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第一章:喪女ですが異世界で結婚する予定です
第2話 無茶な要求
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高価そうな馬鹿でかい机の上からとりあえず降ろされたわたしは、目の前の美形に尋問された。
「おまえは誰だ。どうやら移動魔法で現れたようだが、どこから来た」
移動魔法とか言われても、よく分からない。
美形から魔法って言葉が出たってことは、やっぱりこれはファンタジーで、異世界トリップってことなんだろうか?
わたしが言葉を失っていると、美形は「答えろ」と厳しく言ってきた。
目の前の美形は威厳があってとても偉そうだ。
……どうやらわたしは不法侵入者っぽいし、ここはおとなしく質問に答えた方がいいのかもしれない。
「……只野はるかです。日本から来ました」
「タダノハルカ? ニッポン? どこだそれは」
日本で通じないとしたら、じゃあ、これでどうだ。さすがにこれは通じるだろ。……ここがわたしが危惧したとおり異世界じゃなければだけど。
「産業が工業中心の島国です。ジャパンとも呼ばれています」
「……ジャパン? 島国?」
美形男は首を捻ってる。これでも通じないのか。
考えたくないけど、やっぱりここは異世界なんだろうか?
「……恐れながら」
今まで気がつかなかったけど、近くには五十代くらいのおじさんがいた。その人が言葉を発する。
「この方は、異世界召喚されたのでは?」
「しかし、異国の者には見えるが、言葉が通じるぞ」
「ニッポンという国名に聞き覚えがあります。……確かガルディアの最強の女魔術師がその国の出身だったかと」
わたしはおじさんのその言葉に、今の状況も忘れてぽかんとしてしまった。
……そうすると、その最強の女魔術師って、日本人なの?
「……そうか。異世界召喚だというなら、こうも自然に言葉が通じるのは疑問だったが、かの魔術師なら納得できるな」
美形が得心したように頷いた後、ガルディアに問い合わせなければなと呟いた。
「……あの、普通は言葉が通じないものなんですか?」
異世界では言語が共通とかはないんだろうか。
「それはそうだろう。……おまえはまったく行ったことのない大陸で話が通じるのか?」
それが、あまりにも当然の言葉だったので、わたしは納得してしまった。
アメリカに行って、日本語が通じないのと一緒だ。
まあ、稀にハワイとかグアムみたいな観光地の例もあるけど、でもそれは特殊な例で、一般的には他の大陸で日本語は通じない。
「言われてみれば、そうですね」
……でも、なんで召喚されたのがわたし?
こんな枯れた地味女じゃなくて、もっと若くて可愛い女子高生とか召喚すればいいじゃない。
「……しかし、召喚されてきたのは分かったが、おまえはとんでもないことをしてくれたな」
「はい!?」
美形に呻くようにして言われたので、わたしは思わず大きな声で聞き返してしまった。
「おまえは届いた婚約誓約書を滅茶苦茶にしてくれたぞ。あとは署名するだけだったのに、どうしてくれる」
「どうしてくれるって……、再発行してもらえばいいだけでは?」
なんだか嫌な予感をじわじわ感じながらもわたしは答える。
「あれは他国からの書簡だ。そんなものをまた発行してもらうわけにはいかん」
美形にそう言われて、わたしは自分のしたことの重大さに血の気が引く思いだった。
「す、す、すみません!」
これって、わたしがこの人の婚約を駄目にしちゃったってことだよね。
わたしは頭を下げて美形に謝ったけど、こんなことでは許してもらえないだろうな。どうしよう。
ちろりと美形を覗うと、彼は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
「……仕方ない」
美形がそう言ったことで、わたしは許してもらえたのかと思って頭を上げた。
「おまえが代わりに俺の花嫁になれ」
「えええ、嫌ですよ!」
わたしは思ってもいなかった彼の言葉に、飛び上がって拒絶する。
今まで男とは無縁の生活をしていたのに、いきなり花嫁になれってなんなんだ!
「俺だって嫌だ。しかし、誓約より先に婚礼が決まっていたことにしなければ先方に言い訳できん」
「でも、なんでわたしなんですか!? 花嫁にするならもっと若くて綺麗な人がいるでしょう!?」
この人がせっぱ詰まっていることは感じられたけど、やっぱり納得できないよ。
こんな美形なら、地位もありそうだし、女の子もよりどりみどりそうなのに。
「無理矢理そうすることもできるが、いきなり訳も分からず俺の花嫁にされる姫が気の毒だ」
はい? この人今、姫って言った?
姫って、貴族とか王族の女の人だよね?
……そんな人を花嫁に出来る目の前のこの美形はいったい何者なんだ。
「姫って……、あなたの身分はいったいなんなんですか?」
「俺は、ザクトアリア国王、カレヴィだ」
「○ルビー?」
なんとなくポテチが食べたくなってくる名前だな。ちなみにわたしはコンソメ派だ。
わたしは目の前の緊迫した状況を一瞬忘れて、とぼけたことを思う。
「違う。カ・レ・ヴィだ」
すると美形が律儀にゆっくりと発音してくれる。
なんだ、某お菓子メーカーと同じ名前じゃないのか。紛らわしい名前だな。
「……って、国王なんですか!?」
「……おまえ、驚くのが遅いぞ」
カレヴィ王が呆れたように溜息をついたけど、わたしはそんなこと気にしていられなかった。
だって、そしたらわたしは一国の王の花嫁になれって言われてるってことじゃない!
是非とも彼との結婚は拒否したいけど、なんといっても相手は王様。決定権はむこうにある。
それに下手したら不敬罪で投獄されちゃったり、最悪の場合、国家同士の繋がりの機会を駄目にしたってことで、極刑に処されたりするかもしれない。
あああ、まだ死ぬのは嫌だ。死にたくない。
今描いている漫画もまだ完結していないのに。
それなのに、なんでよりによってわたしはそんな人の結婚を滅茶苦茶にしちゃったんだよーっ!
「おまえは誰だ。どうやら移動魔法で現れたようだが、どこから来た」
移動魔法とか言われても、よく分からない。
美形から魔法って言葉が出たってことは、やっぱりこれはファンタジーで、異世界トリップってことなんだろうか?
わたしが言葉を失っていると、美形は「答えろ」と厳しく言ってきた。
目の前の美形は威厳があってとても偉そうだ。
……どうやらわたしは不法侵入者っぽいし、ここはおとなしく質問に答えた方がいいのかもしれない。
「……只野はるかです。日本から来ました」
「タダノハルカ? ニッポン? どこだそれは」
日本で通じないとしたら、じゃあ、これでどうだ。さすがにこれは通じるだろ。……ここがわたしが危惧したとおり異世界じゃなければだけど。
「産業が工業中心の島国です。ジャパンとも呼ばれています」
「……ジャパン? 島国?」
美形男は首を捻ってる。これでも通じないのか。
考えたくないけど、やっぱりここは異世界なんだろうか?
「……恐れながら」
今まで気がつかなかったけど、近くには五十代くらいのおじさんがいた。その人が言葉を発する。
「この方は、異世界召喚されたのでは?」
「しかし、異国の者には見えるが、言葉が通じるぞ」
「ニッポンという国名に聞き覚えがあります。……確かガルディアの最強の女魔術師がその国の出身だったかと」
わたしはおじさんのその言葉に、今の状況も忘れてぽかんとしてしまった。
……そうすると、その最強の女魔術師って、日本人なの?
「……そうか。異世界召喚だというなら、こうも自然に言葉が通じるのは疑問だったが、かの魔術師なら納得できるな」
美形が得心したように頷いた後、ガルディアに問い合わせなければなと呟いた。
「……あの、普通は言葉が通じないものなんですか?」
異世界では言語が共通とかはないんだろうか。
「それはそうだろう。……おまえはまったく行ったことのない大陸で話が通じるのか?」
それが、あまりにも当然の言葉だったので、わたしは納得してしまった。
アメリカに行って、日本語が通じないのと一緒だ。
まあ、稀にハワイとかグアムみたいな観光地の例もあるけど、でもそれは特殊な例で、一般的には他の大陸で日本語は通じない。
「言われてみれば、そうですね」
……でも、なんで召喚されたのがわたし?
こんな枯れた地味女じゃなくて、もっと若くて可愛い女子高生とか召喚すればいいじゃない。
「……しかし、召喚されてきたのは分かったが、おまえはとんでもないことをしてくれたな」
「はい!?」
美形に呻くようにして言われたので、わたしは思わず大きな声で聞き返してしまった。
「おまえは届いた婚約誓約書を滅茶苦茶にしてくれたぞ。あとは署名するだけだったのに、どうしてくれる」
「どうしてくれるって……、再発行してもらえばいいだけでは?」
なんだか嫌な予感をじわじわ感じながらもわたしは答える。
「あれは他国からの書簡だ。そんなものをまた発行してもらうわけにはいかん」
美形にそう言われて、わたしは自分のしたことの重大さに血の気が引く思いだった。
「す、す、すみません!」
これって、わたしがこの人の婚約を駄目にしちゃったってことだよね。
わたしは頭を下げて美形に謝ったけど、こんなことでは許してもらえないだろうな。どうしよう。
ちろりと美形を覗うと、彼は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
「……仕方ない」
美形がそう言ったことで、わたしは許してもらえたのかと思って頭を上げた。
「おまえが代わりに俺の花嫁になれ」
「えええ、嫌ですよ!」
わたしは思ってもいなかった彼の言葉に、飛び上がって拒絶する。
今まで男とは無縁の生活をしていたのに、いきなり花嫁になれってなんなんだ!
「俺だって嫌だ。しかし、誓約より先に婚礼が決まっていたことにしなければ先方に言い訳できん」
「でも、なんでわたしなんですか!? 花嫁にするならもっと若くて綺麗な人がいるでしょう!?」
この人がせっぱ詰まっていることは感じられたけど、やっぱり納得できないよ。
こんな美形なら、地位もありそうだし、女の子もよりどりみどりそうなのに。
「無理矢理そうすることもできるが、いきなり訳も分からず俺の花嫁にされる姫が気の毒だ」
はい? この人今、姫って言った?
姫って、貴族とか王族の女の人だよね?
……そんな人を花嫁に出来る目の前のこの美形はいったい何者なんだ。
「姫って……、あなたの身分はいったいなんなんですか?」
「俺は、ザクトアリア国王、カレヴィだ」
「○ルビー?」
なんとなくポテチが食べたくなってくる名前だな。ちなみにわたしはコンソメ派だ。
わたしは目の前の緊迫した状況を一瞬忘れて、とぼけたことを思う。
「違う。カ・レ・ヴィだ」
すると美形が律儀にゆっくりと発音してくれる。
なんだ、某お菓子メーカーと同じ名前じゃないのか。紛らわしい名前だな。
「……って、国王なんですか!?」
「……おまえ、驚くのが遅いぞ」
カレヴィ王が呆れたように溜息をついたけど、わたしはそんなこと気にしていられなかった。
だって、そしたらわたしは一国の王の花嫁になれって言われてるってことじゃない!
是非とも彼との結婚は拒否したいけど、なんといっても相手は王様。決定権はむこうにある。
それに下手したら不敬罪で投獄されちゃったり、最悪の場合、国家同士の繋がりの機会を駄目にしたってことで、極刑に処されたりするかもしれない。
あああ、まだ死ぬのは嫌だ。死にたくない。
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