上 下
87 / 105

「死神のタナトーシス」#41(24b)「蛇足変 2」

しおりを挟む
「僕なら蹴飛ばしてもいいと?」
「よかったね、おにいちゃん。はじめてのかのじょだよね」
「うん。初めてだ。25になって、ようやく」
「あとごねんで、まほうつかいになれたのにね」
「なれないよ?」
「だいまおうばーんの、かいざーふぇにっくすを、ゆびさきだけでむこうかする、おにいちゃんみたかった」
「できないよ? あれができるのは、ただの武器屋の息子だけだよ?」
「ぶらのほっくの、はずしかたとかわかる?」
「え? なんで?」
「はじめてえっちするときとか、なかなかはずせずに、もたもたしてたら、おねえさん、げんなりしちゃうよ?」
「え? マジ?」
「うん、おおまじ。かたてで、はずせるのが、りそう。わたしで、れんしゅうする?」

僕と妹は、一言一句全く同じ会話をしていた。
不思議なことに、その口調や表情からは、妹にはタイムリープしたという認識がないように見えた。
僕はこの時間の僕に干渉できないが、妹にとってこの時間はテイク2のはずだった。台詞は覚えてさえいれば同じようにできる。けれどその口調や表情、間までが全く同じになるのはおかしかった。
匣を手に入れた妹が、その力を使い、過去を変えようとしているのだと思ったが、もしかしたら違うのかもしれない。

ーー妹は、僕に彼女が出来たことを祝いに来たのだろうか。それとも夜這いをしにきたのだろうか。冗談なのか、本気で言ってるのかさえ、僕にはわからなかった。

黒き匣は300年以上前から西日野神社の歴代の巫女たちを、自分の子や孫のように愛し見守り続けていた。
だが、白き匣が彼と同じとは限らなかった。
むしろ、黒き匣の方がイレギュラーな存在だった。

彼は語ろうとしなかったが、きっと彼は初代の巫女かその母親と出会った頃に、人を愛するということを知ったのだろう。
もしかしたらその女性は、彼にとってはじめての、知恵を授かることを拒否した人間だったのかもしれない。
だから彼は、彼の役割であるはずの、人から人へと渡り歩いては、知恵を授けることを放棄してまで、あの神社の御神体として、この国にとどまることにしたのではないだろうか。

「おにいちゃんに、かのじょができた、おいわいをあげる」
「お祝い?」
「そう。おいわい。わたしと、えっちするか、わたしのひみつを、ひとつだけ、おしえるか、どっちがいい?」

白き匣が、巫女となった者を操り、道具のように使い捨てるような存在だとしたら、この妹はただ利用されているだけだった。

ーーきっとこれは大事な選択肢だと思った。
ーーマルチエンディングのノベルゲームの選択肢のように、選択を誤ればバットエンドルートに突入するような気がした。
ーー自慢じゃないけれど、僕は子どもの頃、かまいたちの夜3を何十周しても、犯人にたどりつけれなかった男だ。

僕は悩むことなく、妹の秘密を教えてもらうことを選ぶはずだった。
生まれてはじめての彼女ができた日の夜に、妹を抱くなんてありえないと。麻衣は血の繋がった実の妹だからと。彼女がいようがいまいが、妹を抱くという選択肢が僕にあるはずがないと。
そして、紆余曲折こそあったが、ハッピーエンドにたどり着くはずだった。

だが、ハッピーエンドがトゥルーエンドとは限らない。
ゲームの続編が製作されるとき、それがバッドエンドの続編だった事例は、僕が生まれる前の時代からいくつも存在していた。
そういう作品に出会う度に、僕はハッピーエンドにたどり着いたはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうと何度も頭を悩ませてきた。
きっとこんな風に、ハッピーエンドを迎えた後に歴史に介入し、強制的にバッドエンドを迎えさせ、それをトゥルーエンドにしてしまうような存在が現れていたのだろう。

この過去の僕の頭に浮かんだ選択肢もまた、

→妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。
    妹とエッチをする。

二択が八択に増えてはいたが、もはや選択肢ですらないものに変えられてしまっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き

星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】 煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。 宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。 令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。 見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

横浜で空に一番近いカフェ

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。  転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。  最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。  新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!

紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―

木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。 ……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。 小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。 お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。 第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。

大学生の俺に異世界の妖女が娘になりました

nene2012
キャラ文芸
俺は深夜のバイト帰りに巨大な紫色の卵を目撃し、卵が割れ中の物体は消えてしまった。 翌日、娘と名乗る少女がアパートにいた。色々あって奇妙な親子の生活が始まり向こうの異世界の人間達の暗躍、戦いは始まる。

【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。 そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。 あたしの……大事な場所。 お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。 あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。 ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。 あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。 それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。 関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。 あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!

処理中です...