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しおりを挟む「また、けんかですか」
呆れつつ彼を見上げると、そうじゃないと否定される。
「今は、向こうの仕事が忙しくて。会えない」
「四谷さんが何かやらかしたのかと思いました」
「そんなわけないだろ」
どうだか、と僕は心の内で苦笑した。四谷さんのお相手は男性だ。同じ職場で働き出してから、僕はそのことを知った。
高校のときからずっと好きで、告げられないまま大人になってしまって、うっかり身体の関係を持ってしまって、今に至っている、らしい。
うっかり、って何だ、うっかりって。と経験のない自分としては激しく突っ込みたいところだが、いろいろと怖いので訊かないでおく。
「まだ、お付き合いをしている、わけではないんですよね」
「俺はそのつもりだが、相手がそうは思っていない」
そのひとと関係を持つ以前の四谷さんは、いわゆる取っ替え引っ替えの状態だったそうなので。相手に信用されないのも、無理はないと思う。
「自業自得というやつでしょうか」
客観的に発言すると、ぺちっと頭を軽くはたかれた。
「……そっちは?」
ズリを咀嚼しているところに話しかけられ、咄嗟に返事ができずにいると。
「村上は? って訊いてる」
問いを、重ねられた。
「そうですね。その方面で僕からお話しできるようなことは、特にないですね」
何しろ、今まで誰とも付き合ったことがないのだ。恋愛について語れることが何もない。恋愛経験がないことは飲みの席で流されるままに話してしまったので、四谷さんも知っていることだ。
「彼女が欲しいとか、思ったりはしない?」
「どうでしょう……。よく、分かりません」
まったくそういう気持ちがないわけではない。しかし恋人がいなくとも、気の合う友人やお人好しの上司で十分代替できるのではないかと思ってしまう。
そんなような答えを返すと、四谷さんが吐息混じりに笑った。
「俺は、他の関係では代替できない存在のことを、恋人と呼ぶのかと思っていたが?」
「……何だか、とても狡いロジックのように聞こえます」
そうか、と彼は睫毛を伏せてまた笑った。
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