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女神選抜試験
第4話 初イベント
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クリスは寮に帰ると、さっそく魔術師達の資料を取り出して、性格メモを修正テープで消した。
考えなくてもこれは頭に入っているので書かなくて良いことだったのだ。
そして寮母に言ってコピーを取ると、元の資料から顔写真部分を切り取り、シュレッダーで古い文書を証拠隠滅した。
すると、どこから嗅ぎつけたのかマリーが現れた。
危なかった。メモを消しておかなければ見られるところだった、とクリスは胸を撫で下ろす。
「あれ、シュレッダーなんか使って、紙がもったいない。裏が空白ならメモ用紙につかえばいいのに」
「機密事項が書いてあるものをメモ紙に使うのは非常識よ」
いささか機嫌が悪くなってしまったのも脅された身にしてみれば無理はないだろう。
「なに、クリスまだ怒ってるの? いい加減機嫌直してよ~」
そう言われると、いつまでも怒っているのが大人げない気がして、クリスは反省した。
「分かったわよ。でももうあんなことはしないで頂戴」
「……。うん、分かった」
マリー、その間はなんだとクリスは思わずつっこみたくなる。
すると、マリーは突然話題を変えてきた。
「クリスは明日からどうするの?」
「とりあえず、楽園の魔物駆除を優先するわ」
すると、マリーは仕方なさそうにため息をついた。
「そっか。やっぱり魔物はどうにかしないとね」
「ええ。作物を植えるにしても、魔物に食べられたら意味ないもの」
「そうだね。わたしもそれについては少し考えることにする」
「ええ、そうするのがいいと思うわ。じゃあ、わたくしはこれで」
「うん」
マリーは残念そうだったが、夜も遅くなって来ていたので、ひとまずこれで解散した。
翌朝、クリスが身支度をしていると、またもやチャイムが鳴った。
「もしマリーなら、いないって言って頂戴」
クリスとマリーはいわば女神という座を争うライバル同士なのである。
昨日はそうしたが、そう毎日一緒に神殿に行っていたらこちらの育成内容がもろにバレるではないか。
過去の女神候補にも、もう一方の候補の行動を真似した例があって、なるべく避けるようにとの神殿のお達しもあるのだ。
さすがにそこまではないと思うが、こちらの育成内容がバレるのはなんとか避けたかったクリスは居留守を使うことにした。
一度、このことについてマリーによく話して聞かせなければいけないかもしれないとクリスは思った。
「お嬢様、マリー様でした。神殿までご一緒したいとのことでしたが、お嬢様は留守だとお伝えしました」
「ありがとう」
そこでクリスはほっと息をついた。
これで安心して育成できるというものだ。
クリスは身支度を終え、意気揚々と神殿まで出かけた。
ルーカスの部屋に魔物駆除の願いに出向いたのだが、あいにくとマリーと話し中だった。
まさか、タラシ云々をたれこんだわけじゃないよね、と一瞬クリスは不安になる。
できれば育成の妨げになるようなことは避けたかった。
仕方ないので、クリスはハーヴェイの部屋に赴くことにする。
魔物駆除ではしばらく出番がないだろうし、ここで親睦を深めておくのも悪くない。
……いや、本当は彼に会いたくて仕方がなかったのだ。
彼は部屋にいるだろうか。
彼の侍従に取り次いでもらったら、いるそうで、クリスは思わず笑顔になった。
そして長い艶やかな白髪を緩く肩のあたりで一つにまとめた青年がクリスを出迎えた。
「ハーヴェイ様、おはようございます」
ワンピースドレスのスカートの脇をつまんでお辞儀をすると、一拍遅れておはようと返ってきた。
「今日はお話に参りました」
「そうか、それではそちらへ」
ハーヴェイは右手で応接セットを指し示し、クリスに座るように勧めた。
「はい、失礼いたします」
そう言いながらクリスは胸がドキドキしてきた。
なにせ、憧れのハーヴェイと二人きりなのである。これで舞い上がらなかったら嘘だ。
ハーヴェイはソファに座る時に伏し目がちになり、クリスは思わずそれに見とれた。
ああ、ハーヴェイ様、睫が長い!
それに理知的な榛色の瞳もたまらない!
「失礼いたします」
その時、ハーヴェイの侍従がお茶を淹れてクリスに出してきて、彼女ははっと我に返った。
「それではごゆっくりどうぞ」
ハーヴェイに茶を出し終わると、侍従は去っていった。
「育成が始まったばかりだが、楽園の様子はどうだ」
至極事務的にハーヴェイがクリスに尋ねた。
笑えばとても魅力的なのだが、残念ながら普段の彼は無表情だ。
「思ったよりも酷い有様でしたわ。火属性の魔物がはびこっておりました」
「なるほど。すると、ルーカスの出番だな」
「ええ、先程伺った時にはマリーとお話中だったので、魔物討伐には行けませんでしたが、この後でもう一度ルーカス様をお訪ねする予定です」
すると、ハーヴェイが無表情に頷いた。
「そうだな、それがいい」
「はい。わたくし、一刻も早く楽園の窮状を救いたいんですの。あちらの神官もわたくしを慕っている様子ですし、その信頼を壊したくはないですわ」
「……そうか」
すると、ハーヴェイが小さく笑った。
それを見て、思わずクリスは瞳を見開いた。
そして、ハーヴェイが少し待てと言って、書棚の方へ移動する。
──貴重なものをみたよ、ばんざーい!
やっぱりハーヴェイ様、素敵、素敵!
顔を崩さずにクリスは心の中で歓喜する。
少しして戻ってきたハーヴェイは一冊の本を差し出してきた。
表題は、女神育成~異世界の育成と手順~という本だった。
──えっ、こんなに早くこんなレア本もらっちゃっていいの?
確かこの本はゲームでは一冊きりのはずだ。
「どうした? 受け取れ」
「え……でも、大事な本ではありませんの?」
クリスが恐縮すると、ハーヴェイは顔色も変えずに言った。
「本の内容はわたしの頭の中に入っているからもう必要のないものだ。それよりも楽園の窮状を憂えてるおまえに読んでもらった方がその本も役立つだろう」
「ハーヴェイ様……ありがとうございます」
ハーヴェイのゲームでは滅多に見せない優しさに触れて、クリスはじーんとなる。
「必ず、育成に役立ててみせますわ。本当にありがとうございます」
クリスは何度も感謝を込めてハーヴェイに頭を下げた。
「……おまえは女神候補なのだから、もう頭を下げるのはよせ。もっと毅然としていろ」
もっともなことを言われて、クリスは笑顔ではい、と頷いた。
──するとどうだろう。
どういうわけだか、視界の隅にハーヴェイとの親密度を表す青いグラフと愛情度を示す赤いグラフが現れたのだ。
このイベントでハーヴェイ様との親密度が結構上がったみたい。愛情度はまだまだだけど……。
この調子で頑張らないと!
クリスは心の中でガッツポーズしながら、なおもこの後の育成についてハーヴェイに話を聞いてもらっていた。
考えなくてもこれは頭に入っているので書かなくて良いことだったのだ。
そして寮母に言ってコピーを取ると、元の資料から顔写真部分を切り取り、シュレッダーで古い文書を証拠隠滅した。
すると、どこから嗅ぎつけたのかマリーが現れた。
危なかった。メモを消しておかなければ見られるところだった、とクリスは胸を撫で下ろす。
「あれ、シュレッダーなんか使って、紙がもったいない。裏が空白ならメモ用紙につかえばいいのに」
「機密事項が書いてあるものをメモ紙に使うのは非常識よ」
いささか機嫌が悪くなってしまったのも脅された身にしてみれば無理はないだろう。
「なに、クリスまだ怒ってるの? いい加減機嫌直してよ~」
そう言われると、いつまでも怒っているのが大人げない気がして、クリスは反省した。
「分かったわよ。でももうあんなことはしないで頂戴」
「……。うん、分かった」
マリー、その間はなんだとクリスは思わずつっこみたくなる。
すると、マリーは突然話題を変えてきた。
「クリスは明日からどうするの?」
「とりあえず、楽園の魔物駆除を優先するわ」
すると、マリーは仕方なさそうにため息をついた。
「そっか。やっぱり魔物はどうにかしないとね」
「ええ。作物を植えるにしても、魔物に食べられたら意味ないもの」
「そうだね。わたしもそれについては少し考えることにする」
「ええ、そうするのがいいと思うわ。じゃあ、わたくしはこれで」
「うん」
マリーは残念そうだったが、夜も遅くなって来ていたので、ひとまずこれで解散した。
翌朝、クリスが身支度をしていると、またもやチャイムが鳴った。
「もしマリーなら、いないって言って頂戴」
クリスとマリーはいわば女神という座を争うライバル同士なのである。
昨日はそうしたが、そう毎日一緒に神殿に行っていたらこちらの育成内容がもろにバレるではないか。
過去の女神候補にも、もう一方の候補の行動を真似した例があって、なるべく避けるようにとの神殿のお達しもあるのだ。
さすがにそこまではないと思うが、こちらの育成内容がバレるのはなんとか避けたかったクリスは居留守を使うことにした。
一度、このことについてマリーによく話して聞かせなければいけないかもしれないとクリスは思った。
「お嬢様、マリー様でした。神殿までご一緒したいとのことでしたが、お嬢様は留守だとお伝えしました」
「ありがとう」
そこでクリスはほっと息をついた。
これで安心して育成できるというものだ。
クリスは身支度を終え、意気揚々と神殿まで出かけた。
ルーカスの部屋に魔物駆除の願いに出向いたのだが、あいにくとマリーと話し中だった。
まさか、タラシ云々をたれこんだわけじゃないよね、と一瞬クリスは不安になる。
できれば育成の妨げになるようなことは避けたかった。
仕方ないので、クリスはハーヴェイの部屋に赴くことにする。
魔物駆除ではしばらく出番がないだろうし、ここで親睦を深めておくのも悪くない。
……いや、本当は彼に会いたくて仕方がなかったのだ。
彼は部屋にいるだろうか。
彼の侍従に取り次いでもらったら、いるそうで、クリスは思わず笑顔になった。
そして長い艶やかな白髪を緩く肩のあたりで一つにまとめた青年がクリスを出迎えた。
「ハーヴェイ様、おはようございます」
ワンピースドレスのスカートの脇をつまんでお辞儀をすると、一拍遅れておはようと返ってきた。
「今日はお話に参りました」
「そうか、それではそちらへ」
ハーヴェイは右手で応接セットを指し示し、クリスに座るように勧めた。
「はい、失礼いたします」
そう言いながらクリスは胸がドキドキしてきた。
なにせ、憧れのハーヴェイと二人きりなのである。これで舞い上がらなかったら嘘だ。
ハーヴェイはソファに座る時に伏し目がちになり、クリスは思わずそれに見とれた。
ああ、ハーヴェイ様、睫が長い!
それに理知的な榛色の瞳もたまらない!
「失礼いたします」
その時、ハーヴェイの侍従がお茶を淹れてクリスに出してきて、彼女ははっと我に返った。
「それではごゆっくりどうぞ」
ハーヴェイに茶を出し終わると、侍従は去っていった。
「育成が始まったばかりだが、楽園の様子はどうだ」
至極事務的にハーヴェイがクリスに尋ねた。
笑えばとても魅力的なのだが、残念ながら普段の彼は無表情だ。
「思ったよりも酷い有様でしたわ。火属性の魔物がはびこっておりました」
「なるほど。すると、ルーカスの出番だな」
「ええ、先程伺った時にはマリーとお話中だったので、魔物討伐には行けませんでしたが、この後でもう一度ルーカス様をお訪ねする予定です」
すると、ハーヴェイが無表情に頷いた。
「そうだな、それがいい」
「はい。わたくし、一刻も早く楽園の窮状を救いたいんですの。あちらの神官もわたくしを慕っている様子ですし、その信頼を壊したくはないですわ」
「……そうか」
すると、ハーヴェイが小さく笑った。
それを見て、思わずクリスは瞳を見開いた。
そして、ハーヴェイが少し待てと言って、書棚の方へ移動する。
──貴重なものをみたよ、ばんざーい!
やっぱりハーヴェイ様、素敵、素敵!
顔を崩さずにクリスは心の中で歓喜する。
少しして戻ってきたハーヴェイは一冊の本を差し出してきた。
表題は、女神育成~異世界の育成と手順~という本だった。
──えっ、こんなに早くこんなレア本もらっちゃっていいの?
確かこの本はゲームでは一冊きりのはずだ。
「どうした? 受け取れ」
「え……でも、大事な本ではありませんの?」
クリスが恐縮すると、ハーヴェイは顔色も変えずに言った。
「本の内容はわたしの頭の中に入っているからもう必要のないものだ。それよりも楽園の窮状を憂えてるおまえに読んでもらった方がその本も役立つだろう」
「ハーヴェイ様……ありがとうございます」
ハーヴェイのゲームでは滅多に見せない優しさに触れて、クリスはじーんとなる。
「必ず、育成に役立ててみせますわ。本当にありがとうございます」
クリスは何度も感謝を込めてハーヴェイに頭を下げた。
「……おまえは女神候補なのだから、もう頭を下げるのはよせ。もっと毅然としていろ」
もっともなことを言われて、クリスは笑顔ではい、と頷いた。
──するとどうだろう。
どういうわけだか、視界の隅にハーヴェイとの親密度を表す青いグラフと愛情度を示す赤いグラフが現れたのだ。
このイベントでハーヴェイ様との親密度が結構上がったみたい。愛情度はまだまだだけど……。
この調子で頑張らないと!
クリスは心の中でガッツポーズしながら、なおもこの後の育成についてハーヴェイに話を聞いてもらっていた。
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