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「死神のタナトーシス」#22

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魔女と呼ばれた少女が起こした事件について、この十年間でたくさんの書籍が出版されていた。
元刑事や精神科医など、テレビでよく見る専門家たちが書いた本や、加害者である少女の親(後にゴーストライターな上、無許可だったことが発覚)や、被害者の親たちが書いた本、少女は冤罪であり真犯人は別にいるという陰謀論じみた本、事件自体や少女をモチーフにした小説や漫画、映画、事件を取材する人たちを追いかけて撮ったドキュメンタリー、関連する書籍や映像媒体を妹はすべて買い漁り、独自に新聞や雑誌の記事をスクラップしてまとめたノートを何冊も作っていた。
妹が考えた殺人の手口をまとめた、犯罪の計画ノートのようなものもあった。わたしがかんがえたさいきょうのかんぜんはんざい、だ。
僕の妹は、所謂犯罪者予備軍と揶揄される部類の女の子だった。

「だけど、今の麻衣ちゃんには、それがない?」
「うん。あいつは、元々アニメは好きだったけど、今みたいに毎日アニメばかり観たりはしてなかった」
アニメやゲームは嗜む程度、国内国外問わずドラマや映画も広く浅く嗜む、そんな僕と同じくらいの熱量だった。
妹を占める三つの大切な要素であるアニメ、犯罪、兄を比で表すなら、今の妹はアニメ7、犯罪0、兄3といったところだろう。だけど以前の妹はアニメ1、犯罪8、兄1だった。
「一度死にかけちゃったからじゃないかな……」
そうかもしれなかった。
「一度死にかけた人間は、生や死に対する考え方が変わるっていう?」
そんな話を聞いたことがあった。死生観というやつだ。
「うん。判断や行動の基盤となる考え方も変わるって聞いたことがあるから……」
人の死体が当たり前にそこら辺に転がっていた幕末や戦時中と今の時代は違う。死を間近に感じることは身内の不幸くらいしかない。
「死が間近にないからこそ、猟奇犯罪者に憧れる人たちがいるのかな」
元首相を暗殺した男を英雄視する人たちが、彼の無罪を訴えていたのも記憶に新しかった。
「たぶんそうだと思う。麻衣ちゃんは死を間近に感じたから、死生観がいい方向に変わったんだよ」
そうだといいなと思った。僕はいつか妹が本当に人を殺してしまうんじゃないかとずっと不安だったからだ。
だけど、それだと妹がタナトーシスを依頼した説明はつかない。

なんだか、妹の話ばかりしていた。
「わたしたち、麻衣ちゃんの話ばかりしてるね」
破魔矢さんにも言われてしまった。
いくら大切な妹のこととはいえ、好きな女の子がはじめて家に遊びに来てくれた日にする話じゃなかった。
破魔矢さんにはきっと、僕は妹のことしか頭にない男だと思われてしまっただろう。

「亜美はもっと学くんといろんなこと話したかったのにな……」

破魔矢さんは一人称を本名の亜美に、僕のことも本名の学の名前で呼んでくれた。顔を耳まで真っ赤にして。
「なんだかくすぐったいね。芸名から知り合った芸能人同士のカップルって、どのタイミングで本名で呼ぶようになるんだろうね」
「天馬くんとババパンに聞いておけばよかったなぁ。ババパンは馬場まなみが本名だけど、結城天馬は確か芸名だったよね」
「うん。本名は天馬勇輝だよ。苗字と名前をひっくり返してたの。ゆうきの漢字も変えてるけど」
「全然参考にならないやつだ……」
破魔矢さんは楽しそうに笑って、

「好きだよ、学くん。亜美と付き合って?」

西日野亜美さんとして、田中俊郎ではなく加藤学としての僕にそう言ってくれた。

「僕も、亜美ちゃんが大好きだよ。うん。これからもよろしくね」

僕たちが恋人になった、その瞬間のことだ。

「ィヨッシャアァァァーーーーッ!! 」
歓喜の雄叫びが、僕たちの耳をつんざいた。
誰の声かは言うまでもないだろう。
「おにいちゃんに、かのじょができたぞォーッ! ワッショーーーーイッ!!!」
「あの、麻衣さん? ちょっと勘弁して……破魔矢さ、じゃないや、亜美ちゃんがドン引きしてるから……」
「今夜はお赤飯だァァァーーーーッ!!!」

本当に夕飯にお赤飯が出た。


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