76 / 142
治癒の国『ハイレン』〜大切な人を癒す為に〜
第75話
しおりを挟む「ではまず『決闘』について説明しましょう。『決闘』の正式名称は『渇望する者の祭典』といいます。現国王がそう決めましたが、やっている事は決闘なのでみんなが勝手にそう呼ぶうちに世界に広まって『決闘』と呼ばれるのが当たり前になりました」
…………国王の立場ないな。ただそのアルズ何とかよりも決闘の方が分かりやすくて助かる。
「国王陛下も渋々そう呼ばれるのを了承しましたが、こうした誓約書にはちゃっかり正式名称を入れているあたり諦めてはいないようですね」
女性は笑いながら話す。国王がこんな感じの扱いって愛されてるんだろうな。レインにとってはそう感じた。
「続いて『決闘』の日程です。開催は5日後となり本日から併設の宿泊施設に入っていただきます。一度宿に入ると『決闘』が終わるか、敗退するまでは出る事は出来ません。試合が開始される前に他者のスキルによって強化される事を防ぐ措置となります。
『決闘』はトータルで約3日間行われます。最初は3~4回戦まであります。参加人数によって試合の数は変わりますが、準決勝に進む4人が残るまで続きます。参加人数があまりにも多い時は2日に分ける場合もあります。
無事に勝ち上がりますと、翌日にその準決勝、3日目に決勝戦となります。優勝者にはその場で神話級ポーションが贈呈されます。ここまでは大丈夫ですか?」
神話級ポーションという単語に反応する。やはりこの『決闘』で優勝すると貰えるようだ。
「…………はい、大丈夫です」
「では次に『決闘』での規則についてです。細かいものは後で見てください。出場する覚醒者の皆様に強く関係するものだけ先に伝えますね。
まずは観客にまで危害を加える広範囲の魔法使用の禁止です。一応闘技場内と観客席の間には透明の結界が張ってあります。ただこれは複数のAランク覚醒者によって張られた物なので神覚者様の攻撃にずっと耐えられる物ではありません。
なので予めそうした魔法やスキルを禁止しております。危害というのは物理的な物に限られず不特定多数に干渉する精神操作系、無差別に害を与える拡散系の毒や麻痺などの異常状態を誘発するスキルなども同じです」
「……なるほど、ただそんな感じのスキルは使えないので大丈夫です」
「承知しました。主に使うスキルは身体強化系と召喚スキルとありましたね。ただ全員の御方に説明しないといかないルールなので……申し訳ありません」
「謝らなくても大丈夫です。それで他にはどんなものがありますか?」
「はい、次が最も大事と言っても過言ではありません。それは相手の殺害に関してです。『決闘』においては明確な殺意を持って試合相手を殺す事を許可しております。
ただ審判が止めた時や相手が降参している状態での追撃は全て規則違反として即時敗退と賠償の対象となります」
「……相手は神覚者の人も多いと聞きます。本当に殺してしまって大丈夫なんですか?」
「そのための署名です。ただこちらとしても『決闘』で無闇に死者を出し続ける訳にはいきません。
その為、国内の優秀な治癒系の覚醒者を集めております。その筆頭が『治癒の神覚者』です。そのスキルは対象の状態を数分前までに戻すというもので、決着が付いた後に亡くなっていたとしても蘇生する事が可能です。
ただしどんな事にも例外はあります。その為、そうなったとしても納得して参加したという証明のために署名をいただいているんです」
「なるほどですね。その辺も大丈夫です」
要は殺すのはいいけど、審判の指示に従う事と相手が降参を宣言したのに追撃すれば負けになるってことか。
あと可能な限り蘇生と治療はするけど間に合わなくて死んでも責任は取らないよ?って事だな。分かりやすくて助かる。
「ありがとうございます。あとは……そうですね。口裏合わせの禁止もあります。……要は多額のお金をもらってわざと負けるといった事です。この『決闘』に参加する覚醒者様には出来る限りのサービスを無料で提供しております。
その財源はこうした『決闘』で行われている国営賭博から出る賭け金の一部から確保されています」
「…………賭博?」
「はい、どちらの覚醒者が勝つかを観客は予想してお金を賭けます。そして的中するとその覚醒者の実績などで決められた掛け率に応じて返金されるというものです。この『決闘』は神覚者様やSランク覚醒者様同士の全力に近い戦闘を間近で見る事が出来ます。
そのため、世界中から王族や貴族の皆様が集まります。その方々はお金をたくさん持っていますし、こうした盛り上がりの中では財布の紐も緩くなりますからね。それを狙わない手はないという事です」
金持ってるだけの貴族から金を巻き上げられるのはいい事だな。
「あとはそうですね。武器の持ち込みは自由です。ただポーションといった回復薬は試合中は禁止です。あと原則四肢が切断された場合も敗北となります。総合的に審判が判断しますが、腕や脚を無くした時点で負けだと思って下さい」
女性からなかなか聞けない単語が多く出て来たな。四肢の切断も負けになるのか。女性は書類を指差しながら説明してくれる。重要な事は大きな字で書いてあるけど、四肢の切断とかは特記事項のようなもので小さく書かれている。
「説明は概ね以上となりますが、何か分からない事や確認したい事などありますか?」
「……………………うーん、そうですね」
正直思い付かない。でも何か聞いた方がいいよな?レインは質問を絞り出すために考え込む。そんな時だった。
「よろしいですか?」
まさかの阿頼耶が手を上げた。
「はい、どうぞ!」
「レインさんの対戦相手は誰になるんですか?あと『決闘』に参加する人数は何人いるんでしょう?あと従者である私はどうのような行動を取ればいいですか?」
阿頼耶……お前は本当に賢い奴だ。
「申し訳ありません。対戦相手や参加人数などはここでお答えする事が出来ません。従者であるアラヤ様に関しまして宿泊施設内での行動は自由です。主に参加される神覚者様の身の回りの世話や護衛を兼ねております」
「……護衛ですか?」
「はい、この施設は覚醒者や兵士たちによって厳重に警護されていますし、そもそも神覚者様ほどの力を持つ御方には必要ないかもしれません。
ただ万が一何かあった時に……ですね。その……」
職員は口籠る。何か言いづらいことがあるようだがレインには理解できない。
「つまり自身で護衛を用意したのだから何があっても自己責任だと言うことですね?」
そんな冷たい感じだろうか?単純に話し相手とか欲しいだろうし、神覚者なんて力があるだけで身の回りの事、何も出来なさそうだし、それが要因なんじゃないの?自分で言ってて悲しくなる。
「…………そういう事です」
そういう事だった。声に出さなくて良かった。既に勘付かれてそうな頭悪い感じが露呈し、確定する所だった。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる