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第七章:これからのこと
第74話 異世界間取引
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「それはとても良い案ですね」
ティカの案にナンジョーは嬉しげに微笑んだ。しかし、ザクトアリアの面々の顔は何か言いたげに歪んでいる。
「ティカ殿、それでは話が違う。ハルカが我が国へ嫁することが約束だったはずだ」
カレヴィが抗議したが、ティカは涼しい顔だった。
「……ようするに、わたしがザクトアリアに貢献すれば問題はないのですよね。ハルカにも選ぶ権利がありますし」
猛然と抗議しだしたカレヴィ達にハルカは焦ったように首を横に振った。
「ち、千花っ、選ぶとか、わたし、そんなたいそうな者じゃないしっ」
「はるか、そんなこと言っちゃ駄目だよ。充分はるかはたいそうな者なんだから」
「そ、そんなこと……」
ティカの言葉にハルカは口ごもった。
「カレヴィ王ははるかを深く愛しているかもしれません。……ですが、今までの経緯をふまえると、自己中心的な愛にしか見えません。わたしはまたはるかが傷つくのを見るのは嫌なんです。それなら、はるかがより幸せになる方向を模索したいです」
それを言われると、カレヴィも黙るしかない。
だが、ハルカが意を決したようにティカに言った。
「でもわたしはカレヴィが好きだよ。いくら千花でも物事をかき回しすぎだよ」
ハルカはティカに心酔しているとばかり思っていた。だが、こうやってハルカがティカに抗議したことにカレヴィは感動した。
「千花がわたしのことを思って行動してくれているのはよく分かっている。だけど、南條さんのことは断るためにこっちに来たんだよ?」
ハルカがそう言うと、ティカは困ったような顔をした。
「うん、そうなんだけど……。ここに来て、この世界でもまともそうな人が出て来たから候補にするのも悪くないかなと思って。同じ日本人だし」
確かに同じ国民なら安心感はあるだろうが、優先権はこちらにある。
「千花のその気持ちは嬉しいけど……ザクトアリアの人達にあそこまで世話になっておきながら、今更のこのこと南條さんを求婚者として見ることはできないよ」
──ハルカ、よく言った。
カレヴィが心の中でそう思っていると、それまで謁見の間ではしゃいでいたナンジョーの子供達が可愛らしい歩調でハルカに近づいてきた。
「おねえちゃんはぱぱのこと、きらい?」
二人に両手を取られ、純真な目で見られたハルカはかなり動揺していた。
「……嫌いじゃないけど、好きでもないよ。……お願いだから困らせないで」
すると、二人の大きな瞳にみるみる涙が溜まっていってハルカが目に見えて焦っていた。
「じゃあ、おねえちゃん、ゆうきとまなのこと、すきじゃないの?」
「二人のことは好きだよ。でも、それとこれとでは話が違うんだよ。ごめんね」
すると、子供達はぼろぼろと大粒の涙を零した。
ハルカはそれですっかりうろたえてしまい、どうしようというように周りを見渡した。するとナンジョーがその傍にやってきて、二人の子供達に視線を合わせて言った。
「ゆうき、まな、パパはもうふられたんだ。だからはるかさんを困らせるのはやめなさい」
ナンジョー、諦めたのか?
カレヴィはそう思って喜んだが甘かった。
「でも、はるかさん。希望がある限りわたしはまだ諦めませんよ」
希望がある限りとはなんだ、カレヴィは思った。
「王様は確か求婚者の末席なんですよね? それならわたしにも希望はあると思いますから」
カレヴィはぐっと言葉につまってしまった。その代わりにシルヴィが答える。
「確かに一番の権利があるのは今現在兄王ではなく、俺です。あなたの出番はありません」
「まあまあ。そんなに角を立てないでくださいよ。結局選ぶのははるかさん自身ですから。まだ猶予期間もあるようですし、ゆっくりと攻略させていただきますよ」
その言葉にハルカが驚いたように瞳を見開く。
「本当に図々しいな、ナンジョー」
「図々しいのは承知で聞きますが、ではあなたがはるかさんの婚約者から外れたらしいのはなぜですか?」
「そっ、それは……っ」
他人に聞かせるにはまずい話を振られて、カレヴィは動揺した。
「それは、カレヴィが嫉妬からハルカを酷く傷つけたからだよ」
アーネス、余計なことを言うなと言おうとしたが、後の祭りだった。
「おじちゃんがおねえちゃんをいじめたの? ひどぉい」
すかさず反応した子供二人がカレヴィをひどい、いじめっことぽかぽか叩いた。
子供二人にはさすがに詳細は分からなかったようだが、ナンジョーは分かってしまったらしく、目が笑ってない笑顔で言ってきた。
「へえ、そうなんですか。それは許し難いですね」
非常に気まずい中で、被害を受けたハルカも妙な汗を流している。
「兄上、子供の前で言うことではないですよ。陛下が許し難いのは、ナンジョーさんに同意ですが」
イアスがアーネスを諌めながらも、半眼でカレヴィを見つめてくる。
身の置き所のなくなったカレヴィはハルカに目で救いを求めた。
……情けないと言えば言え。
「ゆうき君、まなちゃん。わたしなら大丈夫だからそんなことしないで?」
ハルカは子供二人の目線に合わせてひざまずくと、彼らを抱きしめた。
「……おねえちゃん、かわいそう」
幼女の言葉に、ハルカが泣きそうになっていた。
それを見て、本当に罪なことをしたとカレヴィは反省した。
「……はるか……」
ティカが心配そうにハルカを見やる。
すると、ハルカは泣きそうな顔を引っ込めて無理矢理笑顔になった。
ハルカは相当無理しているなとカレヴィは渋い顔になる。周りの者は心配そうな表情だ。
「その……、すまなかったな、ハルカ」
「……もう済んだことだよ。もうこの件でカレヴィは気に病まないで」
そう言った後で、ハルカは気が付いたように言った。
「でも、一応気には止めといてもらえると助かる。二度とあんなことがないためにも」
「……分かった」
それでカレヴィは意気消沈する。
あの時は自分でもどうかしていた。
「……それで話は戻しますが、わたしはこの国と経済協力を直接結べることができるのですか?」
気まずい空気を破るようにナンジョーが言ったことで、カレヴィはほっとした。
「いえ、この場合、わたしを通じての方がよいでしょう。カレヴィ王との軋轢もあるでしょうし」
確かに図々しくハルカに求婚してくるナンジョーに良い印象はない。
できれば直接は関わりたくないという感じである。……まあ、対外用に取り繕うことはできないことはないが。
そのことは隠してカレヴィは発言する。
「……それで、我が国に利益はあるのか?」
「ええ、この国の特産品で充分それはあると思いますよ。逆に南條さんは精密機械等は遠慮していただきたいですが、日本固有の産物をこちらに持ってくることで儲けが出ると思いますし」
それにハルカも同意を示した。
「ああ、そうだね。わたしもいいと思いますよ」
……日本固有の産物とはなんだろう。
精密機械とやらも後でティカに見せてもらおうとカレヴィは思った。
「それなら、早いところ我が社と契約を結んで欲しいですね」
「そうですね、出来ましたら明日にでも。あ、カレヴィ王、事後報告ですけどザクトアリアからも会社を設立させることにしましたから、よろしく。カレヴィ王が代表ですから」
よく分からないが、代表、ということは王のようなものか? それならばまかせておけ。
隣で心配そうに見てくるハルカを宥めつつ、カレヴィは会社というものをやる気満々でいた。
ティカの案にナンジョーは嬉しげに微笑んだ。しかし、ザクトアリアの面々の顔は何か言いたげに歪んでいる。
「ティカ殿、それでは話が違う。ハルカが我が国へ嫁することが約束だったはずだ」
カレヴィが抗議したが、ティカは涼しい顔だった。
「……ようするに、わたしがザクトアリアに貢献すれば問題はないのですよね。ハルカにも選ぶ権利がありますし」
猛然と抗議しだしたカレヴィ達にハルカは焦ったように首を横に振った。
「ち、千花っ、選ぶとか、わたし、そんなたいそうな者じゃないしっ」
「はるか、そんなこと言っちゃ駄目だよ。充分はるかはたいそうな者なんだから」
「そ、そんなこと……」
ティカの言葉にハルカは口ごもった。
「カレヴィ王ははるかを深く愛しているかもしれません。……ですが、今までの経緯をふまえると、自己中心的な愛にしか見えません。わたしはまたはるかが傷つくのを見るのは嫌なんです。それなら、はるかがより幸せになる方向を模索したいです」
それを言われると、カレヴィも黙るしかない。
だが、ハルカが意を決したようにティカに言った。
「でもわたしはカレヴィが好きだよ。いくら千花でも物事をかき回しすぎだよ」
ハルカはティカに心酔しているとばかり思っていた。だが、こうやってハルカがティカに抗議したことにカレヴィは感動した。
「千花がわたしのことを思って行動してくれているのはよく分かっている。だけど、南條さんのことは断るためにこっちに来たんだよ?」
ハルカがそう言うと、ティカは困ったような顔をした。
「うん、そうなんだけど……。ここに来て、この世界でもまともそうな人が出て来たから候補にするのも悪くないかなと思って。同じ日本人だし」
確かに同じ国民なら安心感はあるだろうが、優先権はこちらにある。
「千花のその気持ちは嬉しいけど……ザクトアリアの人達にあそこまで世話になっておきながら、今更のこのこと南條さんを求婚者として見ることはできないよ」
──ハルカ、よく言った。
カレヴィが心の中でそう思っていると、それまで謁見の間ではしゃいでいたナンジョーの子供達が可愛らしい歩調でハルカに近づいてきた。
「おねえちゃんはぱぱのこと、きらい?」
二人に両手を取られ、純真な目で見られたハルカはかなり動揺していた。
「……嫌いじゃないけど、好きでもないよ。……お願いだから困らせないで」
すると、二人の大きな瞳にみるみる涙が溜まっていってハルカが目に見えて焦っていた。
「じゃあ、おねえちゃん、ゆうきとまなのこと、すきじゃないの?」
「二人のことは好きだよ。でも、それとこれとでは話が違うんだよ。ごめんね」
すると、子供達はぼろぼろと大粒の涙を零した。
ハルカはそれですっかりうろたえてしまい、どうしようというように周りを見渡した。するとナンジョーがその傍にやってきて、二人の子供達に視線を合わせて言った。
「ゆうき、まな、パパはもうふられたんだ。だからはるかさんを困らせるのはやめなさい」
ナンジョー、諦めたのか?
カレヴィはそう思って喜んだが甘かった。
「でも、はるかさん。希望がある限りわたしはまだ諦めませんよ」
希望がある限りとはなんだ、カレヴィは思った。
「王様は確か求婚者の末席なんですよね? それならわたしにも希望はあると思いますから」
カレヴィはぐっと言葉につまってしまった。その代わりにシルヴィが答える。
「確かに一番の権利があるのは今現在兄王ではなく、俺です。あなたの出番はありません」
「まあまあ。そんなに角を立てないでくださいよ。結局選ぶのははるかさん自身ですから。まだ猶予期間もあるようですし、ゆっくりと攻略させていただきますよ」
その言葉にハルカが驚いたように瞳を見開く。
「本当に図々しいな、ナンジョー」
「図々しいのは承知で聞きますが、ではあなたがはるかさんの婚約者から外れたらしいのはなぜですか?」
「そっ、それは……っ」
他人に聞かせるにはまずい話を振られて、カレヴィは動揺した。
「それは、カレヴィが嫉妬からハルカを酷く傷つけたからだよ」
アーネス、余計なことを言うなと言おうとしたが、後の祭りだった。
「おじちゃんがおねえちゃんをいじめたの? ひどぉい」
すかさず反応した子供二人がカレヴィをひどい、いじめっことぽかぽか叩いた。
子供二人にはさすがに詳細は分からなかったようだが、ナンジョーは分かってしまったらしく、目が笑ってない笑顔で言ってきた。
「へえ、そうなんですか。それは許し難いですね」
非常に気まずい中で、被害を受けたハルカも妙な汗を流している。
「兄上、子供の前で言うことではないですよ。陛下が許し難いのは、ナンジョーさんに同意ですが」
イアスがアーネスを諌めながらも、半眼でカレヴィを見つめてくる。
身の置き所のなくなったカレヴィはハルカに目で救いを求めた。
……情けないと言えば言え。
「ゆうき君、まなちゃん。わたしなら大丈夫だからそんなことしないで?」
ハルカは子供二人の目線に合わせてひざまずくと、彼らを抱きしめた。
「……おねえちゃん、かわいそう」
幼女の言葉に、ハルカが泣きそうになっていた。
それを見て、本当に罪なことをしたとカレヴィは反省した。
「……はるか……」
ティカが心配そうにハルカを見やる。
すると、ハルカは泣きそうな顔を引っ込めて無理矢理笑顔になった。
ハルカは相当無理しているなとカレヴィは渋い顔になる。周りの者は心配そうな表情だ。
「その……、すまなかったな、ハルカ」
「……もう済んだことだよ。もうこの件でカレヴィは気に病まないで」
そう言った後で、ハルカは気が付いたように言った。
「でも、一応気には止めといてもらえると助かる。二度とあんなことがないためにも」
「……分かった」
それでカレヴィは意気消沈する。
あの時は自分でもどうかしていた。
「……それで話は戻しますが、わたしはこの国と経済協力を直接結べることができるのですか?」
気まずい空気を破るようにナンジョーが言ったことで、カレヴィはほっとした。
「いえ、この場合、わたしを通じての方がよいでしょう。カレヴィ王との軋轢もあるでしょうし」
確かに図々しくハルカに求婚してくるナンジョーに良い印象はない。
できれば直接は関わりたくないという感じである。……まあ、対外用に取り繕うことはできないことはないが。
そのことは隠してカレヴィは発言する。
「……それで、我が国に利益はあるのか?」
「ええ、この国の特産品で充分それはあると思いますよ。逆に南條さんは精密機械等は遠慮していただきたいですが、日本固有の産物をこちらに持ってくることで儲けが出ると思いますし」
それにハルカも同意を示した。
「ああ、そうだね。わたしもいいと思いますよ」
……日本固有の産物とはなんだろう。
精密機械とやらも後でティカに見せてもらおうとカレヴィは思った。
「それなら、早いところ我が社と契約を結んで欲しいですね」
「そうですね、出来ましたら明日にでも。あ、カレヴィ王、事後報告ですけどザクトアリアからも会社を設立させることにしましたから、よろしく。カレヴィ王が代表ですから」
よく分からないが、代表、ということは王のようなものか? それならばまかせておけ。
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