104 / 142
治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜
第103話
しおりを挟む「いや……もうそういうのは何とかしないと駄目だ」
戦闘を続ける傀儡たちと毒人形に向けて手のひらを向けた。傀儡たちは巻き込んでも問題ない。確実にあの毒人形を燃やす。
"イメージするのはカトレアだ。あいつは嫌いだがあいつの魔法は確かに精錬されていて強かった。世界最強の魔道士と呼ばれるだけはあった"
レインは魔力を手のひらに集める。手の方がじんわりと熱くなるのを感じる。レインは少しだけ目を閉じて頭の中で思い浮かべる。
"カトレアが使っていた魔法をイメージしよう。あとは料理で使ってる火を大きくする。アイツを焼き尽くすんだから火力を最大にする。
……飛ばすとか分からないから投げつけよう。炎を丸い球体に押し込て投げつける!"
そしてレインは目を見開いて命令を出してから魔法を叫ぶ。
「ヴァルゼル!そいつを押さえ付けろ!」
レインの声にヴァルゼルと傀儡たちは振り向く事なく遂行する。一斉に飛びかかり毒人形にしがみ付く。防御を捨てた為、すぐに傀儡たちは両断されていく。
しかし数秒稼げれば十分だった。頭の中で作り上げた炎の魔法に集めた魔力を全て投入する。
「火球!!!」
レインは腕を振りかぶって投げる動作をする。そしてレインの言葉に反応するように毒人形と傀儡たちの足元から炎が噴き出した。
それは渦となって毒人形と傀儡たちをまとめて包み込み空へと昇る。
その場には炎によって形作られた柱が完成し、上空にあった雲すら吹き飛ばした。
その時の天候は、やや曇りから晴天へと切り替わり、周囲に眩しいほどの光と茹だるほどの熱気をばら撒いた。
炎の中でヴァルゼルたちが消滅し、召喚が解除された気配を感じた。ただ毒人形の気配は分からない。
「………………思ってたのと違う」
"アンタは魔法使わない方がいいね。センスが無さ過ぎる。何が火球だよ。球体要素ないじゃん"
うるさいと言いたかったが、事実なので何も言い返さない。言い返すこともできない。
本当に適性がない事を自ら証明する形となってしまった。レインはただ天まで燃え上がる炎の柱を眺めるしかなかった。
「……この炎ってどうやったら消えるんだ?」
"その魔法を発動するために使った魔力が無くなったら消えるよ。だからその内消え……アンタどれだけ魔力込めたの?"
「魔力にどれだけ込めるとかあまり無いだろ?とりあえずーこう……ガッとやった」
"アンタ……やっぱり馬鹿なんだね"
「馬鹿なのは自覚してるが改めて言われると悲しくなるな。……まあ俺が出したもんなら俺が剣とかで斬れば何とかなるんじゃないの?」
レインはもう一度剣を召喚して構える。そして力を込めて炎の柱を横に両断した。
斬った瞬間にレインの方にも熱気が押し寄せたが耐えられるレベルだった。炎の柱は両断した所から消失していき数秒後には完全になくなった。
それなのにまだ周囲に熱を残している。それだけであの炎の火力が相当だったと予想できた。
「死んだ……よな?」
レインは油断する事なく警戒を続ける。あの毒人形には魔力をそこまで感じなかった。
つまりレインの目から逃れる事が可能だ。もし逃げていたとしたら追う事は出来ない。
ただあの状態から抜け出して逃げられるほどアイツは速くないと思いたい。
「レインさん!!」
その時、後ろから声をかけられた。大きな魔力が近付いている事には気付いていたが誰なのかは分かっていた。
「……ニーナさん」
振り返るとニーナがいた。防具が施された赤いコートを着ている。コートを着ていてもとても細く見えた。さらにニーナ自身より少し短いくらいの黒い太刀を腰に下げていた。
これまで見たどの装備よりも強く大きい魔力を放っている。
「ご無事ですか!さっきの炎はなんですか?」
ニーナは息を切らしてレインへと向かっていく。おそらく相当な速度で駆けつけてくれたんだろう。
「ニーナさん、俺は大丈夫です。……ただ確認してほしい事があります」
「何でしょうか?」
「この辺にさっきのモンスターの気配はありますか?初めて使った炎の魔法で姿が確認出来ないままこうなってしまって……」
ニーナのスキル〈領域〉は範囲内の魔力を持つ全てを認識するというものだ。あの毒人形は魔力がそこまで感じられなかっただけで魔力が全く無いわけじゃない。
レインの目でも察知は可能で既に周囲にそれらしき色は見られない。それでも念には念を入れておきたかった。
あの毒人形がニーナの〈領域〉外に出てしまっていたらそれまでだ。もし逃げていたのなら次見つけた時に必ず殺そう。
「…………いえ、この辺りには私たち以外に誰もいないようです。全員逃げられたみたいですね」
「……そうですか。……ヴァルゼル」
レインはもう一度ヴァルゼルを召喚する。
「……ああ…熱かったぜ。まさか鎧ごと融解されるとは思わなかったな。…………で何で呼んだんだ?」
「お前、消滅する時までちゃんとアイツを掴んでたか?死体もないし死んだ所を見てないから不安なんだ」
「あ?……ああ、アイツが真っ先に溶けて死んだぞ。さっきも言ったがアイツは火に弱いんだ。だからあんな火力はいらないだがなぁ」
「…………それなら良い。戻れ」
レインが手を払うように動かすとヴァルゼルはその場で消えた。これであのモンスターが確実に死んだ事がわかった。本当はこの目で確認したかったが仕方ない。
「……あのモンスターは死んだようです。ちょっと大袈裟に騒ぎすぎましたね」
レインは少し反省した。こうなると分かっていたらあそこまで騒ぐ必要がなかった。
そのせいで多くの人間が王城方面へ詰め掛けただろう。それにニーナも完全武装で駆けつけてくれた。
「そんな事はありません!私たちではあのモンスターを倒すのにもっと時間がかかっていたはずです。時間を掛ければかけるほど他の人にも被害が出る可能性も高くなります!
レインさんがモンスターを1人で引き受けてくれたから私たちも装備を切り替えたり、国民を避難させたりできたんです。胸を張ってください!」
ニーナはレインを真っ直ぐ見つめて話す。そこには嘘も誇張もない。ただ純粋にレインの行為を認め、称賛していた。
「ありがとうございます。……じゃあ戻りましょうか」
ニーナの言葉にレインは少し救われた気分になった。そしてすぐにシャーロットがいるであろうレインの屋敷へ向けてニーナと共に歩き出した。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる