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第94話「2022/10/09´ ⑤」
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ユワとナユタは、やっぱりこの世界でも馬鹿みたいに胴が長い雨野家のリムジンでマンションにやって来ていた。
ライブに出かけるユワとナユタと、それから運転手のゴッサムヤマヒトさんを見送った後、ぼくは部屋に戻ろうとしたが、自分が何階の何号室に住んでいたかわからなかった。
スマホも持っていなかったから、ぼくは慌ててリムジンを追いかけて、ユワから教えてもらった。
一階には管理人室があり、マンションには警備員もいたので、わざわざリムジンを追いかけなくても、管理人さんや警備員さんに聞けばよかったと反省した。
息を切らして部屋に戻るとイズミが「何の話だったの?」と訊いてきた。
彼女がチケットを譲ったライブのグッズだけでも買ってきてもらえないか、と話をしていたことにした。
上村コノカちゃんのご尊顔の全面プリントTシャツやスマホケースを買ってきてくれるように頼んだと。
恥ずかしいからイズミの前では頼めなかったということにしておいた。
「あれ? 持ってたよね? てか今着てるよね?」
と言われ、ぼくは慌てた。
よく見れば、ぼくはそのスマホケースを"eyePhone14"につけていたし、洗面所の鏡の前に立ったぼくは完全にドルオタガチ勢だった。
「あ、そっか。ライブ行くの久しぶりだったし、新しいグッズがあるかもしれないもんね」
イズミが勝手に納得してくれてよかった。
「今日はふたりでゆっくり過ごそうね。明日もお休みだし、学校は明後日からだから」
イズミはぼくのことを本当に大切に思ってくれているようだった。好きでいてくれているようだった。
けれどぼくは彼女では駄目なのだ。
いくら同じ顔をしていても、彼女はロリコではないからだ。
同じ顔をしているからこそ、余計にロリコを思い出してしまい、自然と涙があふれてくる。
世界が書き換えられてしまったことで、
『大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを味わうのは、ぼくで終わりになったんだから、もういいんだよ』
ぼくはロリコに会えないことを、自分にはどうすることもできず、本当にどうしようもないのだからと諦めようとしていた。
これでよかったんだと思い込もうとしていた。
けれど、ユワやナユタの前で、
『ロリコに会いたい……』
どうしても涙を止めることができなかった。
『そんなにロリコちゃんのことが好きなら、諦めちゃだめだよ』
ユワからはそう言われた。
『イズモくんはひとりじゃない。前の世界の記憶を持ってるわたしたちがいる。他にもいるかもしれない。
わたしやナユタだってロリコちゃんやシヨタくんに会いたいよ』
『キミは、ボクが前の世界で人工知能だったことを忘れてない?』
ナユタは、すべてを諦め、放り出す前に、やれることがあるならやるべきだと言ってくれた。その協力をボクたちは惜しまないと言ってくれた。
『記憶を取り戻した今のボクなら、レデクスのプログラムをすべて暗唱できる。
前の世界のボクやユワが岩戸と呼んでいた、アカシャの門というレデクスのプログラムの最奥部の向こうには、匣のコピーがあった。
ぼくはその中身もすべて覚えてる。
プログラムを覚えてるだけで、レデクスを再現する技術はないけど』
『でも、その技術を持っていて、信頼できる人が、この世界にいるよね。イズモくんのお母さんとか』
『レデクスや超拡張現実機能を作ったイズモくんのお母さん、小久保博士はこの世界にもいる。
イズモくん、じゃないね、小久保博士の子どもであるソウジくんとボクたちが頼んだら、きっと相談に乗ってくれるはずだよ』
確かに母なら、レデクスを生み出すことができるかもしれなかった。
この世界では脳医学や脳科学のエキスパートであり、もしかしたら専門外かもしれないが、母はこの世界でもおそらく人類史上最高の頭脳を持っているだろうからだ。
だけど、レデクスをこの世界に生み出してしまったら……
ライブに出かけるユワとナユタと、それから運転手のゴッサムヤマヒトさんを見送った後、ぼくは部屋に戻ろうとしたが、自分が何階の何号室に住んでいたかわからなかった。
スマホも持っていなかったから、ぼくは慌ててリムジンを追いかけて、ユワから教えてもらった。
一階には管理人室があり、マンションには警備員もいたので、わざわざリムジンを追いかけなくても、管理人さんや警備員さんに聞けばよかったと反省した。
息を切らして部屋に戻るとイズミが「何の話だったの?」と訊いてきた。
彼女がチケットを譲ったライブのグッズだけでも買ってきてもらえないか、と話をしていたことにした。
上村コノカちゃんのご尊顔の全面プリントTシャツやスマホケースを買ってきてくれるように頼んだと。
恥ずかしいからイズミの前では頼めなかったということにしておいた。
「あれ? 持ってたよね? てか今着てるよね?」
と言われ、ぼくは慌てた。
よく見れば、ぼくはそのスマホケースを"eyePhone14"につけていたし、洗面所の鏡の前に立ったぼくは完全にドルオタガチ勢だった。
「あ、そっか。ライブ行くの久しぶりだったし、新しいグッズがあるかもしれないもんね」
イズミが勝手に納得してくれてよかった。
「今日はふたりでゆっくり過ごそうね。明日もお休みだし、学校は明後日からだから」
イズミはぼくのことを本当に大切に思ってくれているようだった。好きでいてくれているようだった。
けれどぼくは彼女では駄目なのだ。
いくら同じ顔をしていても、彼女はロリコではないからだ。
同じ顔をしているからこそ、余計にロリコを思い出してしまい、自然と涙があふれてくる。
世界が書き換えられてしまったことで、
『大事な人が、目の前から消えてしまう辛さを味わうのは、ぼくで終わりになったんだから、もういいんだよ』
ぼくはロリコに会えないことを、自分にはどうすることもできず、本当にどうしようもないのだからと諦めようとしていた。
これでよかったんだと思い込もうとしていた。
けれど、ユワやナユタの前で、
『ロリコに会いたい……』
どうしても涙を止めることができなかった。
『そんなにロリコちゃんのことが好きなら、諦めちゃだめだよ』
ユワからはそう言われた。
『イズモくんはひとりじゃない。前の世界の記憶を持ってるわたしたちがいる。他にもいるかもしれない。
わたしやナユタだってロリコちゃんやシヨタくんに会いたいよ』
『キミは、ボクが前の世界で人工知能だったことを忘れてない?』
ナユタは、すべてを諦め、放り出す前に、やれることがあるならやるべきだと言ってくれた。その協力をボクたちは惜しまないと言ってくれた。
『記憶を取り戻した今のボクなら、レデクスのプログラムをすべて暗唱できる。
前の世界のボクやユワが岩戸と呼んでいた、アカシャの門というレデクスのプログラムの最奥部の向こうには、匣のコピーがあった。
ぼくはその中身もすべて覚えてる。
プログラムを覚えてるだけで、レデクスを再現する技術はないけど』
『でも、その技術を持っていて、信頼できる人が、この世界にいるよね。イズモくんのお母さんとか』
『レデクスや超拡張現実機能を作ったイズモくんのお母さん、小久保博士はこの世界にもいる。
イズモくん、じゃないね、小久保博士の子どもであるソウジくんとボクたちが頼んだら、きっと相談に乗ってくれるはずだよ』
確かに母なら、レデクスを生み出すことができるかもしれなかった。
この世界では脳医学や脳科学のエキスパートであり、もしかしたら専門外かもしれないが、母はこの世界でもおそらく人類史上最高の頭脳を持っているだろうからだ。
だけど、レデクスをこの世界に生み出してしまったら……
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