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「死神のタナトーシス」#20
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僕と破魔矢さんは、瀬名さんの車が見えなくなるまで見送った。
彼女は僕に何も聞かなかった。
車の中での僕と瀬名さんの会話は聞かなかったことにしたのかもしれない。
ただずっと僕の服の袖を握っていた。
僕は家の玄関のドアを開けると、全く何をどうしたらいいのかわからなくなっていた頭をフル回転させ、「お、お先に、ど、ど、どうぞぞ……」と頑張って彼女のエスコートに挑戦した。ちなみに僕の頭の中には、エスコート=レディーファーストという認識しかなかった。
誰か詳しい人がいるなら、ぜひ僕のメールアドレスかRINNEにメッセージを送ってほしかった。
「ありがとう」
破魔矢さんはクスッと笑って僕の家に入ると、
「おにーちゃん、おかえりー!!」
いつも通り僕を待ち構えていた妹が、よりによってまさかのほぼ下着姿、スーパーブラコンモードで抱きついてこようとし、
「って、はまやさん!? キェエエエエーーーーッ!!」
入ってきたのが破魔矢さんと気付き、慌てて進路変更した結果、壁に思いっきり激突した。なんでこの子、この間から悲鳴が宇宙の帝王みたいなんだろう。ちょっと似てきてるような気さえしていた。
僕は破魔矢さんが家に来るという、想定外の事態になり、このかわいい妹の存在をすっかり忘れてしまっていた。
こうなることくらい予想できたはず……いや、無理だった。まさかのほぼ下着姿、スーパーブラコンモードで抱きついてくるなんて、年に一回あるかどうかのことだったからだ。
妹は人間離れした動きで、むくりと起き上がると、
「どうして、はまやさんが、うちに……」
ゾンビのように手を前に出して、破魔矢さんににじりよっていった。1ヶ月ほど前に一度だけ、ほんの少し会っただけの彼女を「お義姉さん」と呼んだりしたらどうしようかと心配していたが、ちゃんと破魔矢さんと呼んだので僕は少し安心した。
破魔矢さんは慌てて僕の後ろに隠れた。初めて会ったときに鬼頭さんの後ろに隠れていたのを思い出させる動きだった。彼女はあのときのように顔だけひょこっと出して、
「えっと、麻衣ちゃん、だよね? すごい音してたけど、だいじょうぶ? 怪我してない?」
妹の体を心配してくれていた。
「ぜんぜんだいじょーぶ!!」
壁へぶつかっていったスピードやぶつかり方から相当痛そうに見えたが、脳内でアドレナリンが大量分泌されているのか、妹はまったく平気そうだった。後で絶対泣きわめくやつだった。
「まさか、おにーちゃんが、おんなのこをうちに、つれてくるひが、くるなんて……しかも、こんなにかわいいこ……」
妹はそんなことを言って、涙をぽろぽろとこぼしはじめた。こいつの情緒は一体どうなってるんだろうかと思ったけど、壁にぶつかったところが痛くなってきたんだなと思った。涙が出てきたのを、なんか感動的な話でごまかそうとしてるのだ。
僕はリビングのテレビ台の下の段、薬箱があるところから、親が買い置きしていた湿布の箱を手に取った。うちの親はふたりとも肩こりがひどい。特に母親は頭痛がしたり吐き気がするくらいひどいらしく、よく湿布を使っているので、常に何箱かストックがある。
ほぼ下着姿の妹は、ぶつけた場所が何ヵ所か分かりやすく変色し始めていた。
「うう……いたいよぅ……おにいちゃん……」
やっぱり泣き出した妹の体に、僕は一枚一枚丁寧に湿布を貼ってあげた。
「へやまで、はこんで……。べっどでよこになる……」
本当に世話が焼ける妹だった。
ごめんね、すぐもどるから、と僕は破魔矢さんに断りを入れると、妹を抱き上げた。
「お、お姫様抱っこ……お姫様抱っこだ……本当にする人、いるんだ……」
破魔矢さんの、思わず恥ずかしくなるような実況が入ったりもしたが、僕はそのまま妹を部屋に運んだ。
「ほんとうに、かわいいね、はまやさん」
妹は破魔矢さんに聞こえないように、僕の耳元で囁いた。
「おにいちゃんのこと、すきになるおんなのこなんて、わたしだけだとおもってたけど、ちがってたね」
その顔は嬉しそうに笑っているようにも見えたけれど、寂しくて泣きそうになっているように見えた。
きっと僕がシスコンだからだろう。
彼女は僕に何も聞かなかった。
車の中での僕と瀬名さんの会話は聞かなかったことにしたのかもしれない。
ただずっと僕の服の袖を握っていた。
僕は家の玄関のドアを開けると、全く何をどうしたらいいのかわからなくなっていた頭をフル回転させ、「お、お先に、ど、ど、どうぞぞ……」と頑張って彼女のエスコートに挑戦した。ちなみに僕の頭の中には、エスコート=レディーファーストという認識しかなかった。
誰か詳しい人がいるなら、ぜひ僕のメールアドレスかRINNEにメッセージを送ってほしかった。
「ありがとう」
破魔矢さんはクスッと笑って僕の家に入ると、
「おにーちゃん、おかえりー!!」
いつも通り僕を待ち構えていた妹が、よりによってまさかのほぼ下着姿、スーパーブラコンモードで抱きついてこようとし、
「って、はまやさん!? キェエエエエーーーーッ!!」
入ってきたのが破魔矢さんと気付き、慌てて進路変更した結果、壁に思いっきり激突した。なんでこの子、この間から悲鳴が宇宙の帝王みたいなんだろう。ちょっと似てきてるような気さえしていた。
僕は破魔矢さんが家に来るという、想定外の事態になり、このかわいい妹の存在をすっかり忘れてしまっていた。
こうなることくらい予想できたはず……いや、無理だった。まさかのほぼ下着姿、スーパーブラコンモードで抱きついてくるなんて、年に一回あるかどうかのことだったからだ。
妹は人間離れした動きで、むくりと起き上がると、
「どうして、はまやさんが、うちに……」
ゾンビのように手を前に出して、破魔矢さんににじりよっていった。1ヶ月ほど前に一度だけ、ほんの少し会っただけの彼女を「お義姉さん」と呼んだりしたらどうしようかと心配していたが、ちゃんと破魔矢さんと呼んだので僕は少し安心した。
破魔矢さんは慌てて僕の後ろに隠れた。初めて会ったときに鬼頭さんの後ろに隠れていたのを思い出させる動きだった。彼女はあのときのように顔だけひょこっと出して、
「えっと、麻衣ちゃん、だよね? すごい音してたけど、だいじょうぶ? 怪我してない?」
妹の体を心配してくれていた。
「ぜんぜんだいじょーぶ!!」
壁へぶつかっていったスピードやぶつかり方から相当痛そうに見えたが、脳内でアドレナリンが大量分泌されているのか、妹はまったく平気そうだった。後で絶対泣きわめくやつだった。
「まさか、おにーちゃんが、おんなのこをうちに、つれてくるひが、くるなんて……しかも、こんなにかわいいこ……」
妹はそんなことを言って、涙をぽろぽろとこぼしはじめた。こいつの情緒は一体どうなってるんだろうかと思ったけど、壁にぶつかったところが痛くなってきたんだなと思った。涙が出てきたのを、なんか感動的な話でごまかそうとしてるのだ。
僕はリビングのテレビ台の下の段、薬箱があるところから、親が買い置きしていた湿布の箱を手に取った。うちの親はふたりとも肩こりがひどい。特に母親は頭痛がしたり吐き気がするくらいひどいらしく、よく湿布を使っているので、常に何箱かストックがある。
ほぼ下着姿の妹は、ぶつけた場所が何ヵ所か分かりやすく変色し始めていた。
「うう……いたいよぅ……おにいちゃん……」
やっぱり泣き出した妹の体に、僕は一枚一枚丁寧に湿布を貼ってあげた。
「へやまで、はこんで……。べっどでよこになる……」
本当に世話が焼ける妹だった。
ごめんね、すぐもどるから、と僕は破魔矢さんに断りを入れると、妹を抱き上げた。
「お、お姫様抱っこ……お姫様抱っこだ……本当にする人、いるんだ……」
破魔矢さんの、思わず恥ずかしくなるような実況が入ったりもしたが、僕はそのまま妹を部屋に運んだ。
「ほんとうに、かわいいね、はまやさん」
妹は破魔矢さんに聞こえないように、僕の耳元で囁いた。
「おにいちゃんのこと、すきになるおんなのこなんて、わたしだけだとおもってたけど、ちがってたね」
その顔は嬉しそうに笑っているようにも見えたけれど、寂しくて泣きそうになっているように見えた。
きっと僕がシスコンだからだろう。
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