68 / 123
「死神のタナトーシス」#22
しおりを挟む
魔女と呼ばれた少女が起こした事件について、この十年間でたくさんの書籍が出版されていた。
元刑事や精神科医など、テレビでよく見る専門家たちが書いた本や、加害者である少女の親(後にゴーストライターな上、無許可だったことが発覚)や、被害者の親たちが書いた本、少女は冤罪であり真犯人は別にいるという陰謀論じみた本、事件自体や少女をモチーフにした小説や漫画、映画、事件を取材する人たちを追いかけて撮ったドキュメンタリー、関連する書籍や映像媒体を妹はすべて買い漁り、独自に新聞や雑誌の記事をスクラップしてまとめたノートを何冊も作っていた。
妹が考えた殺人の手口をまとめた、犯罪の計画ノートのようなものもあった。わたしがかんがえたさいきょうのかんぜんはんざい、だ。
僕の妹は、所謂犯罪者予備軍と揶揄される部類の女の子だった。
「だけど、今の麻衣ちゃんには、それがない?」
「うん。あいつは、元々アニメは好きだったけど、今みたいに毎日アニメばかり観たりはしてなかった」
アニメやゲームは嗜む程度、国内国外問わずドラマや映画も広く浅く嗜む、そんな僕と同じくらいの熱量だった。
妹を占める三つの大切な要素であるアニメ、犯罪、兄を比で表すなら、今の妹はアニメ7、犯罪0、兄3といったところだろう。だけど以前の妹はアニメ1、犯罪8、兄1だった。
「一度死にかけちゃったからじゃないかな……」
そうかもしれなかった。
「一度死にかけた人間は、生や死に対する考え方が変わるっていう?」
そんな話を聞いたことがあった。死生観というやつだ。
「うん。判断や行動の基盤となる考え方も変わるって聞いたことがあるから……」
人の死体が当たり前にそこら辺に転がっていた幕末や戦時中と今の時代は違う。死を間近に感じることは身内の不幸くらいしかない。
「死が間近にないからこそ、猟奇犯罪者に憧れる人たちがいるのかな」
元首相を暗殺した男を英雄視する人たちが、彼の無罪を訴えていたのも記憶に新しかった。
「たぶんそうだと思う。麻衣ちゃんは死を間近に感じたから、死生観がいい方向に変わったんだよ」
そうだといいなと思った。僕はいつか妹が本当に人を殺してしまうんじゃないかとずっと不安だったからだ。
だけど、それだと妹がタナトーシスを依頼した説明はつかない。
なんだか、妹の話ばかりしていた。
「わたしたち、麻衣ちゃんの話ばかりしてるね」
破魔矢さんにも言われてしまった。
いくら大切な妹のこととはいえ、好きな女の子がはじめて家に遊びに来てくれた日にする話じゃなかった。
破魔矢さんにはきっと、僕は妹のことしか頭にない男だと思われてしまっただろう。
「亜美はもっと学くんといろんなこと話したかったのにな……」
破魔矢さんは一人称を本名の亜美に、僕のことも本名の学の名前で呼んでくれた。顔を耳まで真っ赤にして。
「なんだかくすぐったいね。芸名から知り合った芸能人同士のカップルって、どのタイミングで本名で呼ぶようになるんだろうね」
「天馬くんとババパンに聞いておけばよかったなぁ。ババパンは馬場まなみが本名だけど、結城天馬は確か芸名だったよね」
「うん。本名は天馬勇輝だよ。苗字と名前をひっくり返してたの。ゆうきの漢字も変えてるけど」
「全然参考にならないやつだ……」
破魔矢さんは楽しそうに笑って、
「好きだよ、学くん。亜美と付き合って?」
西日野亜美さんとして、田中俊郎ではなく加藤学としての僕にそう言ってくれた。
「僕も、亜美ちゃんが大好きだよ。うん。これからもよろしくね」
僕たちが恋人になった、その瞬間のことだ。
「ィヨッシャアァァァーーーーッ!! 」
歓喜の雄叫びが、僕たちの耳をつんざいた。
誰の声かは言うまでもないだろう。
「おにいちゃんに、かのじょができたぞォーッ! ワッショーーーーイッ!!!」
「あの、麻衣さん? ちょっと勘弁して……破魔矢さ、じゃないや、亜美ちゃんがドン引きしてるから……」
「今夜はお赤飯だァァァーーーーッ!!!」
本当に夕飯にお赤飯が出た。
元刑事や精神科医など、テレビでよく見る専門家たちが書いた本や、加害者である少女の親(後にゴーストライターな上、無許可だったことが発覚)や、被害者の親たちが書いた本、少女は冤罪であり真犯人は別にいるという陰謀論じみた本、事件自体や少女をモチーフにした小説や漫画、映画、事件を取材する人たちを追いかけて撮ったドキュメンタリー、関連する書籍や映像媒体を妹はすべて買い漁り、独自に新聞や雑誌の記事をスクラップしてまとめたノートを何冊も作っていた。
妹が考えた殺人の手口をまとめた、犯罪の計画ノートのようなものもあった。わたしがかんがえたさいきょうのかんぜんはんざい、だ。
僕の妹は、所謂犯罪者予備軍と揶揄される部類の女の子だった。
「だけど、今の麻衣ちゃんには、それがない?」
「うん。あいつは、元々アニメは好きだったけど、今みたいに毎日アニメばかり観たりはしてなかった」
アニメやゲームは嗜む程度、国内国外問わずドラマや映画も広く浅く嗜む、そんな僕と同じくらいの熱量だった。
妹を占める三つの大切な要素であるアニメ、犯罪、兄を比で表すなら、今の妹はアニメ7、犯罪0、兄3といったところだろう。だけど以前の妹はアニメ1、犯罪8、兄1だった。
「一度死にかけちゃったからじゃないかな……」
そうかもしれなかった。
「一度死にかけた人間は、生や死に対する考え方が変わるっていう?」
そんな話を聞いたことがあった。死生観というやつだ。
「うん。判断や行動の基盤となる考え方も変わるって聞いたことがあるから……」
人の死体が当たり前にそこら辺に転がっていた幕末や戦時中と今の時代は違う。死を間近に感じることは身内の不幸くらいしかない。
「死が間近にないからこそ、猟奇犯罪者に憧れる人たちがいるのかな」
元首相を暗殺した男を英雄視する人たちが、彼の無罪を訴えていたのも記憶に新しかった。
「たぶんそうだと思う。麻衣ちゃんは死を間近に感じたから、死生観がいい方向に変わったんだよ」
そうだといいなと思った。僕はいつか妹が本当に人を殺してしまうんじゃないかとずっと不安だったからだ。
だけど、それだと妹がタナトーシスを依頼した説明はつかない。
なんだか、妹の話ばかりしていた。
「わたしたち、麻衣ちゃんの話ばかりしてるね」
破魔矢さんにも言われてしまった。
いくら大切な妹のこととはいえ、好きな女の子がはじめて家に遊びに来てくれた日にする話じゃなかった。
破魔矢さんにはきっと、僕は妹のことしか頭にない男だと思われてしまっただろう。
「亜美はもっと学くんといろんなこと話したかったのにな……」
破魔矢さんは一人称を本名の亜美に、僕のことも本名の学の名前で呼んでくれた。顔を耳まで真っ赤にして。
「なんだかくすぐったいね。芸名から知り合った芸能人同士のカップルって、どのタイミングで本名で呼ぶようになるんだろうね」
「天馬くんとババパンに聞いておけばよかったなぁ。ババパンは馬場まなみが本名だけど、結城天馬は確か芸名だったよね」
「うん。本名は天馬勇輝だよ。苗字と名前をひっくり返してたの。ゆうきの漢字も変えてるけど」
「全然参考にならないやつだ……」
破魔矢さんは楽しそうに笑って、
「好きだよ、学くん。亜美と付き合って?」
西日野亜美さんとして、田中俊郎ではなく加藤学としての僕にそう言ってくれた。
「僕も、亜美ちゃんが大好きだよ。うん。これからもよろしくね」
僕たちが恋人になった、その瞬間のことだ。
「ィヨッシャアァァァーーーーッ!! 」
歓喜の雄叫びが、僕たちの耳をつんざいた。
誰の声かは言うまでもないだろう。
「おにいちゃんに、かのじょができたぞォーッ! ワッショーーーーイッ!!!」
「あの、麻衣さん? ちょっと勘弁して……破魔矢さ、じゃないや、亜美ちゃんがドン引きしてるから……」
「今夜はお赤飯だァァァーーーーッ!!!」
本当に夕飯にお赤飯が出た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽
偽月
キャラ文芸
「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」
大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。
八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。
人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。
火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。
八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。
火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。
蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
久遠の呪祓師―― 怪異探偵犬神零の大正帝都アヤカシ奇譚
山岸マロニィ
キャラ文芸
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
第伍話 連載中
【持病悪化のため休載】
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
モダンガールを目指して上京した椎葉桜子が勤めだした仕事先は、奇妙な探偵社。
浮世離れした美貌の探偵・犬神零と、式神を使う生意気な居候・ハルアキと共に、不可解な事件の解決に奔走する。
◤ 大正 × 妖 × ミステリー ◢
大正ロマン溢れる帝都・東京の裏通りを舞台に、冒険活劇が幕を開ける!
【シリーズ詳細】
第壱話――扉(書籍・レンタルに収録)
第弐話――鴉揚羽(書籍・レンタルに収録)
第参話――九十九ノ段(完結・公開中)
第肆話――壺(完結・公開中)
第伍話――箪笥(連載準備中)
番外編・百合御殿ノ三姉妹(完結・別ページにて公開中)
※各話とも、単独でお楽しみ頂ける内容となっております。
【第4回 キャラ文芸大賞】
旧タイトル『犬神心霊探偵社 第壱話【扉】』が、奨励賞に選ばれました。
【備考(第壱話――扉)】
初稿 2010年 ブログ及びHPにて別名義で掲載
改稿① 2015年 小説家になろうにて別名義で掲載
改稿② 2020年 ノベルデイズ、ノベルアップ+にて掲載
※以上、現在は公開しておりません。
改稿③ 2021年 第4回 キャラ文芸大賞 奨励賞に選出
改稿④ 2021年
改稿⑤ 2022年 書籍化
下宿屋 東風荘 6
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*°☆.。.:*・°☆*:..
楽しい旅行のあと、陰陽師を名乗る男から奇襲を受けた下宿屋 東風荘。
それぞれの社のお狐達が守ってくれる中、幼馴染航平もお狐様の養子となり、新たに新学期を迎えるが______
雪翔に平穏な日々はいつ訪れるのか……
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆
表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。
神様に愛されてる巫女のわたしはずっと悪神に恋してる。 ー 隠れ子と鬼と神隠しの巫女 ー
雨野 美哉(あめの みかな)
キャラ文芸
M県Y市にある西日野神社の巫女、西日野珠莉は、烏鷺慈雨由良波斯射大神という神の寵愛を受けていた。
そんな彼女の前に、初恋の相手であるウロジューユ・ラハ・スィーイという少年が現れ、巫女と神、そして悪神の、手に汗握り血で血を洗う三角関係が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる