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あめの みかな

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第103話(最終話)「数か月後」

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 ダルマッチさんと約束して出航前の準備をしに町へ繰り出した。

「船が沈んでも助かる道具を買いましょうにゃ」

 レアはダルマッチさんの船を全く信じていないもよう……。

「レア、流石に大丈夫じゃないか?」
「沖に出て直ぐ戻ってくるなら問題は無いかも知れませんが、西の大陸までですにゃ! とても信じられないですにゃ!」
「私もそこまで気にする事は無いと思うけどなあ……」

 エイルは俺と同じ意見らしい。

「そんな危機感ではダメですにゃ! そうにゃ! エイルさん、錬金でそんな道具を作ってくれたら私を一日撫で回しても良いにゃ!」
「え! ほんと!! それなら作る作る!!」
「まてまてまて、出航は明日なんだから他に準備があるだろ? 食べ物とかも二、三ヶ月分はこっちでも用意しておかないといけないし」
「そうね、食べ物は大事だものね……、ごめんねレア」
「そんにゃ……」

 レアはガックリとして、その後の買い物に付き合ってくれた。

「さて、こんなものかな……」
「そうね、あとは私が宿で少し錬金したいかな」
「私はもう少し町の中を歩いてきますにゃ」
「一人で平気か?」
「大丈夫ですにゃ」

 俺とエイルは宿に戻って明日に備える事にした。
 エイルの錬金している所も久しぶりに見せてもらおう。
 そしてレアは一人、町の中を見に行った。

「レア、ご飯までには帰って来いよ」
「わかりましたにゃ」

 トボトボと歩くレアの背中は少し寂しげだった。

「この辺で良いですかにゃ」

 小さい猫へと姿を変えて町の中を歩き出す。
 この方が変な輩からちょっかいをかけられたりしないし、町のスミまで行けるので便利だ。

 港から離れ、小高い丘の方までやって来たレア。
 丁度そこにはミクシルまで一緒だった行商人の家族が商売の後片付けをしていた。
 その荷台に座っている女の子が足をぶらぶらさせながら後片付けが終わるのを待っているのだろう。
 レアは足元に近寄って一声鳴いてみた。

「ニャ~」
「あれ? ネコちゃん! もしかして一緒だったネコちゃん?」
「ニャ~」
「そっか! ママ~! ネコちゃんが会いに来てくれた~!」

 レアは女の子に抱っこされて母親の元へ連れて行かれた。

「あらタニア、そのネコさんは?」
「会いに来てくれたの」
「あら良かったじゃない。 ケンジさんとエイルさんは一緒にいなかったの?」
「ネコちゃんだけ」
「あらあら……、迷子じゃなきゃ良いけど」
「今日ネコちゃんと一緒に寝ても良い?」
「そうねえ……、もう暗くなるし、ケンジさん達を探すのは明日で良いかしらね……。 タニア良いわよ。 でもちゃんと見てあげるのよ」
「やった~! ネコちゃん一緒に寝ようね」
「ニャ~」

 そんな話しが俺の知らない所で決まっていた。

「おい! 誰に断ってここで商売してんだ!?」

 ダリルさんは仕事の後片付けも終わって宿に戻ろうとした時、ダリルさんの胸ぐらを掴んで凄んでいる連中がいた。

「こ、ここはちゃんと許可を頂いた場所です!」
「俺達は許可した覚えがねえんだよ!! ショバ代を今までの分払ってもらわねぇとな」
「しかし、ちゃんと……、ぐはっ!!」

 ダリルさんが殴り飛ばされた。

「あなた!」
「パパ!」
「こっちに来るな!」
「お、良いのがいるじゃねえか……」

 連中はタニアに目をつけ、タニアちゃんを抱きしめているポーラさんを突き飛ばし、タニアを担いでダリルさんに請求金額を告げて帰って行った。

「大丈夫か!?」
「ええ……、それよりタニアが……!」
「ああ……、俺がタニアを取り戻しに行ってくる」
「そんな! あなた無茶よ!」
「しかし……」
「そうよ、ならガルにお願いしてみましょう! ケンジさん達もいるかも知れないし、あの方達ならタニアを取り戻せるかも知れないわ」
「……そうだな」

 タニアを連れて行ったのは町の中心にある大きな屋敷、ミクシルでもそこそこの金持ちの屋敷。
 その屋敷の一室にタニアは連れて行かれ、閉じ込められた。

「グス……パパ……ママ……」

 そんなタニアのいる部屋の窓をカリカリとする一匹のネコ。

「だれ?」

 タニアはそぉっと近づくと、黒猫が窓を引っ掻いている。

「ネコちゃん?」

 窓を開けると、レアは中に入り、人型へと変身した。

「え!? え!? ネコちゃんが……変身したの?」
「そうですにゃ」
「しゃべれるの!?」
「もちろんですにゃ。 タニア、少しここで待ってて下さいにゃ。 直ぐに迎えに来ますにゃ」
「ネコさん何処行くの?」
「悪い奴を懲らしめにですにゃ」

 レアは部屋の扉を勢い良くぶち壊し、集まってくる連中の話しを聞く耳持たず、短剣ダガーで攻撃して行く。
 主に足を狙っているので殺してはいない。
 タニアちゃんには人が死ぬ所を見せたく無いのだろう。

 屋敷の連中をほとんど倒し、広間に集まった数人と、この屋敷の主である人も容赦なく攻撃して倒した。
「あの子は返す!」「部下が勝手に!」「悪かった」 などと色々言っていたようだが、レアは容赦しなかった。
 最後に今後あの家族に手を出したら次は無いとだけ言ってタニアの元へ戻った。

「さ、もう終わったにゃ。 帰りますにゃ」
「ネコさん……! うん!」

 レアは大きい猫へと変身すると、タニアを背中に乗せてダリルさん達の元へ戻った。
 その間、レアの背中でタニアちゃんはすっかり泣き疲れて寝てしまったようだ。

 夜が明け、ガル支部から応援があったので俺とエイルも屋敷に駆け付けた時には既に屋敷の中にはタニアちゃんはいなく、攫った連中は「メイド姿の暗殺者が……」など、うわ言の様に言って全員御用となった。

 ダリルさん達が宿に戻ると、タニアちゃんはベッドでスヤスヤと笑顔で眠っている。
 その横にはレアが頭に着けていたホワイトブリムが置かれていた。


「戻りましたにゃ」
「レア! 何処に行ってたんだ!? ダリルさん達が大変だったんだぞ!」
「そうなんですかにゃ?」
「まあ、良くわからない間に事件解決してたけど……」
「それなら問題無いですにゃ」
「……そ、そうだな……、よし、ダルマッチさんに会いに行こう」
「ついに出航ですね」
「気が重いですにゃ」

 俺達はダルマッチさんが待つ港へと急いだ。


 その日の朝、タニアちゃんはネコちゃんが助けてくれた事を両親に話し、夢でも見てたんじゃ無いかと言われたが、タニアちゃんはレアの残したホワイトブリムが一生の宝物になったと言う……。
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