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──なぜだ。なぜ皆わたしの邪魔をする?
これもあの女の奸計の内か。どこまでも忌々しい。
ローゼス公爵家が興した国へ向かおうとして武装したバザックは、青くなった周りの者達に慌てて止められた。
「頼むから馬鹿なことを考えるな! 詫びを入れるのに武装して行くなどとんでもない。それはそうと、ルーシエ嬢には詫びの書状一つでも書いたのか!?」
「……父上に命じられましたので書きましたよ」
あのような性悪にへりくだるなど、嫌で嫌で仕方なかったが、王命には逆らえない。
それにしても、このようにルーシエを過大評価する父上はもう耄碌してしまったに違いない。そうなら早めに父上には隠居してもらわなければな。
そうすれば、わたしが国王でアマンダが王妃。似合いの一対のわたし達はきっと国民に歓迎されるに違いない。──そうして、この大陸を統一して、帝国にまでのし上がるのだ。
バザックが恍惚としてその様子を思い描いていると、国王に「聞いているのか!」と叱責された。
慌ててバザックが視線をやると、国王は怒りの表情で彼を見つめている。
「申し訳ありません。聞いていませんでした」
「弛んでおる! おまえは分かっているのか!? このような重大な事態になったのはおまえの軽率さのせいなのだぞ!」
「そうです。本当にルーシエ様には申し訳ないことをしました。あなたは誠心誠意あの方に謝ってきなさい。……どうか失礼のないようにね」
母である王妃の言葉に、バザックは眉を顰めた。
どうやら母上までもが耄碌されたらしい。
嘆かわしいことだ。あのような女に誑かされるとは。
「バザック、返事はどうした!」
「……はい。承知しました」
再び国王に叱りつけられ、バザックは仕方なしに返事をした。そうでなければ、父である国王の怒りは収まらないと感じたからだ。
騎士団を引き連れてローゼス公爵が興した国へ攻め込むことは無理らしいと知ったバザックは、取り巻き達に私兵を用意するように命じたのだが、どうやら家の者達に止められたらしい。
しかし、どうにか武器や防具を持ち出すことに成功したので、傭兵を雇うことでどうにかなるだろうとバザックは考えた。
下品な傭兵どもと一緒に行動するのはわたしの品位が下がるが……謀反を起こした者達を始末するためならば仕方ない。譲歩しよう。
「バザック様、どうかわたしもお連れください」
武装している彼らを心配そうに見つめていたアマンダが、涙ながらに訴えてバザックの胸に顔を埋める。
バザックはその健気な様子に胸を打たれた。
「しかし、危険なのだぞ? 王家に反旗を翻すような蛮族のいる地だ。そんなところにおまえをとても連れていけない」
「わたしなら大丈夫です! 皆様がわたしを守ってくださるでしょう?」
「もちろんだ! おまえはわたし達が守る」
それを受けて、取り巻き達も次々とアマンダを守ると口にした。
「みんなありがとう! わたし、ルーシエ様にまた恐ろしい目に遭わされるかと思ってちょっと怖かったの。みんなが守ってくれるなら安心ね」
「愛しいおまえにそんな怖い思いをさせたあの女狐には、しっかりと罪の分その身で償ってもらうから大丈夫だ」
「バザック様……、嬉しい」
再び身を寄せてきたアマンダを抱きしめながら、バザックはルーシエの処分方法を考えていた。
──今は父上と母上はあの女に騙されているが、ローゼス公爵家を攻め滅ぼしてみせれば、きっとわたしに感謝するだろう。
「──あんたらかい。俺達を雇いたいというのは」
アマンダが入ってみたいと言った王都にある食堂で、バザック達は傭兵達と落ち合った。
野卑な言葉遣いに慣れていないバザックとその取り巻き達は顔を顰めたが、庶子として男爵家に迎え入れられるまでは平民として暮らしていたアマンダはこのような口調にも慣れているようだった。
「ええ、そうよ。あなた達が悪者をやっつけてくれるのね! どうぞよろしくね!」
なかなかに顔の整った黒髪の野性味溢れる男にアマンダが危機感もなく近づくのを見て、バザックと取り巻き達は慌てて彼女を後ろに隠した。
「アマンダに近づくな!」
「いや、近づいてないし。そっちの姉ちゃんが俺に近づいて来たんだろ」
「貴様! このわたしに口答えするか!」
バザックが怒鳴ると、精悍な顔つきの男と連れの男達が一気に殺気だった空気を発した。
「……別に嫌ならいいんだぜ? どうやら貴族のお坊ちゃんらしいが、他にも大口の依頼はあるんだからな」
どうやら、この精悍な男が傭兵達のリーダーらしい。
この依頼を断られては困るバザックは絶句した。
「ねえ、この人達に頼みましょう? ね、そこの傭兵さんもどうか機嫌を直して?」
上目遣いで見つつ、その手を握ろうとするアマンダをリーダーは避けた。
「貴様、せっかくのアマンダの気遣いを!」
「ああ、悪い悪い。俺は人に触れられるのが駄目なんだ」
にやりと片方の口の端を上げた男に、アマンダが惚けたように見つめる。その様子を呆れたように見る傭兵達にバザック達は気づかなかった。
「……そ、そうなのね。知らなかったの、ごめんなさい」
「ああ。それはそうと早速依頼の話をしようか。俺達になにを依頼したいんだい?」
「……それですが、こちらの依頼人数は十名としていたはずですが、五名しかいませんね」
宰相の子息がこれでは少々厳しいのではないかと、眉を顰めて指摘する。
しかし、リーダーは気にした様子もなく、ああ、と笑った。
「さっきも言ったが、今は大口の依頼が入っていてな。人員を割けるのは俺達だけだった。その分腕の立つやつを集めたし、十人分の働きはするぜ」
「そうですね、それなら……」
納得した様子で宰相の子息は頷く。それに被せてバザックが大声で言った。
「そうだ! 思い上がったローゼス公爵を討つには五名で充分だ!」
その言葉に、密かに彼らの様子を窺っていた客達がざわりとする。
傭兵達の顔が厳しくなったのにも気づかずに、バザックは続けた。
「それから、あの忌々しいルーシエを捕らえてくれ。あの女狐には生まれてきたことを後悔するような拷問を加えた後、公開処刑して、街の広場にその首を晒してやる。それから公爵の嫡男は……」
殺気立つ周囲にも気づかずに、アマンダはバザックに子息を殺すのは可哀想などと言っている。
「──到底、その依頼は受けられないな」
リーダーに底冷えのするような目で射竦められて、バザック達は混乱した。王太子自らの依頼になにが不満なのかと。
「黙って聞いてりゃ、あの姫さんを拷問して処刑だと? あんたら筋金入りの大馬鹿野郎どもだな。俺達に半殺しの目に遭わされないだけ感謝するんだな」
「なっ、なぜだ! 金ならいくらでも払うぞ! 成功の暁には爵位を与えてもいい!」
これ以上話はないとばかりに椅子から立ち上がった傭兵達にバザックは慌てた。
それを蔑みきった目で傭兵達が見ると、リーダーが吐き捨てるように言った。
「どうしようもない阿呆どもが。金でどうにかなると思っているのか。姫さんに仇なすやつの協力なんか死んだってごめんだぜ。──呪われやがれ」
その言葉を残して傭兵達は食堂を後にする。
それを呆けて見ているだけのバザック達だったが、ふと気づくと周りを囲まれているのに気がついた。
「……あんたら、出ていってくれないかい」
食堂の女将が体を震わせて、絞り出すように言った。その後ろに全員の客が怒りを湛えた表情で控えている。
「なんだと、俺達は客だぞ!」
近衛騎士団長の子息が憤慨して威圧的に叫ぶ。しかし、百戦錬磨の女将には通じなかった。
「穢らわしいあんたらの金なんて結構。──痛い目に遭いたくなかったら、さっさと出ていきな!!」
迫力のある声で怒鳴られて、バザック達は竦み上がる。
女将の一声で動き出した客達は、呆然とする彼らを食堂から摘みだした。
これもあの女の奸計の内か。どこまでも忌々しい。
ローゼス公爵家が興した国へ向かおうとして武装したバザックは、青くなった周りの者達に慌てて止められた。
「頼むから馬鹿なことを考えるな! 詫びを入れるのに武装して行くなどとんでもない。それはそうと、ルーシエ嬢には詫びの書状一つでも書いたのか!?」
「……父上に命じられましたので書きましたよ」
あのような性悪にへりくだるなど、嫌で嫌で仕方なかったが、王命には逆らえない。
それにしても、このようにルーシエを過大評価する父上はもう耄碌してしまったに違いない。そうなら早めに父上には隠居してもらわなければな。
そうすれば、わたしが国王でアマンダが王妃。似合いの一対のわたし達はきっと国民に歓迎されるに違いない。──そうして、この大陸を統一して、帝国にまでのし上がるのだ。
バザックが恍惚としてその様子を思い描いていると、国王に「聞いているのか!」と叱責された。
慌ててバザックが視線をやると、国王は怒りの表情で彼を見つめている。
「申し訳ありません。聞いていませんでした」
「弛んでおる! おまえは分かっているのか!? このような重大な事態になったのはおまえの軽率さのせいなのだぞ!」
「そうです。本当にルーシエ様には申し訳ないことをしました。あなたは誠心誠意あの方に謝ってきなさい。……どうか失礼のないようにね」
母である王妃の言葉に、バザックは眉を顰めた。
どうやら母上までもが耄碌されたらしい。
嘆かわしいことだ。あのような女に誑かされるとは。
「バザック、返事はどうした!」
「……はい。承知しました」
再び国王に叱りつけられ、バザックは仕方なしに返事をした。そうでなければ、父である国王の怒りは収まらないと感じたからだ。
騎士団を引き連れてローゼス公爵が興した国へ攻め込むことは無理らしいと知ったバザックは、取り巻き達に私兵を用意するように命じたのだが、どうやら家の者達に止められたらしい。
しかし、どうにか武器や防具を持ち出すことに成功したので、傭兵を雇うことでどうにかなるだろうとバザックは考えた。
下品な傭兵どもと一緒に行動するのはわたしの品位が下がるが……謀反を起こした者達を始末するためならば仕方ない。譲歩しよう。
「バザック様、どうかわたしもお連れください」
武装している彼らを心配そうに見つめていたアマンダが、涙ながらに訴えてバザックの胸に顔を埋める。
バザックはその健気な様子に胸を打たれた。
「しかし、危険なのだぞ? 王家に反旗を翻すような蛮族のいる地だ。そんなところにおまえをとても連れていけない」
「わたしなら大丈夫です! 皆様がわたしを守ってくださるでしょう?」
「もちろんだ! おまえはわたし達が守る」
それを受けて、取り巻き達も次々とアマンダを守ると口にした。
「みんなありがとう! わたし、ルーシエ様にまた恐ろしい目に遭わされるかと思ってちょっと怖かったの。みんなが守ってくれるなら安心ね」
「愛しいおまえにそんな怖い思いをさせたあの女狐には、しっかりと罪の分その身で償ってもらうから大丈夫だ」
「バザック様……、嬉しい」
再び身を寄せてきたアマンダを抱きしめながら、バザックはルーシエの処分方法を考えていた。
──今は父上と母上はあの女に騙されているが、ローゼス公爵家を攻め滅ぼしてみせれば、きっとわたしに感謝するだろう。
「──あんたらかい。俺達を雇いたいというのは」
アマンダが入ってみたいと言った王都にある食堂で、バザック達は傭兵達と落ち合った。
野卑な言葉遣いに慣れていないバザックとその取り巻き達は顔を顰めたが、庶子として男爵家に迎え入れられるまでは平民として暮らしていたアマンダはこのような口調にも慣れているようだった。
「ええ、そうよ。あなた達が悪者をやっつけてくれるのね! どうぞよろしくね!」
なかなかに顔の整った黒髪の野性味溢れる男にアマンダが危機感もなく近づくのを見て、バザックと取り巻き達は慌てて彼女を後ろに隠した。
「アマンダに近づくな!」
「いや、近づいてないし。そっちの姉ちゃんが俺に近づいて来たんだろ」
「貴様! このわたしに口答えするか!」
バザックが怒鳴ると、精悍な顔つきの男と連れの男達が一気に殺気だった空気を発した。
「……別に嫌ならいいんだぜ? どうやら貴族のお坊ちゃんらしいが、他にも大口の依頼はあるんだからな」
どうやら、この精悍な男が傭兵達のリーダーらしい。
この依頼を断られては困るバザックは絶句した。
「ねえ、この人達に頼みましょう? ね、そこの傭兵さんもどうか機嫌を直して?」
上目遣いで見つつ、その手を握ろうとするアマンダをリーダーは避けた。
「貴様、せっかくのアマンダの気遣いを!」
「ああ、悪い悪い。俺は人に触れられるのが駄目なんだ」
にやりと片方の口の端を上げた男に、アマンダが惚けたように見つめる。その様子を呆れたように見る傭兵達にバザック達は気づかなかった。
「……そ、そうなのね。知らなかったの、ごめんなさい」
「ああ。それはそうと早速依頼の話をしようか。俺達になにを依頼したいんだい?」
「……それですが、こちらの依頼人数は十名としていたはずですが、五名しかいませんね」
宰相の子息がこれでは少々厳しいのではないかと、眉を顰めて指摘する。
しかし、リーダーは気にした様子もなく、ああ、と笑った。
「さっきも言ったが、今は大口の依頼が入っていてな。人員を割けるのは俺達だけだった。その分腕の立つやつを集めたし、十人分の働きはするぜ」
「そうですね、それなら……」
納得した様子で宰相の子息は頷く。それに被せてバザックが大声で言った。
「そうだ! 思い上がったローゼス公爵を討つには五名で充分だ!」
その言葉に、密かに彼らの様子を窺っていた客達がざわりとする。
傭兵達の顔が厳しくなったのにも気づかずに、バザックは続けた。
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殺気立つ周囲にも気づかずに、アマンダはバザックに子息を殺すのは可哀想などと言っている。
「──到底、その依頼は受けられないな」
リーダーに底冷えのするような目で射竦められて、バザック達は混乱した。王太子自らの依頼になにが不満なのかと。
「黙って聞いてりゃ、あの姫さんを拷問して処刑だと? あんたら筋金入りの大馬鹿野郎どもだな。俺達に半殺しの目に遭わされないだけ感謝するんだな」
「なっ、なぜだ! 金ならいくらでも払うぞ! 成功の暁には爵位を与えてもいい!」
これ以上話はないとばかりに椅子から立ち上がった傭兵達にバザックは慌てた。
それを蔑みきった目で傭兵達が見ると、リーダーが吐き捨てるように言った。
「どうしようもない阿呆どもが。金でどうにかなると思っているのか。姫さんに仇なすやつの協力なんか死んだってごめんだぜ。──呪われやがれ」
その言葉を残して傭兵達は食堂を後にする。
それを呆けて見ているだけのバザック達だったが、ふと気づくと周りを囲まれているのに気がついた。
「……あんたら、出ていってくれないかい」
食堂の女将が体を震わせて、絞り出すように言った。その後ろに全員の客が怒りを湛えた表情で控えている。
「なんだと、俺達は客だぞ!」
近衛騎士団長の子息が憤慨して威圧的に叫ぶ。しかし、百戦錬磨の女将には通じなかった。
「穢らわしいあんたらの金なんて結構。──痛い目に遭いたくなかったら、さっさと出ていきな!!」
迫力のある声で怒鳴られて、バザック達は竦み上がる。
女将の一声で動き出した客達は、呆然とする彼らを食堂から摘みだした。
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