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私のかわいいお嫁さん(公爵視点)

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 この季節、朝は酷く冷え込む。
 太陽も昇らぬ時間に、寒さを感じて僅かに覚醒する。
 傍にあった温かなものを引き寄せ、ホッと息を吐く。
 まだ起きるには早すぎるが、二度寝なんぞしたら寝坊しそうな気がしたので、このまま深く寝入らずに、うとうとすることにした。

 それにしても、温かい。とても良い香りもするし、とても柔らかくて、手放したくなくなる。
 身に寄せたものを、しっかりと抱きしめた。

 昔から冷え性で、布団を何枚被っても、なかなか寝入ることができなかったのだ。
 元々、周囲を警戒して、常に眠りが浅いことも安眠出来ない原因の一つであったが。
 ここ最近、家に居る時はしっかりと眠れるようになっていた。
 その理由は――

 そこで意識がはっきりと覚醒し、カッと目を見開く。
 腕の中に抱いていたのは、ユードラさんだった。
 自分でしたことなのに驚いて、そのまま硬直してしまう。

 彼女と結婚し、こうして一緒に眠るようになって一ヶ月あまり。
 正確に言えば、任務で家を空けることがあったので、共に過ごした回数は指折り数える程度。

 なので、この状況にいまだ慣れていないのだ。

 ユードラさんはすうすうと規則的な寝息をたて、よく眠っているようだ。
 まだ周囲は薄暗く、寝顔が見られないことを残念に思う。

 抱きしめていた腕の力を弱めれば、ユードラさんは寝返りを打った。
 背中を向けていた状態からこちらに顔を向け、ぐっと接近してくる。

 まず、むぎゅっと押し付けられたのは、彼女の豊かな胸。

 これは、本当に仕方がない。
 人体において……その、女性の御乳というものは、前方に突出しているものなので、こうして近づいたら当たってしまうのは必然なのだ。

 背後はすぐ壁で、後退もできなかった。
 なので、今の体勢から逃れることは不可能で……。

 と考えつつも、嬉しい悲鳴をあげていた。

 だがしかし、今は何も出来ないので、若干辛くなる。
 ユードラさんの体を離さなければならないのに、離れたくない。なんだろうか、この二つの感情のせめぎ合いは。

 いつの間にか、薄明りがカーテンの隙間より差し込んできていた。

 そろそろ起床せねばと、彼女の肩を軽く押そうとした。すると、ぎゅっと私の寝間着を掴んでくる。

 起きなければならないのに、こんなことをしてくるなんて……!
 とんでもない小悪魔だと思った。
 このまま、惑わされてみたいと一瞬考えたが、父が家にいることを思い出し、すぐに我に返る。

 それにしても、ユードラさんは超絶可愛い。
 寝顔を覗き込めば、思わず溜息が出てしまう。
 どうしてこんな愛らしい人と結婚できたものか。奇跡としか言いようがない。

 カチリと、時計の針が動く音が聞える。とうとう起床の時間となってしまった。
 ユードラさんの体をころりと転がし、起き上がる。
 素早く身支度を整え、顔を洗い、歯を磨く。
 出発の間際、ユードラさんの顔を見てから行こうと思う。

 彼女はまだ、ぐっすりと眠っていた。
 その寝顔は、いつまでも見ていたくなる。

 可愛いなあ……本当に、可愛い。

 無防備な寝姿を眺めていたら、突然ある衝動に襲われる。

 ――なんだかとてもキスをしたい。

 我慢出来そうにないので全力で気配を殺し、ユードラさんの唇に口付けする。

「――んん……むっ?」
「!」

 すると、まだ離れていないのに、目を覚ますユードラさん。

 眠り姫か! いやいや、そうじゃなくって。

 大変焦った。口付けの最中だったので、言い逃れもできない。
 慌てて離れ、その場に素早く平伏をした。

「……あの、レグルスさん、朝から何をやっているのでしょうか?」
「す、すみません、すみませんでした、つい出来心が暴走してしまい!!」
「いえ、どうして床に頭を付けているのかと」 

 追及は、眠り姫へのキスについてではなかった。
 顔を上げれば、呆れ顔のユードラさんと目が合う。

「昨晩は、帰って来ていたのですね」
「あ、はい」
「まったく気づきませんでした」

 一週間の長期任務から帰って来たのが、昨晩の夜中だった。
 新婚なのに、酷い仕事を押し付けてくれたものだと、伯父を恨めしく思っていた。
 任務は滞りなく終了する。
 帰宅後、風呂に入り、軽食で少しだけ腹を満たしているところに、父がやって来たのは大変驚いた。世にも恐ろしいお化けかと思った。
 あとからやって来たラウルス君曰く、心配して顔を見に来たらしい。本当、勘弁してほしいと思った。

 その後、部屋に戻れば、ユードラさんが私の部屋で一人眠っていたので、大変癒されてしまった。
 起こしてはいけないと、慎重になって布団に潜り込んでいたのだ。
 結婚した喜びを、噛みしめた瞬間である。

 そんな彼女は、眉尻を下げながら話しかけてきた。

「今日も、お仕事に行かれるのですね」
「ええ、夕方には帰れると思います」
「お休みだったはずですが」
「すみません」

 連続勤務だったので休みたいところではあるが、長い間隠密機動局の本部を離れていたので、重要書類やら何やらの確認をしなければならない。

「今日、私は休みなのですが、一緒に行ってもいいですか?」
「ユードラさんさえ、よろしければ」

 ユードラさんも隠密機動局の一員なので、お仕事は結婚後も手伝ってもらっている。
 勤務表作りは秘書である彼女の仕事なのだが、あまり休みが合う日はない。
 ユードラさんは、きちんと公私を分ける人だった。

「待ってくださいね、すぐに着替えますから。ちょっと後ろ向いていて下さい」

 ユードラさんは椅子にかけてあったワンピースを掴み寝台に広げると、豪快に寝間着を脱ごうとする。

 私は即座に近くに置いてあった馬の頭部を被り、何も見ていませんと澄まし顔をしていた。

 そんな私をユードラさんが振り返り、一言。

「……レグルスさん、馬(それ)、しっかり見えていますよね?」

 彼女の質問に対し、素直に頷くことになった。

 ――とまあ、このようにして私達の幸せな結婚生活は、緩やかに過ぎていく。
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