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治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜

第76話

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◇◇◇


「はぁーー……ベッドが至福……」


 あの後も結局質問は思い付かなかった。最悪受付にはいつでも誰かいるらしいから質問があればいつでもどうぞとの事だ。そして誓約書にサインして宿泊施設に案内された。大きなフカフカのベッドが2つ並んでいるかなり豪華な部類の部屋だ。

 そしてもう一つの部屋にはテーブルや椅子などが並べられている。そこで食事をしたりするんだろう。


「何か飲み物や食事を持って来ましょうか?」


「ああ……すまないけど頼む」


「かしこまりました。少しお待ち下さい」


 そう言って阿頼耶は部屋を出た。レインはベッドでうつ伏せのまま睡魔に襲われる。この睡魔ってどんなモンスターよりも強いと思う。


 だがレインにはやる事が残っている。阿頼耶に全てを任せきりなのは良くない。


「傀儡召喚」

 レインはうつ伏せのまま上位騎士を4体召喚する。そしてすぐに部屋の四隅にある花瓶や本棚、カーテンと椅子に潜ませた。

 別に宿の中でスキルを使っちゃいけないなんていう規則はなかった。そりゃ物とかを壊したらダメだろうけど護衛をちょっと多く配置しただけだ。
 
 それに傀儡が潜んでるんのを看破できる奴なんているのか?これまでに違和感を感じるくらいの人はいたかもしれないけど、そこに何かいるとまで言い切った人はいない。

 ……というか傀儡を潜ませた屋敷に人を呼んだ事がほとんど無かったな。


「お待たせしました」


「ああ……ありがとう……」


 そんな考え事をしている間に阿頼耶が戻っていた。1人分の食事や飲み物に着替えも持って来ている。


 レインはベッドから起き上がり防具を脱いで動きやすい部屋着に着替えた。すぐに椅子に座ってご飯を食べる。阿頼耶はレインが食べているのを横に座って見ている。


「そういえば……阿頼耶って食事がいらないんだよな?」


「はい、睡眠なども必要ありません」


「でも何かして欲しいとかない?ダンジョンでも付いてきた人の護衛とかばかりだし」


「…………必要ありません。私はご主人様と共に居られればそれだけで満足してます」


 阿頼耶は目を閉じて微笑む。それが明らかに本心なのは分かった。阿頼耶は嘘をつかない。


「…………でも」


 レインが話そうとするのを遮るように阿頼耶が口を開いた。

「………本当は少し不安でした。この国に行くと仰った時、私はエリスさんの護衛を任されステラを連れて行くんじゃないかって。エリスさんを護衛するという点では私を置いていくのが1番効率がいいはずなのに。
 しかしご主人様は迷わず私を選んで下さいました。私にとってはそれが堪らなく嬉しかったんです」


「そうか」


 それでも何かしてあげたいという気持ちに変わりはない。レインは考える。


 "そういえば……阿頼耶って最初に俺の魔力を吸収して強くなったよな。あの後はもう効果がなかったけど今はどうなんだろう?あれから結構強くなってると思うけど……"


「じゃあ……阿頼耶、手を出してくれ。俺の魔力を食べたら多少は強くなれるんじゃないの?」


「…………ご主人様の魔力をいただく訳にはいきません」


「いいから!」


「あっ…………」


 レインは阿頼耶の手をとって握る。阿頼耶が小さな声を漏らす。こんな感じの子だっけ?

 そのままレインは魔力を阿頼耶に流す。効果がなかったら悲しいな。

 ただ阿頼耶は既に満ち足りた笑顔で遠くを見ている。こんなにコロコロ表情が変わる子だっけ?


 レインから放たれた漆黒の魔力は手を伝って阿頼耶へと流れ込む。その魔力は阿頼耶を包み込みやがて中へと浸透するように吸収された。


 阿頼耶の魔力が明らかに増大した。瞳に宿る力強さも雰囲気も段違いに強くなった感じがする。それはレインの魔力を得たことで一時的に強くなった訳ではなく、永続的に自分の力となったという事だ。


 今なら魔力は間違いなくSランク覚醒者だな。そして既にAランク覚醒者の認定を受けているから神覚者と呼ばれるのは確定だ。


 ただレインと同じパーティーにいる阿頼耶が神覚者認定を受けたら有名になるなんてもんじゃない。レインのパーティーには何かあると気付いた連中が押し寄せる可能性もある。だから阿頼耶にはそのままで居てもらおう。


「…………少しというか…かなり強くなったな」


「そうですね」


 阿頼耶はダガーを召喚した。正確には自分から作り出した。

「このように武器の作成もかなり早くなりました。これで……今までよりもずっとご主人様やエリスさんを守れます」


「そうだな。よろしく頼むよ」


「はい」


◇◇◇


 その日から5日が経過した。宿では特にやらないといけない事もなかったのでアルティのトレーニングに勤しんでいた。疲れたら阿頼耶に回復してもらえればいい。


 そんな感じで過ごした。そしてその日の朝、初めて部屋がノックされた。


「…………はい」


 阿頼耶が扉を開ける。そして要件を確認して扉を閉め、レインにその内容を伝える。


「これより『決闘』が行われるとの事で職員が受付に来ているようです」


「分かった。阿頼耶は……ここで待つしかないんだったな。行ってくるよ」


 従者が立ち入り出来るのは宿泊施設内のみだ。闘技場内にまでついていく事は出来ない。
 

「はい、お気をつけて」


 阿頼耶に見送られ部屋を出る。そのまま一階の受付で待っていた別の職員に案内されるがまま闘技場へと移動する。


 闘技場内は質素な作りだ。頑丈に作られているが、レインの屋敷のように絵がある訳でもない。ただただ無機質な白い壁が続いている。


「レイン・エタニア様、本来であれば控室にまず案内するところですが、厳正な抽選により第1試合からの出場となっております。その為、申し訳ありませんがこのまま東門へご案内致します」


「……え?ああ、はい。大丈夫です」


 レインは第1試合からの出場となったらしい。歩いて進むにつれ歓声のようなものが聞こえてきた。物凄い数の人間がいる。


 そして……。


「こちらでお待ち下さい。審判が入場の合図を出します。そうすると門が開きますので、そのまま中央まで歩いて下さい」


「分かりました」


 促されるままにレインは重厚な鋼鉄の両扉の前に立つ。扉と壁の隙間から闘技場の中の様子が少しだけ見えた。


 "さあ……気合い入れてこうか"

 


 
 

 
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