86 / 105
「死神のタナトーシス」#40(23b)「蛇足変 1」
しおりを挟む
ーーその日、亜美は僕の家に泊まることになった。
僕は今、とても困惑していた。
ーー彼女にすっかり懐いた妹が、帰らないでと駄々をこねたからだった。
僕の意思とは関係なく、小説の地の文のようなものが、頭に浮かんでいたからだった。
それはとても不思議な光景だった。
ーー十八にもなって駄々をこねないでほしかったが、小姑みたいになられるよりはずっとよかった。
これは一体いつの話だったろうか。
ーー亜美は元ヤクザで神主の、背中に亡くなった奥さんがモナリザのポーズをしている刺青を入れているお父さんに、友達のところに泊まると電話を入れた。
僕の家に亜美がやってきたのは一度きりだ。
「うん、友達のおうち。ごめんね? 明日はちゃんと帰るから。巫女のお仕事もちゃんとする。え? 珠莉(じゅり)ちゃんがむくれてる? 」
ーーどうやらお父さん的には構わないみたいだけど、珠莉というお姉さんがむくれてしまっているらしい。どこの家も似たようなものだなと思った。
僕たちがお互いの気持ちを確認し合い、付き合うことを決めた日だ。
「顔じゃなくて? 顔はいつもだよ?うん、うん、そうだね、いつもじゃなかったね。寝起きのときだけだよね。小顔ローラー♪ 小顔ローラー♪ しようね?」
ーー途中から何かひどいことを言い出していた。
時間が逆行したとしか考えられなかった。
逆行したはすだが、亜美が電話でお姉さんの顔がいつもむくんでいることをいじることを、なぜか僕は止めることは出来なかった。
ーー途中で妹に替わり「ほんとに、ともだちです。あみちゃんには、うちにとまってもらいます」と半ば強引に了承させていた。
タイムリープした主人公は、過去を改変することができるはずだ。だが、どうやら僕の場合は違うらしい。
ーー亜美は僕の部屋ではなく妹の部屋で寝ることになった。
この時間の僕の体には、逆行した僕のこの意識とは別に、ちゃんとこの時時間の僕の意識が存在するようだった。
今の僕には、この時間の僕の体を、指先ひとつ動かすことができなかった。
ーーその代わりに? なのか? 妹が僕の部屋にやってきた。
あぁ、この日に戻ってしまったのかと僕は思った。
「亜美ちゃんと寝るんじゃなかったの?」
今の僕はただの傍観者に過ぎず、過去の僕がすることには一切干渉できないらしい。
しかし、この過去は僕の記憶と異なる点がひとつだけあった。
妹は、ルービックキューブほどの大きさの白い立方体を大事そうに両の手のひらの上に載せていた。
そんなものを妹はこの時、持ってはいなかったはずだった。
そしてそれは、僕がよく知るものにとてもよく似ていた。
匣だ。
白き匣とでも呼べばいいのだろうか。
妹がいつどこでそれを手に入れたのかはわからないが、匣はひとつではなかったのだ。
僕は黒き匣から彼がどのように生まれ、何のためにこの星に送り込まれたのかを聞いていた。
その経緯を考えれば、匣は世界にひとつだけだと思い込んでいた僕は相当なお馬鹿さんだった。
これがもし物語であるのなら、タイムリープした主人公は、もしかしたら妹なのかもしれない。
僕はこれまでの間ずっと、語り部のふりをさせられていただけなのかもしれなかった。
本当に僕という男はどこまでの二番手の男だった。
「わたし、ねぞうわるいもん。おねえさんをべっどからけおとしちゃうもん」
ーーそう言って、妹は僕のベッドに潜り込んできた。
黒き匣が亜美を巫女とし、亜美が選んだ僕を審神者と認めたように、妹も白き匣の巫女になった。
そういうことなのだろう。
匣には巫女だけでなく審神者が必要で、妹はきっと、僕を自らの伴侶に、白き匣の審神者にするために、この時間に時計の針を巻き戻したのだ。
僕は今、とても困惑していた。
ーー彼女にすっかり懐いた妹が、帰らないでと駄々をこねたからだった。
僕の意思とは関係なく、小説の地の文のようなものが、頭に浮かんでいたからだった。
それはとても不思議な光景だった。
ーー十八にもなって駄々をこねないでほしかったが、小姑みたいになられるよりはずっとよかった。
これは一体いつの話だったろうか。
ーー亜美は元ヤクザで神主の、背中に亡くなった奥さんがモナリザのポーズをしている刺青を入れているお父さんに、友達のところに泊まると電話を入れた。
僕の家に亜美がやってきたのは一度きりだ。
「うん、友達のおうち。ごめんね? 明日はちゃんと帰るから。巫女のお仕事もちゃんとする。え? 珠莉(じゅり)ちゃんがむくれてる? 」
ーーどうやらお父さん的には構わないみたいだけど、珠莉というお姉さんがむくれてしまっているらしい。どこの家も似たようなものだなと思った。
僕たちがお互いの気持ちを確認し合い、付き合うことを決めた日だ。
「顔じゃなくて? 顔はいつもだよ?うん、うん、そうだね、いつもじゃなかったね。寝起きのときだけだよね。小顔ローラー♪ 小顔ローラー♪ しようね?」
ーー途中から何かひどいことを言い出していた。
時間が逆行したとしか考えられなかった。
逆行したはすだが、亜美が電話でお姉さんの顔がいつもむくんでいることをいじることを、なぜか僕は止めることは出来なかった。
ーー途中で妹に替わり「ほんとに、ともだちです。あみちゃんには、うちにとまってもらいます」と半ば強引に了承させていた。
タイムリープした主人公は、過去を改変することができるはずだ。だが、どうやら僕の場合は違うらしい。
ーー亜美は僕の部屋ではなく妹の部屋で寝ることになった。
この時間の僕の体には、逆行した僕のこの意識とは別に、ちゃんとこの時時間の僕の意識が存在するようだった。
今の僕には、この時間の僕の体を、指先ひとつ動かすことができなかった。
ーーその代わりに? なのか? 妹が僕の部屋にやってきた。
あぁ、この日に戻ってしまったのかと僕は思った。
「亜美ちゃんと寝るんじゃなかったの?」
今の僕はただの傍観者に過ぎず、過去の僕がすることには一切干渉できないらしい。
しかし、この過去は僕の記憶と異なる点がひとつだけあった。
妹は、ルービックキューブほどの大きさの白い立方体を大事そうに両の手のひらの上に載せていた。
そんなものを妹はこの時、持ってはいなかったはずだった。
そしてそれは、僕がよく知るものにとてもよく似ていた。
匣だ。
白き匣とでも呼べばいいのだろうか。
妹がいつどこでそれを手に入れたのかはわからないが、匣はひとつではなかったのだ。
僕は黒き匣から彼がどのように生まれ、何のためにこの星に送り込まれたのかを聞いていた。
その経緯を考えれば、匣は世界にひとつだけだと思い込んでいた僕は相当なお馬鹿さんだった。
これがもし物語であるのなら、タイムリープした主人公は、もしかしたら妹なのかもしれない。
僕はこれまでの間ずっと、語り部のふりをさせられていただけなのかもしれなかった。
本当に僕という男はどこまでの二番手の男だった。
「わたし、ねぞうわるいもん。おねえさんをべっどからけおとしちゃうもん」
ーーそう言って、妹は僕のベッドに潜り込んできた。
黒き匣が亜美を巫女とし、亜美が選んだ僕を審神者と認めたように、妹も白き匣の巫女になった。
そういうことなのだろう。
匣には巫女だけでなく審神者が必要で、妹はきっと、僕を自らの伴侶に、白き匣の審神者にするために、この時間に時計の針を巻き戻したのだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
夏の嵐
萩尾雅縁
キャラ文芸
垣間見た大人の世界は、かくも美しく、残酷だった。
全寮制寄宿学校から夏季休暇でマナーハウスに戻った「僕」は、祖母の開いた夜会で美しい年上の女性に出会う。英国の美しい田園風景の中、「僕」とその兄、異国の彼女との間に繰り広げられる少年のひと夏の恋の物話。 「胡桃の中の蜃気楼」番外編。
砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】
佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。
ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。
それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが……
——って……アブダビって、どこ⁉︎
※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―
木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。
……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。
小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。
お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。
第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。
横浜で空に一番近いカフェ
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。
転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。
最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。
新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる