102 / 105
「赤ワインとチーズのトリアージュ」#11
しおりを挟む
「この子の犯罪因子の書き換えは終わったよ。あとはお母さんの方」
その言葉を聞いて、「そういうことかよ」と、安寿が悔しそうに言った。
真理亜が最初からこの親子を救うつもりだったことに、彼はようやく気づいたようだった。
真理亜のMギフトは、毛髪や皮膚片など、対象の一部からそのDNAを見ることや、検索によって特定の因子の有無を確認することができるだけではなかった。
対象となる本人を目の前にしていれば、その塩基配列を書き換えることさえ可能だった。
今回は犯罪因子を書き換えただけだったが、彼女はその気になれば、対象の遺伝子を全く別人のものに書き換えることも可能だ。
別人の遺伝子に書き換えられた対象は、その急激な変化に、皮膚や内臓、骨格、脳などが対応できず、水風船のように破裂して死亡する。
まさしく、遺伝学の祖と呼ばれる人物の名を与えられるのにふさわしいMギフトだった。
「もう、大丈夫。これであなたたちは、わたしたちにも、別のトリエイジャーたちにももう狙われたりしないよ」
真理亜は娘の千冬にそう告げると、糸が切れた人形のように倒れ、僕は慌てて彼女の体を抱き止めた。
「ありがと、アキラ。わたし、少し眠るね」
彼女が毎回その能力を使わないのは、一度使えばその場で倒れ、3日は寝込むことになってしまうからだった。
そんな能力を2度も連続で使ったのだ。並大抵の精神力ではなかった。一週間は寝込んでしまうかもしれなかった。
僕は真理亜をおんぶして、
「行こうか」
安寿に声をかけると、宮内親子の部屋を出た。
ドアを閉じると同時に、ふたりにかけたラプシヌプルクルを解除した。
エレベーターを待っていると、僕たちはカップルと入れ違いになった。
カップルは、僕たちには目もくれず、自分たちの世界に入り込んでいる様子で、イチャイチャしながら通路を宮内親子の部屋の方へと歩いていった。
「あいつら、まさかトリエイジャーじゃないだろうな」
「違うと思う。むしろ僕たちに処分される側の人間だよ」
「人前でイチャイチャしてるからって、犯罪因子を持ってることにはなんないだろ」
「男の方の顔を見たことがあるような気がしたんだよ」
「どこで? 医療少年院?」
「どこだったかな」
安寿の問いをはぐらかすと、僕たちはエレベーターに乗った。
10年前、僕が死神が呼ばれるようになるきっかけになった、魔女と呼ばれた猟奇犯罪者の少女がいたことは、すでに話したことがあったと思う。
その魔女は、本来なら真理亜の相棒としてトリエイジャーになるはずだったということや、夏の終わりに熱中症で脱水症状を引き起こして死んでしまったということも。
ローレライというMギフトを持っていたことも。
魔女の名前は夏目メイといい、彼女には兄がひとりいた。
確か夏目弘幸という名前だったと思う。
前に一度だけ写真を見たことがあるだけだが、そのカップルの男の方は、魔女の兄にとてもよく似ているように見えた。
女の方は、あの男の恋人だろうか。
顔や声は違うが、その口調や身振り手振りが、なんだか魔女ととてもよく似ているような気がした。
たぶん気のせいだろう。
その言葉を聞いて、「そういうことかよ」と、安寿が悔しそうに言った。
真理亜が最初からこの親子を救うつもりだったことに、彼はようやく気づいたようだった。
真理亜のMギフトは、毛髪や皮膚片など、対象の一部からそのDNAを見ることや、検索によって特定の因子の有無を確認することができるだけではなかった。
対象となる本人を目の前にしていれば、その塩基配列を書き換えることさえ可能だった。
今回は犯罪因子を書き換えただけだったが、彼女はその気になれば、対象の遺伝子を全く別人のものに書き換えることも可能だ。
別人の遺伝子に書き換えられた対象は、その急激な変化に、皮膚や内臓、骨格、脳などが対応できず、水風船のように破裂して死亡する。
まさしく、遺伝学の祖と呼ばれる人物の名を与えられるのにふさわしいMギフトだった。
「もう、大丈夫。これであなたたちは、わたしたちにも、別のトリエイジャーたちにももう狙われたりしないよ」
真理亜は娘の千冬にそう告げると、糸が切れた人形のように倒れ、僕は慌てて彼女の体を抱き止めた。
「ありがと、アキラ。わたし、少し眠るね」
彼女が毎回その能力を使わないのは、一度使えばその場で倒れ、3日は寝込むことになってしまうからだった。
そんな能力を2度も連続で使ったのだ。並大抵の精神力ではなかった。一週間は寝込んでしまうかもしれなかった。
僕は真理亜をおんぶして、
「行こうか」
安寿に声をかけると、宮内親子の部屋を出た。
ドアを閉じると同時に、ふたりにかけたラプシヌプルクルを解除した。
エレベーターを待っていると、僕たちはカップルと入れ違いになった。
カップルは、僕たちには目もくれず、自分たちの世界に入り込んでいる様子で、イチャイチャしながら通路を宮内親子の部屋の方へと歩いていった。
「あいつら、まさかトリエイジャーじゃないだろうな」
「違うと思う。むしろ僕たちに処分される側の人間だよ」
「人前でイチャイチャしてるからって、犯罪因子を持ってることにはなんないだろ」
「男の方の顔を見たことがあるような気がしたんだよ」
「どこで? 医療少年院?」
「どこだったかな」
安寿の問いをはぐらかすと、僕たちはエレベーターに乗った。
10年前、僕が死神が呼ばれるようになるきっかけになった、魔女と呼ばれた猟奇犯罪者の少女がいたことは、すでに話したことがあったと思う。
その魔女は、本来なら真理亜の相棒としてトリエイジャーになるはずだったということや、夏の終わりに熱中症で脱水症状を引き起こして死んでしまったということも。
ローレライというMギフトを持っていたことも。
魔女の名前は夏目メイといい、彼女には兄がひとりいた。
確か夏目弘幸という名前だったと思う。
前に一度だけ写真を見たことがあるだけだが、そのカップルの男の方は、魔女の兄にとてもよく似ているように見えた。
女の方は、あの男の恋人だろうか。
顔や声は違うが、その口調や身振り手振りが、なんだか魔女ととてもよく似ているような気がした。
たぶん気のせいだろう。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
横浜で空に一番近いカフェ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。
転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。
最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。
新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!
紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―
木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。
……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。
小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。
お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。
第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。
大学生の俺に異世界の妖女が娘になりました
nene2012
キャラ文芸
俺は深夜のバイト帰りに巨大な紫色の卵を目撃し、卵が割れ中の物体は消えてしまった。
翌日、娘と名乗る少女がアパートにいた。色々あって奇妙な親子の生活が始まり向こうの異世界の人間達の暗躍、戦いは始まる。
【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜
櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。
そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。
あたしの……大事な場所。
お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。
あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。
ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。
あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。
それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。
関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。
あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる