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過去
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しおりを挟む『ピンポーン』
玄関のチャイムが、その場の空気を切り裂くように勢いよく鳴った。
『ピンポーン』
再度催促するように鳴るチャイムの音に、僕は慌てて立ち上がった。心臓の音が、やけにうるさい。
「僕、ちょっと見てくる」
リビングを出ると、左手にすぐ玄関が見える。僕は何も考えずにそのドアを開けた。ドアが開いたのとほぼ同時に、二種類の声がする。
「わかちゃん」
「こんにちは」
こんにちは、と僕もそれに応えた。
「うわ、でかい!」
「わかちゃんの友達?」
小さな二人に囲まれて、四谷はめずらしく困惑した様子だった。
「若葉、誰」
こどもと四谷、なかなか意外性のある組み合わせだ。
「緑君と桃ちゃん。……いとこです」
「いとこ?」
「うん。近所に住んでる」
そこまで説明すると、桃ちゃんが行儀のよい生徒のようにぴしっと挙手をした。
「あのね、わかちゃん。またお母さんお仕事になっちゃったから、わかちゃんちにいなさいって」
「わかちゃんにメールした、って言ってたよ」
緑君の言葉を受けて携帯を見ると、確かにそうした旨のメールが届いていた。緑君と桃ちゃんの両親の仕事の都合上、彼らを預かることは日常的な出来事だったが、まさか四谷がいるときに来るとは思わなかった。小学生一年生の二人は、四谷をじいっと凝視している。
「わかちゃん」
「何?」
「もも、このおにいちゃんと遊びたい」
桃ちゃん、それはチャレンジャー過ぎると思う。戸惑いながら四谷を見ると、彼はためらいなく桃ちゃんを抱き上げた。
「遊ぶって、何すんの?」
四谷が至近距離で尋ねると、桃ちゃんが頬を赤く染めた。
その数分後、桃ちゃんと緑君に挟まれた四谷は。
「何それ? カバ?」
「ちげーよ。どう見ても馬だろ」
「えー? 見えないよ」
なぜか、ほのぼのとイラストでしりとりをしていた。緑君が描いた意外と上手い「エッフェル塔」の隣に、馬だか牛だかカバだか分からない謎の生き物が描かれている。後ろから覗き込んで、思わず僕も笑ってしまった。四谷が眉をしかめて僕を睨む。
四谷との間にあった奇妙な空気が消えたことに、僕は内心ほっとしていた。四谷に対する感情は、流動的だ。嫌いと嫌いじゃないを行き来して、決してひとつの場所に収まってはくれない。
キスされて、嫌いだと思った。でもまた、分からなくなってくる。
「ねえ、わかちゃんも描いて」
「あ、うん」
桃ちゃんに頼まれて、桃ちゃんが描いた「マイク」に繋がるように「クマ」の絵を描く。
「わかちゃんのくまさん、かわいいね」
まあ、四谷のよりは。そう思ったのが顔に出ていたらしい。四谷にぺしっと頭をはたかれる。
「むー……」
仕方ないじゃないか。本当のことなんだから。
「りゅうせいくん、わかちゃんをいじめちゃだめだよ」
緑君の注意に、はいはいと適当に頷く四谷だった。
「あら、お友達?」
母が帰宅したとき、僕と四谷はちょうどちびっこの学校の宿題に付き合っているところだった。四谷は母と目が合うと、「初めまして」と丁寧に頭を下げた。
「同じクラスの、四谷と言います」
「ああ、前に若葉が言ってた……」
「あ、あのっ! えっと……四谷、うちでごはん食べてってもらってもいいよね?」
四谷の話を母にしていたことを本人には知られたくなくて、僕は慌てて二人の間に割って入った。
「え? ええ、もちろん」
「四谷も、それでいいよね」
「若葉が、いいなら」
くすくすと四谷が笑う。その楽しそうな表情を見て、いつか彼を思いっきり焦らせてみたいものだなと思う。
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