66 / 142
炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜
第65話
しおりを挟む◇◇◇
「今回も変わり映えのない洞窟だな。たまには違う所でやってみたいなぁ」
「無理もありません。内部が洞窟以外のダンジョンは難易度跳ね上がると言われておりますので」
ステラが淡々と説明してくれる。内部が洞窟タイプじゃないダンジョンってそういえばあるんだったーっと思ったが恥ずかしいので黙る。
「今回も良い奴がいれば良いけどな。モンスターの気配は……まだないな」
ダンジョン内部ではまずどんなモンスターが潜んでいるのか確認する必要がある。モンスターの種類によって対応を変える必要がある……らしい。覚醒者の並びとか……かな?
ステラがそうしたダンジョン攻略において基本的な事は全て頭に入れてくれているのでとても助かる。
ただ何が来ても殴るか、傀儡で制圧するスタイルのレインにとっては、ただ待つだけの暇な時間だった。その間にも『黒龍』の新人覚醒者たちがニーナたちに連れられて入ってきた。
新人はAランクが8名、Bランクが12名だ。7割が男で3割が女性だ。残りの5名が経験豊富なAランク覚醒者だ。彼ら5人とSランク2人で新人の教育を実践を通して行っていたようだ。やはり国内最強のギルドだけあって全てが手厚い。
「「「よろしくお願いします!!」」」
新人の覚醒者たちは横に並び一斉に頭を下げて挨拶する。その装備はレインが着ている物よりずっと高価な物だろう。
「……はあ……どうも」
他人にこんな態度を取られる事もないレインはどうしていいか分からなくなった。
「レインさん、もし迷惑でなければ魔法石の採掘だけでもお手伝いしますね。……レインさんには必要ないかもしれませんが」
「いえ……俺は気にしませんので、なかなか出来ない経験をさせてあげて下さい。それに俺の戦い方は参考にならないでしょうし」
レインの戦い方はただその身体能力で武器を振ったり殴ったりするものだ。工夫した戦いをそこまでやらないからSランク以下の覚醒者にはとても真似出来ないと思う。
「そんな事はありません!レインさんは少なくともこの国で最強の存在です!そんな御方の戦いを間近で見られるだけでも貴重なんです」
ニーナはそう熱弁するがやはりレインには難しかった。
「レインさん」
ニーナが話し終えたタイミングで阿頼耶が話しかける。
「お……やっと来たか」
「何がですか?」
ニーナは首を傾げる。こうした察知能力はレガの方が優れていたな。ニーナも相当強いが〈領域〉スキルの範囲外だと察知は難しいみたいだ。無理もないけどな。
「モンスターです。数は……そこまで多くないでしょう。ただ強いと思います」
レインがそう判断したのはモンスターから発せられている音だった。金属がガチャガチャと擦れる音が聞こえる。こちら側の覚醒者たちではない。
つまりここのダンジョンのモンスターは武装している。そしてゆっくり歩いている事から隊列を組んでいる。隊列を組み、武装するだけの知識がある。ただ真っ直ぐ突っ込んでくる奴よりも圧倒的に厄介だ。
近付く音は大きくなりようやく視界に捉えた。
「……当たりだ」
レインは微笑んだ。騎士王のような見た目の騎士が隊列を組んでこちらへ向かってきている。数は約20体くらい。全員が黒いフルプレートの全身鎧を着ていて長剣と短剣の二刀流だ。歩くたびに揺れるマントが上位の戦士にありそうな雰囲気を出している。
「レインさん……大丈夫ですか?」
ニーナが心配そうに話しかける。その方向を向くとニーナの背後にいる覚醒者たちは怯えた表情をしている。隠そうともしていない。
さっきまで歯を出してニカニカと笑っていたサミュエルですら真剣な表情をしている。アイツらはそれほどの強さがあるということか?
「何がですか?」
「あれらは骸骨の上位戦士です。1体がAランク……それも上位に匹敵する力があります。ここはAランクダンジョンの中でも最上位に位置する難易度です」
「……へぇ…」
「いくらレインさんが強いといっても……流石に厳しいと思うんですが……」
ニーナは刀を少し抜いたり収めたりを繰り返す。
さっきからカチャカチャ音がしていて何の音かと思った。あの騎士たちが結構強いとしてもレインにとっては全く問題なかった。あんなのが1,000体とか来られると無理だろうけどたった20体だ。
ニーナの表情を見るにただ一緒に戦いたいんだろうか。
「大丈夫です。新人の子たちに無様な姿は見せられませんからね。それにニーナさんからのお願いですから全力で応えますよ」
レインはニーナを真っ直ぐ見る。女性に対しては苦手意識しかないが付き合いが長くなりつつあるニーナには目を合わせて会話ができる。エリスとニーナ、アメリアたち以外はまだ緊張する。
「え?!そ、それって……、いや…レインさん……もし良ければここが終わった後……」
ニーナが何か言いかけた時、前方から迫るモンスターたちが突撃を開始した。さすがAランク上位相当のモンスターだ。かなり速く効率的に動く。
集団の中で突出していたレインとニーナへ向けて真っ直ぐ走ってくる。そして油断とも取れる態度を取っていたニーナを狙った。
しかしザシュッ――という何かが斬れる音が聞こえた。何が斬れたのかは確認するまでない。近くまで迫っていた騎士は上下に両断された。
「レインさんとの話を邪魔するなよ」
ニーナがボソッと何かを呟いた。こちらへ向かってくる騎士たちの鎧の音で掻き消されて聞こえたなかった。
せっかく良い感じの傀儡にできそうなのが1体減ってしまった。
「……ここからは俺がやりますね。傀儡召喚」
レインは鬼兵100体と騎士王を召喚した。そしてすぐに命令する。
「このダンジョン内のモンスターを半殺しにして捕らえろ。全て傀儡に加える。ボスも同じだ。殺さず無力化しろ」
背後でざわつく覚醒者たちを尻目に傀儡たちは武器を構えて奥へと進んでいく。
近くに迫っていた19体のモンスターたちは100体を超える鬼兵たちによって四肢のどれかを切断され、引きちぎられ、潰されてあっという間に瀕死になった。
それらを順番に倒していき全て傀儡にした。
――『傀儡の兵士 上位騎士』を19体獲得しました――
「この調子でどんどん行こうか」
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~
椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。
探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。
このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。
自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。
ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。
しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。
その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。
まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた!
そして、その美少女達とパーティを組むことにも!
パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく!
泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!
へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~
めで汰
ファンタジー
魔物の学校の檻の中に囚われた鑑定士アベル。
絶体絶命のピンチに陥ったアベルに芽生えたのは『スキル奪取能力』。
奪い取れるスキルは1日に1つだけ。
さて、クラスの魔物のスキルを一体「どれから」「どの順番で」奪い取っていくか。
アベルに残された期限は30日。
相手は伝説級の上位モンスターたち。
気弱な少年アベルは頭をフル回転させて生き延びるための綱渡りに挑む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる