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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第53話

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「シャーロットさん、その辺にしておきましょう。屋敷まで案内してもらえますか?」

「そうでしたね!失礼しました!では行きましょう」

 阿頼耶は解放されレインの後ろに移動した。あまり関わりたくないけど、第1王女だし無下にすると主人であるレインの評価にも影響が……みたいな葛藤を抱えて必死で耐えていた。
 知らない人から手を握られるなんてよくよく考えたら恐怖だよな。


 屋敷への道のりはレインと王女様が横並びで歩き、レインの後ろを阿頼耶がついて行く形となった。


 そして屋敷は思ったよりも近い場所にあった。徒歩にして約15分ほどだった。


「え?こ、ここですか?」


「そうですよ?今日と明日の朝は準備がありますが、今日この時よりこの土地と屋敷はレイン様の物です」


 レインの目の前には豪邸があった。正面は鋼鉄で出来た格子扉があって向こう側が見えるようになっている。
 そこからでも庭だけでかなりの面積がある事が理解できた。木や花が綺麗に整地されて正面入り口から豪邸の玄関までまっすぐ一本の石畳の道が出来ている。


 さらにその豪邸を取り囲むように真っ白な石が積み重なって出来た壁もある。まるで要塞だ。


 さらにさらにその奥から見える豪邸は3階建てで玄関を中心に右と左で区分けされているように見えた。窓はアーチ形の窓が左右均等に並べられていて豪邸の壁も真っ白だった。


「これ……何部屋あるんですか?」


「えーと……大体100部屋くらいだったかと。使用人の部屋や武具保管部屋、来賓室に応接室、執務室や食堂もありますから」


 …………いる?真っ先に出た考えがそれだった。部屋数が50倍になった。掃除するだけでも1日終わるだろ。壁も白いから雨の後とかすごい汚れそうでなんか嫌だな。
 ……いや文句はだめだ。条件を受けたとはいえかなりの支援をしてもらえる事になった。その好意を無下にはできない。

 レインは今まで自分にされてきた事の復讐を考えていなかった訳じゃない。ただやり返すような事をした人間の家族がどんな評価を得るか考えただけだった。


 自分はどんな目に遭おうと評価を受けようと問題ない。ただエリスはダメだ。絶対に。


「ありがとうございます。じゃあ明日の昼にでもみんなでここに来ます」


「分かりました。……あとご迷惑でなければ衣服のサイズなど教えていただけますか?妹さんのもです。それなりの衣服を用意したいと思っております」


「服は……大丈夫です。サイズが分からないので」

 服はいつも適当だ。エリスは要望がないからどうしたらいいか分からないし、レインに関しては隠せたら何でもいいくらいにしか考えていない。

「では明日レイン様が来られる際に専用の着付師を用意致しましょうか?」


「い、いや……流石にそこまでは……」


「遠慮なさらず。レイン様が行かれる『決闘』まで残り35日ほどです。レイン様であれば必ず優勝し妹さんを治療される事でしょう。
 その際にお祝いしたいと考えてますがその時の服装などを先に考えていた方がよろしいかと思いまして……」


 王女様がそこまで考えていてくれた事にレインは感動した。


「なら……よろしくお願いします」


「かしこまりました!では私はこれからこの屋敷を使えるようにしていきますね。その為に一旦王城へ戻りますね。また明日お待ちしております」


 それだけを言い残し王女様は1人で歩いて戻っていった。護衛を傀儡から付けようとしたが不要だった。
 何となく勘づいてはいたが、護衛はついてきていた様だ。王女様が離れて行くと同時に薄らと感じていた気配も消えていった。


「……でもやっぱり心配だな。阿頼耶、認識できる範囲でシャーロットさんが王城へ入るまでついて行ってくれ。何も無ければそのまま帰ってこい」


「承知しました」


 そう言って阿頼耶は消えた。ただジャンプして建物の屋根に飛び移っただけだ。
 そのまますごい速さで離れて行った。また少し速くなったか?また後で確認してみようかな。覚えてたら。


「さて……帰るか。エリスにいい報告ができそうだ」



◇◇◇


 レインはいつもと違う帰り道を歩く。いつもは組合か商会を経由して自宅へ帰るが今回は王城から自宅だ。当然景色も何もかもが違う。ずっと住んでいる街だが、王城なんて行く用事はなかった。
 

 だから初めて通る道や初めて見るお店が多くあった。しかしレインが真っ先に反応したのは別のものだった。レインは常にダンジョン内ほどではないが警戒をしている。そんな中で反応したものがあった。


「…………かなり弱ってる?」


 ここは数階建ての建物が並ぶ王城近くの通りだ。当然裏路地というのか狭い通路も沢山ある。その内の一つに目をつけた。奥は時間帯も相まって薄暗くよく見えない。しかし奥から本当に小さな魔力と消えそうな気配を感じた。


 レインは歩く方向を変えて裏路地へと入る。いつでも傀儡を召喚出来るようにしておき左手に隠し持つようにダガーを忍ばせた。


 少し入ったところに彼女たちはいた。3人いる。全員がボロボロだ。3人は寄り添うように壁にもたれかかっている。
 
 左側の女性は衰弱しきっている。目は開いているが力がない。右側の女性は両目を怪我して見えないようだ。目が見えない、この辛さは普通の人よりは理解があるつもりだ。レインが察知した魔力はこの人のものだ。おそらく覚醒者だったんだろう。


 そして真ん中の女性がレインの接近に気付き顔を上げた。


 "この人もかなり弱ってる。何があったんだ?"


「そ、そこの……御方」


 真ん中の女性が少し身を乗り出しこちらに手を伸ばす。


「姉さん……もうやめよう。どうせその人も同じだよ。誰も私たちに手を差し伸べたりなんかしない」


 右の女性は俯いたままそんな事を言った。多分助けてもらおうとして全員に断られているみたいだ。


「話は聞こう。とりあえず言ってみてくれ」


「…………え?」


 真ん中の女性が聞き返す。多分ほとんどがこの時点で断られたんだろう。それも……理解できる。
 3人の見た目は……お世辞にも綺麗とは言えない。容姿の話ではなく髪も服も乱れ汚れている。だから匂いも酷いものだった。


「話を聞いてほしいんじゃないのか?」 


「そ、そうです。ありがとうございます。もうあなた様がここを通らなければ私たちはもう駄目でした」


「前置きはいらないよ。君たちは大丈夫だろうけど、そこの子はあまり良くない。何をしてほしいのか、その見返りは?ゆっくりで良いから確実に話してくれ」


「ありがとうございます。……私はアメリアといいます。そこの目を怪我しているのが次女のステラ、そしてその子が三女のクレアです。ステラの目を治す為の上級ポーションが欲しいのです」


 上級ポーションか。回復の上級ポーションはそれ単体で数千万はする。


「それだけか?」


「…………もし可能でしたらクレアの分も……いただけたら」


 つまりはこの2人を助けるために5000万近い金額が必要になる。これまで誰も助けて来なかった理由は察するに余りある。

 ただレインは常にポーションを持ち歩いていた。何かあった時の対策として。だからこの人たちを助けることは出来る。


「欲しいものは分かったよ。なら君は……アメリアは俺に何をしてくれるんだ?」


 
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