王様と喪女

舘野寧依

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第十章 再出発

第118話 再婚約当日

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「アーネス、どうしてシルヴィを焚きつけるような真似をしたの?」

 わたしがそう問うと、アーネスは肩を竦めて答えた。

「ここでシルヴィが潰されるようだと、今後こちらにも波及する恐れがある。わたしはそれを防いだだけだよ」
「確かにシルヴィをガルディアにやっちゃうのはちょっと過激だと思うけど、わたしとカレヴィはこのまま結婚するよ」

 すると、アーネスとイアスが少し眉を寄せた。

「それでも期間いっぱいまでは僕はあがきますよ」

 ……困った。
 ここまで言っても、イアスは過去の悪い例に倣って婚約期間中にわたしに求婚してくるようだ。

「イアスなら、他にお似合いのいい娘がいるよ。……アーネスも」
「残念ながら、君の希望には添えないな。わたしもイアスと同意見だ」

 ええっ、こう言っても駄目なのか。
 いったい、どうしたらいいんだ。

「……今すぐにも諦められる想いならここまで引きずってないよ。ハルカはいい加減、覚悟するんだね」
「……覚悟って」

 カレヴィと婚約しているっていうのに、今更なにを覚悟しろっていうんだ。

「困るよ。わたしはカレヴィが好きなんだし」
「だから、それを変えさせるために我々が活動するんじゃないか」

 えー……、よけいなことはしてほしくないんだけど。

「それって無駄なような気がするけど」

 わたしが冷たく言うと、アーネスはそれをまったく気にしてないかのように答えた。

「それでも君はカレヴィに対して発作持ちだろう? それなら我々にも充分機会はある」
「人の不幸につけこもうなんてサイテー」

 すると、イアスが辛そうな顔になる。
 そんな顔をされると、わたしが悪いようなことをした気分になるけれど、ここははっきり言わなきゃ駄目だよね。

「それなら千花に強化魔法かけてもらうから大丈夫だよ」
「しかし、それをいつまで続けるつもりだい? ティカ殿とて忙しい身だろう」

 う、それを言われちゃうと、とても苦しいんだけど。

「そうだけど、カレヴィの後継者が出来るまでは続けるつもりだよ。千花の許可もあるし。……もちろん、彼女の手を煩わせないように努力していくつもりだけど」
「その努力とは具体的にどういったことをするんだい?」

 アーネスは突っ込みの手を休めない。……仕方ないな。あまり言いたくないことなんだけど。

「まずは手を繋いだり、腕を組んだりだよ」

 すると、アーネスが堪えきれないというように吹き出した。

「兄上」

 イアスが諫めるように呼んだけれど、アーネスはおかしそうに笑うだけだった。

「それは随分と気の長い話だな。わたし達ならそんな苦労もせずに済むだろうに」

 あからさまに笑われてむっとするわたしに、アーネスが自信たっぷりに言ってくる。
 うん、でもね……。

「それは分からないよ。もしかしたら男性全般に症状が出るかもしれないし」
「さっきはシルヴィに抱きしめられて平気だったじゃないか」

 うーん、突っ込みがかなり激しいぞ。
 負けずにわたしはアーネスに応戦する。

「カレヴィに抱きしめられても平気なことが多いよ。おそらく千花の作ってくれた薬が効いているんだと思う」
「それでは、子を作る段階で発作が出る可能性が極めて高いということだな」
「ハルカ様、魔術師の僕なら発作が出ても安心ですよ」

 イアスがアーネスの間をついてくる。イアスがまさかこういうこと言うとは思わなかったからわたしはびっくりした。

「どさくさにまぎれてイアスは口説くな」
「ですが、その点では一番僕が適任でしょう」

 そりゃ、そうかもしれないけどさ……。

「でも、わたしが結婚したいのはカレヴィなの。悪いけど、これから習い事があるからこれでお開きにしていいかな」

 本当は歴史の授業にはまだ時間があるけれど、予習しておきたいしね。
 すると、二人は仕方なさそうに退いた。
 ああ、これで話が一時的にも終わって良かった。

 それで歴史の勉強の時間になると、その先生にもわたしとカレヴィの再婚約の話が耳に入ったらしく、お祝いの言葉をもらった。
 そうか、この話はもう城全体に行き渡っているんだね。じゃあ、礼儀作法のシレネ先生にも伝わっているだろう。
 それで、わたしは歴史の先生にお礼を言うと、高揚した気分のままに、勉強に打ち込んだ。



 晩餐の時間になると、ようやくカレヴィと会えた。
 朝会ったんだからいいだろうって思うだろうけど、彼と再婚約を果たした身としては、本当ならもっとずっと会っていたい。
 でもそれは、この国の政務を乱すことだからしちゃいけないことなんだよね。
 こういう時、一国の王に恋することは難しいなと思う。

「カレヴィ、会いたかった」

 千花の指導に従って、まずカレヴィの手に触れ、大丈夫なのを確認してから彼に抱きつく。
 じれったいけど、発作持ちの身としては仕方ない。

「俺もおまえに会いたかったぞ」

 カレヴィに抱きしめ返されて、わたしはどきどきしながらそれを聞いていた。
 ああ、出来ればこのまま時が止まってしまえばいいのに、とかベタなことを考えながら、わたしはカレヴィの背中に手を回す。
 そしたら、カレヴィがぎゅっとわたしを抱きしめてきた。

 ──ああ、幸せだな。
 発作も出ないし、彼と再婚約出来てわたしは幸せの絶頂だった。

「陛下、お食事が冷めますわ。申し訳ございませんが、それは後になさってください」

 カレヴィにもう少しでキスされるというところで、ゼシリアに止められた。……出来ればもうちょっと待ってほしかった。

 それでわたし達は晩餐に入ったのだけれど、そこでもイチャイチャするのは忘れなかった。

「はい、カレヴィ。あーんして?」

 以前はあんなに恥ずかしかった「はい、あーん」が今はもう恥ずかしげもなく出来る。
 自分のこの壊れ具合が怖いけれど、でもカレヴィは嬉しそうに差し出したフォークから焼いた鶏肉を食べている。

「ほら、ハルカ」

 カレヴィもお返しにわたしに鶏肉を刺したフォークを差し出した。

「うん、ありがとう」

 ぱくっとお肉に食いつくと、なんともいえないジューシーな味が口いっぱいに広がった。

「これ、おいしいね」
「そうか、それは良かった。ハルカ、もっと食べろ」
「うん」

 それでわたしはカレヴィに何度も食べさせて貰っちゃった。
 でも、それじゃカレヴィに悪いからわたしもきちんとお返ししたよ。

「まあ、本当に仲がおよろしくて微笑ましいですわ」
「ええ、本当に」

 周りの侍女達がほおっと溜息を付いてくる。
 うん、この調子でカレヴィに対する拒絶反応なんか撲滅してやるんだから。
 それを理由に、わたしとカレヴィの仲を裂こうとしているアーネス達、今に見ていろ。
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