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第八章:騒動再び
第86話 揺るぎない言葉
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そしてカレヴィ達は、おのおのの署名が入った婚約誓約書を執務室にいる宰相のマウリスに届けに行った。
「思ったよりも先王陛下と王太后陛下がお戻りになられるのが早くて良かったです。おかげさまでハルカ様が戻られて早々、婚約復活と相成りました」
「あ、それで一ヶ月時間をくれって言ったんだね」
ハルカとマウリスが、二人で分かったような会話をしている。
「はい。それがこんなに早く実現するとは、誠にめでたいことです」
「……なんだ、ハルカはマウリスに婚約回復を願い出ていたのか。それを俺に知らせないとは二人とも人が悪いな」
カレヴィがそう言うと、ディアルークが間に入った。
「そう言うな。はっきりとしたことが決まるまでは動けなかったんだろう。……ハルカの体の事もあるしな」
そう言われると、カレヴィも引っ込まざるを得ない。
「カレヴィ、こんな肝心なこと教えなくてごめんね」
すまなそうに謝ってくるハルカに、カレヴィはいや、と首を振った。
「しかし、それで陛下には予想外の喜びがございましたでしょう」
マウリスが悪戯の成功した子供のように片目を瞑って言うと、カレヴィは苦笑した。
「確かにそうだが……仕方ないな」
カレヴィはハルカの肩を肩を抱くと、彼女も彼に寄り添った。
マウリスはそれをにこやかに見つめると、
「それではわたしも署名いたしましょう」
とカレヴィとハルカの婚約誓約書に署名した。
「これで元老院も文句の付けようのない誓約書が出来上がったのですね。はるか、おめでとう」
「ありがとう、千花」
ティカから祝福の言葉を受けると、ハルカは可愛らしく頬を染めながら礼を言う。
「両陛下、どうもありがとうございます。マウリスもありがとう。おかげで助かりました」
「念のため、誓約書に強化魔法をかけておきますね。万が一、シルヴィ殿下に破られないとも限りませんから」
「ああ、頼む」
確かに激しいところのあるシルヴィならやりそうだ。カレヴィはありがたくティカの申し出を受けた。
そして、ティカがマウリスの持つ誓約書に向けて短い呪文を唱えると、それがぽうっと明るく発光した。
「これでひとまずは安心です。それではマウリス殿、元老院にこれを提出してください」
「かしこまりました」
マウリスが礼をすると、ティカが彼を元老院まで送ったらしく、その場から姿が消えた。
「……付いていかなくて大丈夫かな」
ハルカは心配そうだ。
向こうにはシルヴィがいるのが気になっているのだろう。
「大丈夫だよ。正式な手順によって宰相が提出するんだもの。あの誓約書は元老院も受け取らざるを得ないものだよ」
「……そっか。なら安心だね」
ハルカはほっとしたようにカレヴィにしがみついた。
「ハルカ」
カレヴィがハルカを抱き寄せて口づけようとしたところで、ディアルークに止められる。
「おい、それは俺達がいないところでやってくれ」
「まあ、口づけくらい、いいじゃありませんか。微笑ましいですわ」
分かっているニーニアの言葉を得て、カレヴィはハルカを抱き直す。
「そうですか、それなら──」
カレヴィがハルカに顔を近づけたその時だった。
「あれはどういうことです!?」
前触れもなしにいきなりシルヴィが執務室に飛び込んできた。見れば、後ろにはマウリスとグリード財政大臣、ヘンリック内政大臣もいる。
「なんだ、いきなり不作法だな」
ハルカへの口づけを邪魔されて、カレヴィがシルヴィに抗議する。
それを無視してシルヴィはディアルークとニーニアにくってかかった。
「父上と母上もどうかしています。一度婚約破棄したハルカを兄王とまた婚約させるなんて」
「だが、こういうのは想い合っている同士がくっついた方が一番いいんだ。後継者を作るにも相性が大事だからな」
ディアルークがそう言うと、後ろにいたグリード財政大臣が前に出てきた。
「その後継者が作れないとあれば、元老院はいつまでも反対いたしますぞ」
「その点はティカ殿の協力を得られるから大丈夫だ。これでなんの心配がある」
カレヴィの言葉にも財政大臣はひるまなかった。
「陛下がハルカ様に溺れすぎていることについても我々は反対です」
するとディアルークがはあーっと大きく息を付いて言った。
「……グリード、相変わらず頭がかてーなあ。習いの期間に相手に熱を上げる事なんて過去にもあっただろうが」
「しかし、離宮建築などありませんでした」
「そこで王の態度を諫めるのがおまえらの役目だろ。安易な婚約反対なんぞ、はなから職務怠慢だ」
「……これはきついお言葉ですね」
ヘンリック内政大臣がディアルークの言葉に苦笑する。
「なんにせよ、婚約は成されたんだ。ここは諦めて退け」
カレヴィがそう言っても二人の大臣は動じなかった。
「……かしこまりました。ですが、元老院はシルヴィ殿下を支援し続けますよ」
これにはカレヴィも思わず顔をしかめてしまった。
「しつこいぞ」
「まあ、お待ちください。この国に利用されるわたしとしては、はるかにとって一番よい嫁ぎ先を条件に出したいですね。今ははるかがカレヴィ王を好いているので、この婚約を認めたわけですが」
ティカがそう発言したことでグリード財政大臣も黙り込んでしまった。
これはハルカの意思を無視して事を進めるな。さもなくば、協力体制を無くすぞと脅しているのも同じことだ。
今ティカに去られたら、ザクトアリアはその巨大な恩恵を受けられなくなる。
「ティカ様、我々を脅す気ですか」
一瞬絶句したグリード財政大臣が果敢に挑んだ。
だが、唯一無二の最強の魔女のティカには効力などない。
「脅すもなにも、事実です。わたしははるかを幸せにするために、この国に協力することを決めたのですから」
そしてそれは、まったく揺るぎのない言葉だった。
「思ったよりも先王陛下と王太后陛下がお戻りになられるのが早くて良かったです。おかげさまでハルカ様が戻られて早々、婚約復活と相成りました」
「あ、それで一ヶ月時間をくれって言ったんだね」
ハルカとマウリスが、二人で分かったような会話をしている。
「はい。それがこんなに早く実現するとは、誠にめでたいことです」
「……なんだ、ハルカはマウリスに婚約回復を願い出ていたのか。それを俺に知らせないとは二人とも人が悪いな」
カレヴィがそう言うと、ディアルークが間に入った。
「そう言うな。はっきりとしたことが決まるまでは動けなかったんだろう。……ハルカの体の事もあるしな」
そう言われると、カレヴィも引っ込まざるを得ない。
「カレヴィ、こんな肝心なこと教えなくてごめんね」
すまなそうに謝ってくるハルカに、カレヴィはいや、と首を振った。
「しかし、それで陛下には予想外の喜びがございましたでしょう」
マウリスが悪戯の成功した子供のように片目を瞑って言うと、カレヴィは苦笑した。
「確かにそうだが……仕方ないな」
カレヴィはハルカの肩を肩を抱くと、彼女も彼に寄り添った。
マウリスはそれをにこやかに見つめると、
「それではわたしも署名いたしましょう」
とカレヴィとハルカの婚約誓約書に署名した。
「これで元老院も文句の付けようのない誓約書が出来上がったのですね。はるか、おめでとう」
「ありがとう、千花」
ティカから祝福の言葉を受けると、ハルカは可愛らしく頬を染めながら礼を言う。
「両陛下、どうもありがとうございます。マウリスもありがとう。おかげで助かりました」
「念のため、誓約書に強化魔法をかけておきますね。万が一、シルヴィ殿下に破られないとも限りませんから」
「ああ、頼む」
確かに激しいところのあるシルヴィならやりそうだ。カレヴィはありがたくティカの申し出を受けた。
そして、ティカがマウリスの持つ誓約書に向けて短い呪文を唱えると、それがぽうっと明るく発光した。
「これでひとまずは安心です。それではマウリス殿、元老院にこれを提出してください」
「かしこまりました」
マウリスが礼をすると、ティカが彼を元老院まで送ったらしく、その場から姿が消えた。
「……付いていかなくて大丈夫かな」
ハルカは心配そうだ。
向こうにはシルヴィがいるのが気になっているのだろう。
「大丈夫だよ。正式な手順によって宰相が提出するんだもの。あの誓約書は元老院も受け取らざるを得ないものだよ」
「……そっか。なら安心だね」
ハルカはほっとしたようにカレヴィにしがみついた。
「ハルカ」
カレヴィがハルカを抱き寄せて口づけようとしたところで、ディアルークに止められる。
「おい、それは俺達がいないところでやってくれ」
「まあ、口づけくらい、いいじゃありませんか。微笑ましいですわ」
分かっているニーニアの言葉を得て、カレヴィはハルカを抱き直す。
「そうですか、それなら──」
カレヴィがハルカに顔を近づけたその時だった。
「あれはどういうことです!?」
前触れもなしにいきなりシルヴィが執務室に飛び込んできた。見れば、後ろにはマウリスとグリード財政大臣、ヘンリック内政大臣もいる。
「なんだ、いきなり不作法だな」
ハルカへの口づけを邪魔されて、カレヴィがシルヴィに抗議する。
それを無視してシルヴィはディアルークとニーニアにくってかかった。
「父上と母上もどうかしています。一度婚約破棄したハルカを兄王とまた婚約させるなんて」
「だが、こういうのは想い合っている同士がくっついた方が一番いいんだ。後継者を作るにも相性が大事だからな」
ディアルークがそう言うと、後ろにいたグリード財政大臣が前に出てきた。
「その後継者が作れないとあれば、元老院はいつまでも反対いたしますぞ」
「その点はティカ殿の協力を得られるから大丈夫だ。これでなんの心配がある」
カレヴィの言葉にも財政大臣はひるまなかった。
「陛下がハルカ様に溺れすぎていることについても我々は反対です」
するとディアルークがはあーっと大きく息を付いて言った。
「……グリード、相変わらず頭がかてーなあ。習いの期間に相手に熱を上げる事なんて過去にもあっただろうが」
「しかし、離宮建築などありませんでした」
「そこで王の態度を諫めるのがおまえらの役目だろ。安易な婚約反対なんぞ、はなから職務怠慢だ」
「……これはきついお言葉ですね」
ヘンリック内政大臣がディアルークの言葉に苦笑する。
「なんにせよ、婚約は成されたんだ。ここは諦めて退け」
カレヴィがそう言っても二人の大臣は動じなかった。
「……かしこまりました。ですが、元老院はシルヴィ殿下を支援し続けますよ」
これにはカレヴィも思わず顔をしかめてしまった。
「しつこいぞ」
「まあ、お待ちください。この国に利用されるわたしとしては、はるかにとって一番よい嫁ぎ先を条件に出したいですね。今ははるかがカレヴィ王を好いているので、この婚約を認めたわけですが」
ティカがそう発言したことでグリード財政大臣も黙り込んでしまった。
これはハルカの意思を無視して事を進めるな。さもなくば、協力体制を無くすぞと脅しているのも同じことだ。
今ティカに去られたら、ザクトアリアはその巨大な恩恵を受けられなくなる。
「ティカ様、我々を脅す気ですか」
一瞬絶句したグリード財政大臣が果敢に挑んだ。
だが、唯一無二の最強の魔女のティカには効力などない。
「脅すもなにも、事実です。わたしははるかを幸せにするために、この国に協力することを決めたのですから」
そしてそれは、まったく揺るぎのない言葉だった。
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