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1.お粗末な婚約破棄
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「ロクサーナ・エヴァンジェリスタ公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」
「……まあ」
──ギルモア王国。
多くの有力貴族を招いた王宮のパーティ会場で、わたしは突然王太子であるフェルナンド・プラカシュ様に指を差されて宣言されました。
人に指を差すのはマナー違反ですわよ。
それにしても、両陛下がまだ入場されていない時を狙ってことを起こすとは、悪知恵だけは働くらしいですね。
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
なぜこのような公の場で辱められなければならないのか、まったく理解できずにわたしは尋ねました。
するとフェルナンド様はにやりと笑って、近くにいたまあまあ綺麗と言える薄茶色の髪の少女の腰を抱き寄せました。その様子はどう見ても恋人同士にしか見えません。
「まあ、殿下。婚約者がいながら不貞を働いておられたのですか? それは道義的にどうかと思われますが」
わたしがそう言うと、周囲の貴族の皆様からフェルナンド様に冷ややかな視線が送られました。
「う、うるさいうるさい! 小賢しいことを申すな!」
周りの視線に耐えられなくなったのか、フェルナンド様が癇癪を起こされました。……これが一国の王太子というのですから、あきれ果てます。
「わたしはデシリーと出会って運命を感じたのだ。これこそ、真実の愛だ。ただの政略の貴様とはわけが違う」
「はあ、そうですか……」
確かにわたしとフェルナンド様の婚約は、政略以外の何物でもないですが……。
この方は、陛下の決定をいったいなんだと思っているのでしょう。
でもまあ、わたしもこの方は大嫌いですし、いい機会かもしれません。
「それでは陛下に……」
「待て! まだ話は終わっていない! 貴様は、このデシリー・エカピット男爵令嬢を嫉妬心からいじめた! その罪はとうてい許しがたい!」
「はあ……?」
なにを言っているのか、この馬鹿王太子は? まったくもって理解不能です。
いじめるもなにも、そこのご令嬢とは初対面ですが?
「とぼけても無駄だ! 貴様が身分をかさに着て学園でしでかしたこと、すべて証拠が挙がっている!」
「……それはおかしいですね」
「な……っ!?」
フェルナンド様もわたしを嫌っているのは分かり切っていましたが、こんなことも知らなかったとは驚きます。
「わたしは殿下とは違う学園に通っています。それもかなり離れたところですし、デシリー嬢をいじめるのは物理的に不可能です」
「なっ、馬鹿な! なぜ、貴様が同じ学園に通っていない!」
わたしの答えが予想外だったのか、フェルナンド様が泡を食います。
まさかこの方、わたしに冤罪をふっかけようとしたのかしら。まあ、性格の悪いこの方ならやりかねませんね。
普段だったらとうてい言えませんが、今は公の場で辱められている身、この際本当のことを言ってしまっても良いでしょう。
「それは、殿下が会うたびにわたしの容姿を貶め、馬鹿にされるからですわ。ですから、なるべく殿下と距離を取るために今の学園に通うことに決めたのです。同じ学園などに通ったら、どんな嫌がらせをされるか分かりませんもの」
すると、周りの貴族の方たちから、フェルナンド様に侮蔑の視線が送られました。
まさか大貴族の令嬢に、こんな心ない仕打ちを仮にも王太子がしているとは、皆様思いもしなかったのでしょう。
「殿下の嫌がらせの数々はきちんと証人付きで陛下にご報告していますし、されていることがあまりにもひどいので、婚約解消を常々嘆願しておりました。ですから、わたしが嫉妬などありえないのです」
周囲の冷淡な空気を感じ取ったのか、フェルナンド様がごまかすように大声で怒鳴りました。
「くっ、黙れ、黙れぇっ! この豚が! わたしが婚約者にしてやった恩も忘れて勝手なことを言いおって!」
すると、デシリー嬢が嘲笑うようにわたしを見ました。この方、なかなか良い性格のようです。
……まあ、わたしはぽっちゃり体形なので、少しは痩せたほうが見ばえが良くなるんでしょうけれど、でもさすがに豚とののしられるほど太ってません。
「エヴァンジェリスタ公爵家ともども、王家にたかるウジ虫が! さっさとこの場から消え去るがいい!」
フェルナンド様のあまりの暴言に、その場の空気が凍りつきました。
彼はエヴァンジェリスタ公爵家について、本当になにも知らないようです。
「……かしこまりました。それでは、婚約破棄の件は、この会場の皆様方が証人となってくださいますので、陛下と父の話し合いで間違いなく受諾されるでしょう。それから、公の場でエヴァンジェリスタ公爵家とわたしを侮辱したこと、それなりの賠償を請求させていただきます。……それでは」
わたしは踵を返すと、なおもわめくフェルナンド様の声を無視してパーティ会場を後にしました。
──それにしても、これまでの恩をあだで返されるとは。それも、このような侮辱付きで。
お父様は、決して許しはしないでしょう。
陰日向に王家を助けてきた公爵家を敵に回したこと、身をもって知ればいいのです。
脆弱な王朝など、すぐに他の有力貴族にとって代わられる。それが自明の理です。
「……まあ」
──ギルモア王国。
多くの有力貴族を招いた王宮のパーティ会場で、わたしは突然王太子であるフェルナンド・プラカシュ様に指を差されて宣言されました。
人に指を差すのはマナー違反ですわよ。
それにしても、両陛下がまだ入場されていない時を狙ってことを起こすとは、悪知恵だけは働くらしいですね。
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
なぜこのような公の場で辱められなければならないのか、まったく理解できずにわたしは尋ねました。
するとフェルナンド様はにやりと笑って、近くにいたまあまあ綺麗と言える薄茶色の髪の少女の腰を抱き寄せました。その様子はどう見ても恋人同士にしか見えません。
「まあ、殿下。婚約者がいながら不貞を働いておられたのですか? それは道義的にどうかと思われますが」
わたしがそう言うと、周囲の貴族の皆様からフェルナンド様に冷ややかな視線が送られました。
「う、うるさいうるさい! 小賢しいことを申すな!」
周りの視線に耐えられなくなったのか、フェルナンド様が癇癪を起こされました。……これが一国の王太子というのですから、あきれ果てます。
「わたしはデシリーと出会って運命を感じたのだ。これこそ、真実の愛だ。ただの政略の貴様とはわけが違う」
「はあ、そうですか……」
確かにわたしとフェルナンド様の婚約は、政略以外の何物でもないですが……。
この方は、陛下の決定をいったいなんだと思っているのでしょう。
でもまあ、わたしもこの方は大嫌いですし、いい機会かもしれません。
「それでは陛下に……」
「待て! まだ話は終わっていない! 貴様は、このデシリー・エカピット男爵令嬢を嫉妬心からいじめた! その罪はとうてい許しがたい!」
「はあ……?」
なにを言っているのか、この馬鹿王太子は? まったくもって理解不能です。
いじめるもなにも、そこのご令嬢とは初対面ですが?
「とぼけても無駄だ! 貴様が身分をかさに着て学園でしでかしたこと、すべて証拠が挙がっている!」
「……それはおかしいですね」
「な……っ!?」
フェルナンド様もわたしを嫌っているのは分かり切っていましたが、こんなことも知らなかったとは驚きます。
「わたしは殿下とは違う学園に通っています。それもかなり離れたところですし、デシリー嬢をいじめるのは物理的に不可能です」
「なっ、馬鹿な! なぜ、貴様が同じ学園に通っていない!」
わたしの答えが予想外だったのか、フェルナンド様が泡を食います。
まさかこの方、わたしに冤罪をふっかけようとしたのかしら。まあ、性格の悪いこの方ならやりかねませんね。
普段だったらとうてい言えませんが、今は公の場で辱められている身、この際本当のことを言ってしまっても良いでしょう。
「それは、殿下が会うたびにわたしの容姿を貶め、馬鹿にされるからですわ。ですから、なるべく殿下と距離を取るために今の学園に通うことに決めたのです。同じ学園などに通ったら、どんな嫌がらせをされるか分かりませんもの」
すると、周りの貴族の方たちから、フェルナンド様に侮蔑の視線が送られました。
まさか大貴族の令嬢に、こんな心ない仕打ちを仮にも王太子がしているとは、皆様思いもしなかったのでしょう。
「殿下の嫌がらせの数々はきちんと証人付きで陛下にご報告していますし、されていることがあまりにもひどいので、婚約解消を常々嘆願しておりました。ですから、わたしが嫉妬などありえないのです」
周囲の冷淡な空気を感じ取ったのか、フェルナンド様がごまかすように大声で怒鳴りました。
「くっ、黙れ、黙れぇっ! この豚が! わたしが婚約者にしてやった恩も忘れて勝手なことを言いおって!」
すると、デシリー嬢が嘲笑うようにわたしを見ました。この方、なかなか良い性格のようです。
……まあ、わたしはぽっちゃり体形なので、少しは痩せたほうが見ばえが良くなるんでしょうけれど、でもさすがに豚とののしられるほど太ってません。
「エヴァンジェリスタ公爵家ともども、王家にたかるウジ虫が! さっさとこの場から消え去るがいい!」
フェルナンド様のあまりの暴言に、その場の空気が凍りつきました。
彼はエヴァンジェリスタ公爵家について、本当になにも知らないようです。
「……かしこまりました。それでは、婚約破棄の件は、この会場の皆様方が証人となってくださいますので、陛下と父の話し合いで間違いなく受諾されるでしょう。それから、公の場でエヴァンジェリスタ公爵家とわたしを侮辱したこと、それなりの賠償を請求させていただきます。……それでは」
わたしは踵を返すと、なおもわめくフェルナンド様の声を無視してパーティ会場を後にしました。
──それにしても、これまでの恩をあだで返されるとは。それも、このような侮辱付きで。
お父様は、決して許しはしないでしょう。
陰日向に王家を助けてきた公爵家を敵に回したこと、身をもって知ればいいのです。
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