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しおりを挟む白雪がいなくなった後、なあ瀬戸さん、と彼女は俺に言った。
「瀬戸さん、兄さんのことどう思ってはるの?」
唐突な問いに一瞬息を呑む。すると、彼女は大人びた笑みをして見せた。
「兄さんは、何にも分かってへんのやろ?」
確かに顔立ちは似ているが、内面は随分違うようだった。
「そうだね」
「瀬戸さんも大変やね」
「そんなに、分かりやすかった?」
ううん、と彼女は首を横に振る。
「ただ、わたしが。兄さんに関することは、人よりよく分かるだけやと思う」
「……そっか」
彼女の声に嫌悪感は感じられなかった。そのことに、少しだけ安堵する。
「はっきり言葉にしないと、兄さんには分からへんのやろうなあ」
「だな」
「ええの?」
「まだ、分からない」
彼女は白雪と似た表情で微笑むと、そっとSNSのIDを教えてくれた。
***
本屋に特別用があったわけではない。特に意味もなく漫画を買って服屋に戻ると。
「それは無理やろ」
「何で?」
「そんなんやったら、気づかれへんよ」
「そうかな」
話の内容は分からないが、さらに打ち解けた様子の二人がいた。
「ああ、兄さん。お帰り」
「ただいま……」
「本、買えたか」
「え、あ、うん。ごめんな、任せっきりで」
少し決まり悪い気がして、声が小さくなってしまう。
「いいよ、別に。もう一通り服は見終わったし。後は、バッグだっけ?」
瀬戸が問いかけると、妹は頷いた。
「ん。そっちはすぐ終わるから、二人ともこの辺で待ってて」
「分かった」
瀬戸と僕は、店の近くの自販機前で妹を待つことにした。
「……瀬戸」
「何?」
──何か、仲よすぎやないか?
いや、言えへんな。
「……何か飲む?」
「あー、うん」
「奢ったるわ。今日のお礼」
「そう? じゃあ、コーラ」
投入したコインの音がやけに高く、鋭く響く。
「どーぞ」
「ありがとう」
瀬戸にコーラを手渡し、彼の隣に座り直す。
聞けばいいやんか。何話してたん、って。あんまり仲良さそうやったから、嫉妬しそうになったわ、って。
冗談みたいに、言えばよかったのに。なぜか僕は上手くそれが言えなくて、黙って自分用のミルクティーに口をつけた。
「白雪」
「ん、何?」
「何か……どっか調子悪い?」
「や、そんなことない。大丈夫」
「具合悪い、とかじゃない?」
「ほんまに、大丈夫やって」
「……なら、いいけど」
引いてくれたのかと、そう思った次の瞬間。
「白雪」
「うん?」
「じゃあ──何を、隠してる?」
そうきたか、と妙な鋭さに思わず感心してしまう。
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