない。
……だからと言って、同情する気など一切起こらないが。
「そんな巫女姫なんぞ知らん! それなのに、なぜわたしが賤民になるのだ! ……そうか、分かったぞ! マティアス、貴様大神殿からの書状を捏造したな!」
よほど現実逃避したいのか、自分の気に入る結論を出したバザックは勝ち誇ったように口を歪めた。
「──本当に愚かだな」
「うん、真の馬鹿よね」
「な……っ」
精霊王達が侮蔑を浮かべた瞳でバザックを射抜くと、彼は絶句する。
「大神殿の名を勝手に騙れば、それこそ神の怒りに触れる。まさに禁忌だというのに、マティアスがそんなことをする訳もないし、する意味もない」
「だ、だが……! 本当にわたしは巫女姫の顔も知らないんだ! そんなわたしが神の怒りに触れるわけはない!」
すると、アマンダとその取り巻き達以外の者が呆れたように彼を見た。
「……なぜ、この話の流れで巫女姫が誰か分からない。巫女姫はルーシエだ」
フレドリクが侮蔑の瞳で見やると、バザックは驚愕から目を瞠った。
「ルーシエが……馬鹿な! それならなぜ婚約者のわたしが知らないのだ!」
「それを聞きたいのはわたしの方だ。別に隠していた話でもないのに、近くにいたはずの貴様がなぜ知らない。巫女姫であるルーシエに釣り合うように、オランディア国王が貴様を王太子にまでしたというのに」
「な、な……っ!」
真実を知って身を震わせるバザックを無視して、マティアスはフレドリクの言葉に頷く。
「そうだな。王太子だからルーシエへの無礼も許されるなどとは笑わせる。そもそもがルーシエありきの王太子位だというのにな。……そうでなければ、おまえのような愚かな男にそんな重要な地位など授けるわけがない」
「もっとも、それ自体が失敗だったようだな。まさか、こんな広く知られたことをこの男が知らないとは。常識知らずにも程があるだろう」
「まあ、相当な勉強嫌いだったらしいからな。それにしてもあり得ないレベルだが。そもそもルーシエが巫女姫でなくても、普通の知能を持っていたら、公の場で公爵令嬢を婚約破棄などしない」
それに対して、フレドリクは頷いた。
「確かにな。そんなことをしたら、内乱になってもおかしくないからな」
「なっ、なぜ、それで内乱になるのだ!」
心底驚いたというようにバザックが叫ぶ。それをマティアス達は侮蔑のこもった目で見つめた。
「いくら王族とて、有力貴族をないがしろにしていいわけがない。そのようなことをしたら、君主として戴く意味なしと彼らに判断されるのは当然のことだと思うが?」
「そんなわけはない! 国王の権力は絶対だ!」
「……なら、なぜオランディア王家はほとんどの貴族に離反されたのだ?」
フレドリクが純然たる事実を突きつけると、噛みついていたバザックもさすがに二の句が継げなかったらしく、口をパクパクさせる。
「まあ、オランディア王家から見放されたおまえにはもうどうでもよいことだな。──さて、神殿の兵士が待っていることだし、彼らにこの愚か者どもを引き取っていただこう」
マティアスの言葉を皮切りに、様子を窺っていたらしい神官兵達が断罪の場に入室してくる。
「……! 待て、ルーシエに会わせてくれ! 婚約者のわたしがこんな理不尽な目に遭うなど、ルーシエには耐えられないだろう!?」
バザックの厚顔無恥なその言葉に、マティアス達は呆れかえる。まさに、おまえが言うなである。
「……おまえとルーシエの婚約は、そもそもなかったということになった。巫女姫と賤民が婚約などあり得ないからな。……だからと言って、おまえがルーシエにした侮辱はなかったことにはならないが」
「だ、だが、ルーシエに会えば!」
この馬鹿は、彼女に会えさえすれば慈悲でどうにかなると思っているようだが、そうはいかない。
「ルーシエを貶めたおまえに、周りがそれを許すはずもない。それに、他でもないルーシエが、二度とおまえに関わりたくないと言ったんだ。これが覆ることはない」
「……っ!」
頼みの綱を絶ち切られて絶句するバザックを神官兵達が無理矢理立たせた。アマンダや取り巻きたちも同様だ。
「なにをする! 無礼な!」
「やめてよ、乱暴にしないで! わたしはこの世界のヒロインなのよ! こんなことしたら、神様のばちが当たるわよ!」
アマンダの聞き苦しく甲高いその叫びに、マティアス達は唖然とする。
今まさに、彼女達がその神のばちに当たっているのだが……。
しかし、神官兵達は慣れたもので、冷静に対処していた。
「黙れ、この神に対する罪人が。……それでは、わたしどもはこれにてかの地へ向かいます」
「……ああ。後はよろしく頼む」
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