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第十二章:それなりに幸福
第146話 侯爵への措置
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「陛下、酷すぎます! わたしの家は侯爵家なのですぞ! 過去に王妃も輩出した家です!」
バルア侯爵がカレヴィに喰ってかかっている。
……まあ、侯爵が言うとおり家格の高い生まれだから、こうやって文句を付けてくるのも分からないではない。
「……分かっている。しかし、そなたには見せしめになってもらう。一番家格の高いそなたが罰を受ければ、もうハルカと俺の仲を邪魔をする者は出ないだろうからな」
そ、そうか。だとすると、ちょっと可哀想かもしれない。
「──お身内には甘いのに、わたし達には厳しすぎます!」
バルア侯爵が今にも憤死しかねない様子で言ってくる。
確かにカレヴィは身内には甘いかもしれない。
一番重い処置がシルヴィへのガルディア一年遊学だったし。まあ、これも結局はガルディアに断られて話は立ち消えになったんだよね。
カレヴィも痛いところを突かれたようで、一瞬顔を歪ませた。
「でも、貢献度は到底彼らに及ばないでしょう。もちろん家格がずば抜けて高いのもありますが」
わたしがカレヴィをフォローすると、バルア侯爵に憎しみのこもった目でぎっと睨まれた。
「この……傾国の悪女が……!」
その途端、バルア侯爵がわたしに飛びかかろうとして、わたしは身を竦ませた。
けれど、イアスが足止めの魔法を使ってくれたらしく、バルア侯爵は妙な体勢で留まっていた。
「我が婚約者を侮辱した上に危害を加えようとしたな。貴人用の独房に一週間押し込めておけ!」
カレヴィが顔を怒らせてそう言うと、近衛が素早くバルア侯爵に近寄って来て彼を拘束した。
「へ、陛下! わたしはこんなことは認めません! 断じて認めませんぞ!」
「父上……」
サーティスが父親の醜態に顔を歪ませる。
そして、侯爵はわめきながら近衛に引っ立てられていった。
「……カレヴィ、よけいなこと言っちゃったみたいでごめんね」
バルア侯爵の激昂を思い出して、わたしは思わずぶるりと身を震わせながら言った。
「いや、俺は助かったぞ。……確かに俺は身内に甘いかもしれないからな。しかし、侯爵を無理矢理引退させたのは失敗だったか」
すると、サーティスが遠慮がちに口を開いた。
「ハルカ様、父が大変な無礼をいたしまして申し訳ありません。なんと謝罪してよいか……」
「いえ、いいんです! わたしがあなたのお父上を怒らせてしまったようですし。わたしの方こそ申し訳ないです」
とてもすまなさそうな顔をするサーティスにわたしは首を横に振った。
「ともかくサーティスには新たなバルア侯爵として任命する。早速その任に着け」
カレヴィが重々しく言うと、サーティスは臣下の礼をとった。
「はい、かしこまりました。陛下並びにハルカ様には感謝いたします」
カレヴィはそれに頷いて、そして謁見は終了となった。
わたしは謁見の間の控えの間に来ると、先程のバルア侯爵の憎悪の瞳を思い出し、震えが来てしまった。
「ハルカ様……」
思わず自分を抱きしめたわたしをイアスが心配そうに見てくる。
「ハルカ」
カレヴィはわたしを抱きしめると、あやすように背中をさすってくる。
「カレヴィ、本当によけいなこと言ってごめんね」
わたしのあの一言がなければ、バルア侯爵も独房に入らずに済んだのだ。そう思うと一層震えがくる。
わたしの身分は自分が思っているよりも高いのだ。
「ハルカ、大丈夫だ。あれは侯爵の暴走なのだから気にするな」
「うん、でもわたしがあんなこと言わなきゃ、侯爵もあんなに激昂しなかったと思うと……」
侯爵に射殺されそうな目で睨みつけられたことを思いだし、わたしはぶるりと大きく震えた。
「ハルカ様が僕らをかばってくださったことは、とてもありがたいと思っていますよ。ですから、ハルカ様はあまりお気になさらぬようお願いいたします」
「う……ん、分かった……」
イアスにそう言われて、わたしはカレヴィの腕から出て頷いた。
あんまり気にしすぎて、カレヴィやイアスに気を遣われるのも悪いしね。
それからカレヴィは執務に入り、わたしは自分の部屋で久々に漫画描きをすることにした。
そうすると落ち込んでいた心もすっと凪いでいって、あの時バルア侯爵のフォローもしとくんだったなあ、と冷静に思えた。
機会があれば、彼に言い過ぎたことを謝っておこうとアシをしてもらっているイヴェンヌ達に言ったら、彼女達に反対された。
「元々、侯爵はハルカ様によい感情を持っておられないのです。ハルカ様が謝られても無駄だと思いますわ」
イヴェンヌがそう言うと、今度はモニーカが言ってきた。
「陛下の婚約者のハルカ様がそこまでする必要はありません」
それにソフィアが大きく頷いた。
「そうです。ハルカ様は未来の王妃なのですから。あなた様を貶めようとしていた侯爵に謝罪なんてとんでもありませんわ。ハルカ様はもっと毅然としていてくださいませ」
「う、うん」
言われてみればその通りなので、わたしは頷くしかなかった。
あんな憎しみに溢れた目で見られたからって、わたしはそんなことくらいで動揺してたら駄目なんだ。なんといってもわたしは未来のザクトアリア王妃なのだから。
「……ちょっとみんなで休憩しよっか。わたしが買ってきたお菓子とここのチョコ出して」
すると、ソフィアがテーブルの上をてきぱきと片づけ、モニーカがわたしの好きなコンソメ味のポテチと、ザクトアリア産のチョコレートを出してきて、イヴェンヌがコーヒーを淹れてくれた。
うん、相変わらず見事な連携だ。
おしぼりで手を拭いたわたしは、大皿に盛られたポテチを口に入れる。
その途端、いろんな旨みが凝縮された味が口の中に広がった。
「おいしい」
この味、久しぶりだな~。
ザクトアリアのチョコも相変わらず絶品だし。
根が単純なわたしは、おいしいお菓子を食べてそれまでの落ち込みを忘れた。……わたしって結構図太いのかも。
でもまあ、王妃業をやるなら本当に強くならなくちゃね、とこれまたおいしいコーヒーを飲みながらわたしはつくづくと思った。
バルア侯爵がカレヴィに喰ってかかっている。
……まあ、侯爵が言うとおり家格の高い生まれだから、こうやって文句を付けてくるのも分からないではない。
「……分かっている。しかし、そなたには見せしめになってもらう。一番家格の高いそなたが罰を受ければ、もうハルカと俺の仲を邪魔をする者は出ないだろうからな」
そ、そうか。だとすると、ちょっと可哀想かもしれない。
「──お身内には甘いのに、わたし達には厳しすぎます!」
バルア侯爵が今にも憤死しかねない様子で言ってくる。
確かにカレヴィは身内には甘いかもしれない。
一番重い処置がシルヴィへのガルディア一年遊学だったし。まあ、これも結局はガルディアに断られて話は立ち消えになったんだよね。
カレヴィも痛いところを突かれたようで、一瞬顔を歪ませた。
「でも、貢献度は到底彼らに及ばないでしょう。もちろん家格がずば抜けて高いのもありますが」
わたしがカレヴィをフォローすると、バルア侯爵に憎しみのこもった目でぎっと睨まれた。
「この……傾国の悪女が……!」
その途端、バルア侯爵がわたしに飛びかかろうとして、わたしは身を竦ませた。
けれど、イアスが足止めの魔法を使ってくれたらしく、バルア侯爵は妙な体勢で留まっていた。
「我が婚約者を侮辱した上に危害を加えようとしたな。貴人用の独房に一週間押し込めておけ!」
カレヴィが顔を怒らせてそう言うと、近衛が素早くバルア侯爵に近寄って来て彼を拘束した。
「へ、陛下! わたしはこんなことは認めません! 断じて認めませんぞ!」
「父上……」
サーティスが父親の醜態に顔を歪ませる。
そして、侯爵はわめきながら近衛に引っ立てられていった。
「……カレヴィ、よけいなこと言っちゃったみたいでごめんね」
バルア侯爵の激昂を思い出して、わたしは思わずぶるりと身を震わせながら言った。
「いや、俺は助かったぞ。……確かに俺は身内に甘いかもしれないからな。しかし、侯爵を無理矢理引退させたのは失敗だったか」
すると、サーティスが遠慮がちに口を開いた。
「ハルカ様、父が大変な無礼をいたしまして申し訳ありません。なんと謝罪してよいか……」
「いえ、いいんです! わたしがあなたのお父上を怒らせてしまったようですし。わたしの方こそ申し訳ないです」
とてもすまなさそうな顔をするサーティスにわたしは首を横に振った。
「ともかくサーティスには新たなバルア侯爵として任命する。早速その任に着け」
カレヴィが重々しく言うと、サーティスは臣下の礼をとった。
「はい、かしこまりました。陛下並びにハルカ様には感謝いたします」
カレヴィはそれに頷いて、そして謁見は終了となった。
わたしは謁見の間の控えの間に来ると、先程のバルア侯爵の憎悪の瞳を思い出し、震えが来てしまった。
「ハルカ様……」
思わず自分を抱きしめたわたしをイアスが心配そうに見てくる。
「ハルカ」
カレヴィはわたしを抱きしめると、あやすように背中をさすってくる。
「カレヴィ、本当によけいなこと言ってごめんね」
わたしのあの一言がなければ、バルア侯爵も独房に入らずに済んだのだ。そう思うと一層震えがくる。
わたしの身分は自分が思っているよりも高いのだ。
「ハルカ、大丈夫だ。あれは侯爵の暴走なのだから気にするな」
「うん、でもわたしがあんなこと言わなきゃ、侯爵もあんなに激昂しなかったと思うと……」
侯爵に射殺されそうな目で睨みつけられたことを思いだし、わたしはぶるりと大きく震えた。
「ハルカ様が僕らをかばってくださったことは、とてもありがたいと思っていますよ。ですから、ハルカ様はあまりお気になさらぬようお願いいたします」
「う……ん、分かった……」
イアスにそう言われて、わたしはカレヴィの腕から出て頷いた。
あんまり気にしすぎて、カレヴィやイアスに気を遣われるのも悪いしね。
それからカレヴィは執務に入り、わたしは自分の部屋で久々に漫画描きをすることにした。
そうすると落ち込んでいた心もすっと凪いでいって、あの時バルア侯爵のフォローもしとくんだったなあ、と冷静に思えた。
機会があれば、彼に言い過ぎたことを謝っておこうとアシをしてもらっているイヴェンヌ達に言ったら、彼女達に反対された。
「元々、侯爵はハルカ様によい感情を持っておられないのです。ハルカ様が謝られても無駄だと思いますわ」
イヴェンヌがそう言うと、今度はモニーカが言ってきた。
「陛下の婚約者のハルカ様がそこまでする必要はありません」
それにソフィアが大きく頷いた。
「そうです。ハルカ様は未来の王妃なのですから。あなた様を貶めようとしていた侯爵に謝罪なんてとんでもありませんわ。ハルカ様はもっと毅然としていてくださいませ」
「う、うん」
言われてみればその通りなので、わたしは頷くしかなかった。
あんな憎しみに溢れた目で見られたからって、わたしはそんなことくらいで動揺してたら駄目なんだ。なんといってもわたしは未来のザクトアリア王妃なのだから。
「……ちょっとみんなで休憩しよっか。わたしが買ってきたお菓子とここのチョコ出して」
すると、ソフィアがテーブルの上をてきぱきと片づけ、モニーカがわたしの好きなコンソメ味のポテチと、ザクトアリア産のチョコレートを出してきて、イヴェンヌがコーヒーを淹れてくれた。
うん、相変わらず見事な連携だ。
おしぼりで手を拭いたわたしは、大皿に盛られたポテチを口に入れる。
その途端、いろんな旨みが凝縮された味が口の中に広がった。
「おいしい」
この味、久しぶりだな~。
ザクトアリアのチョコも相変わらず絶品だし。
根が単純なわたしは、おいしいお菓子を食べてそれまでの落ち込みを忘れた。……わたしって結構図太いのかも。
でもまあ、王妃業をやるなら本当に強くならなくちゃね、とこれまたおいしいコーヒーを飲みながらわたしはつくづくと思った。
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