Are you my……?

広瀬 晶

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「……何ていうか、いちいち優しいというか……」   
 言葉がどんどん小さくなってしまうのは、受け手の側の問題だという自覚があるからだ。彼のちょっとした言動にも甘さを感じ取るのは、好きだからに他ならない。
「確かに、恋をしているときは判断が鈍るものだが。……それだけではないような気もする」
「え?」
「若葉の誤解を解くためとはいえ、男と付き合っているだなんて嘘をつくか? 君に甘いというのは、ある意味事実かもしれない」
「うーん……」
 彼の言う通り、街中で演じるにはリスクのある役だ。
「でも元々男性とお付き合いされていたようなので、比較的ハードルが低かったのかも」
「かもしれないが。ゲイであることをオープンにしているわけではないのなら、誰かに聞かれるかもしれない場所で、普通はあんなこと言わない」
「そう、ですね……」
 彼は僕に好意を持ってくれているだろうとは思う。 そうでなければ、兄と再会した後も同居を継続したりはしないだろう。ただ、僕が彼に対して抱いているものとは好意の種類が違う。秘密を共有したものどうしの、結束のようなもの。僕が欲しいのはそれだけじゃない。
 眉尻を下げた僕に、四谷さんは言った。
「もう、諦める気でいるのか」
 飲み物の追加注文をして、空になったジョッキをテーブルの端に寄せると、四谷さんは僕の目を見据えた。
「優しくされて困る、ってことは、そういうことだよな。いいのか、それで」
 からかうときの目ではなかった。彼は真剣に、僕のことを考えて言ってくれている。
「よくは、ないかもしれません。でも、彼と付き合う自分というのが想像できないんです」
 想像し得る未来は、実現までのルートをも思い描くことができる。まったく想像し得ない未来には、どうすればたどり着けるのかさえ分からない。
「年下のイケメンと付き合う、という未来は、自分には難易度が高いです……」
 俺も、と隣から少し弱い響きの声がした。
「……俺も、想像できてなかった。若葉と今みたいに付き合えるようになるとか、思ってなかった」
「四谷さんが?」
 その声の感じは、ちっとも彼らしくなかった。
「俺は、それくらいのことをしてきたから」
 僕からしたら、とてもしっくり来る二人に見えていたのに。そうではないのだと彼は言う。
「たぶん最初から、気になっていた。高校で同じクラスになったときから、ずっと。それで、若葉が女ではなく男が好きだと知ったとき。そこにつけ込んだ」
 それが身体の関係を持ってしまった経緯らしい。何というか、その。
「……思いの外、不器用ですね」
「そうだな」
 大抵の相手は軽く落とせそうな彼でさえ、たったひとりの相手に振り回される。本気の恋愛は難しい。
「村上」
「はい」
「別に、諦めることが悪いとは言わない。ただ、なるべくなら後悔はしてほしくない」
「……はい」
 様々な感情が含まれた声を聞いて、僕は頷いた。やわらかな照明の光の下で気の置けない相手と話していると、もう少しだけ、自分の恋心と向き合ってみようかという気持ちになる。一歩くらい、足を踏み出してみてもいいのかもしれない。
「振られたら慰めてやるから」
 優しく響く声に、よろしくお願いいたしますと頭を下げた。
 
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