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女神選抜試験

第8話 ルーカスの告白イベント

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 翌日、マリーはクリスを迎えに来なかった。
 そのことに少し安心してクリスは意気揚々と寮を出た。
 しかし神殿に向かうにつれて、だんだん足どりが重くなってきた。
 神殿でマリーが待ちかまえている可能性が非常に高かったからである。

 いったい、なんだってこんな面倒なことに……。
 事故で一緒に死んだからって、同じゲーム内に転生させるなんて神様もいい加減な仕事すぎる。

 クリスは一つため息をつくと、神殿へと入った。



 ルーカスの部屋の前には、まるで当たり前のようにマリーが待ちかまえていた。

「あっ、おはようクリス」
「……おはようマリー」

 中身がヤンデレさんでも挨拶はする。
 以前の月穂だったら無視していたところだったが、今生では礼儀のうるさいセレスティア家で育ったため、それができなかったのだ。

「ルーカス様ならいないよ」

 嬉々としてマリーが言ってくる。しかし、彼とは昨日した約束がある。

「そう。……ルーカス様、クリスティアナです。魔物討伐のお願いに来ました」

 ドアをノックしてそう言うと、クリスはそこから消えた。



「こ、ここは……」

 いきなり場面が変わってクリスが驚いて見ると、目の前には楽園への転移門が広がっていた。

「おはよう、いきなり驚かせて悪かったね。しかし、わたしの部屋の前にはずっとマリーが張っていたからね。非常手段の転移魔法を使ってしまった」

 後ろから声がかかって、クリスは慌てて振り向いた。

「あ、おはようございます、ルーカス様。そうだったんですの。でも助かりましたわ」
「……昨日の騒ぎは君のメイドから聞いたよ。いろいろと大変だったね」

 すると、ノーラはあの後ルーカスにマリーの告白等を話したのか。
 思わずクリスは赤面するが、しかしこれで話は早くなった。

「あっ、クリス、いたーっ!」

 その叫びとともに全力で駆けてくるマリーにクリスは戦慄した。
 それを感じ取ったのか、ルーカスはクリスの肩を抱いて転移門に向かった。

「それではさっさと中に入ってしまおうか」
「このタラシ! クリスに触らないで!」

 マリーがわめいたが、既に二人は転移門に入った後だった。



「あっ、女神様、水の魔術師様、ようこそいらっしゃいました!」

 転移門から出ると、ハンスが早速二人を出迎えた。

「やあ、今回も魔物討伐に行ってくるよ」
「はい! よろしくお願いいたします!」

 ルーカスがそう言うと、ハンスは本当に嬉しそうに笑った。
 神殿の権威も、魔物討伐で戻りつつあるのだろう。
 クリスは世界地図を展開すると、降りる場所をルーカスとともに決めた。
 クリスの今の状態では倒すのにやっかいな魔物もいるからである。

「それでは行ってきますわ」
「はい! 女神様、お気をつけて!」

 今回の標的はオーガである。
 昨日は比較的弱いゴブリンから入ったが、それはあらかた討伐してしまったため、こうなった訳である。
 しかし、クリス達は落ち着いてオーガを倒した。
 クリスの能力が伸びたため、昨日よりも楽に倒すことができるようになったらしい。
 クリスが浄化の祈りを捧げ終わると、ルーカスは待ちかまえていたように尋ねてきた。

「君のメイドが言っていたが……、君とマリーには前世の記憶があるというのは本当なのかい?」
「本当ですわ。信じていただけないかもしれませんけれど、わたくし前世ではマリーだった男性につきまとわれていましたの。それで、ある日二人とも事故にあって亡くなったのですわ」

 こんな荒唐無稽な話を信じてもらえるか分からないが、クリスは真摯に話した。対するルーカスも真剣な顔で聞いている。

「そうか、それで現世でもマリーは君に執着しているんだな。……しかし、この調子だと育成にも支障が出るだろう。わたしからクライドに話して各魔術師にも通達するようにしておこう」

 それを聞いてクリスは感激した。
 筆頭魔術師のクライドの話なら、どんな荒唐無稽なことでも魔術師達は聞かざるを得ないだろう。

「あ、ありがとうございます」

 クリスが涙ぐみながらルーカスに頭を下げた。
 すると彼との親密度がぐんと上がった。
 う、マリーもやばいけど、ルーカス様もまずい。
 クリスが頭を上げると、ルーカスは攫うように彼女を抱きしめた。

 ──えええええっ!?

 いきなりのことにクリスは慌てる。
 見ると、ルーカスとの親密度は100MAXになっていた。

「つらい思いをしたんだね。だが、これからは君にそんな思いをさせないよ」
「あ、ありがとうございます。で、ですが、あの、離してくださいませ」

 わたしが好きなのはハーヴェイ様だ。今は思い切り片想いだけど。

「離れがたい。君をこのまま攫ってしまいたいよ」

 ルーカス様、それじゃマリーと変わらないよ! とクリスは心の中で叫ぶ。

「そ、そんな困りますわ。わたくし、ルーカス様のことは……」
「分かっているよ。これは完全にわたしの片想いだ。……けれど、君を愛している」

 ルーカスはぎゅっとクリスを抱きしめると、彼女の額にキスを落とした。

「わ、わたくし、わたくしは……」

 対するクリスは壊れたようにそう言うしかできなかった。
 心なし脳内にゲームの告白イベントの音楽が鳴り響いているように思える。

「わたしは君がわたしを見るようになるために努力するよ。……それでは、非常に離れがたいが魔物討伐を続けようか」
「は、はい」

 ようやくこの抱擁から逃れられることに、クリスはほっとした。
 ルーカスの腕から離れる時に足がもつれてしまい、またもやクリスは彼に支えられてしまった。
 しかし、数値はMAXなため、これ以上愛情度も親密度も上がらない。

「あ、ありがとうございます。……さあ、魔物討伐に参りましょう」

 すると、ルーカスが苦笑した。

「君は随分とつれないね。少しマリーの気持ちが分かったような気がするよ」

 そんなことを言われて、クリスはぎょっとした。
 彼までヤンデレ化したらたまらない。

「大丈夫。君を困らせるようなことはしないよ。……たぶんね」

 たぶんってなんですか? とクリスは問いたかったが、恐ろしくて聞けなかった。
 その分、たまった鬱憤をクリスは魔物退治に当てた。
 それに都合良くルーカスも乗ってきたので、討伐は非常に効率よくいったのである。
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