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#45 第一部 最終話

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以上が、加藤麻衣の死と小島雪、小島夜子、小島昼子の行方不明の真相だ。
先輩の秘書の藤本さんが僕に見せた写真にあった鈴木芹香や大塚恋子、名古屋真由美、宮内立夏といった死亡者・行方不明者も、妹と僕が事故死に見せかけたり行方不明を装う形でその命を奪った。
先輩や藤本さんは、僕がこの女の子たちの死に関係していると確信している。全員が嘲ル者として最後の仕事をした日に僕と現場を共にしており、その後事故死したり行方不明になっていたからだ。
だが、どうやら藤本さんは、僕が彼女たちの死に関与していると確信するだけの情報を他にも持っているようだった。
「あなたとこの子たちのスマホにインストールされている嘲ル者のアプリのGPSのログを調べさせてもらったの。仕事を終えた後、あなたが被害者と事故現場まで行動を共にしていたことがわかったわ。行方不明の子たちも、彼女たちのスマホがしばらくあなたの住むアパートにあったことがわかっているわ」
あまりに初歩的すぎるミスをしていたことに僕は笑ってしまった。
そんなことで足がつき、藤本さんとそのバックにいる先輩に追い詰められているなんて、本当に間の抜けた話だった。どうやら僕は妹と違い、犯罪者としての才能はなかったようだ。
だけど、何も問題はない。警察を呼ばれようが、ここで店員のふりをしている元ヤクザたちに殺されようが、何の問題もなかった。
僕のバックアップはすでに用意されているからだ。
写真を見せられただけだったが、まだ高校生の少年だった。妹は僕の新しい体として、十年前と同じ高校一年生の少年を選んだのだ。僕は二十歳の体を持つ妹にお兄ちゃんと呼ばれることになるのかと思ったが、妹もまた十三歳の中学一年生の少女を用意していた。

慣れ親しんだこの肉体を捨てるのは少し抵抗があったが、三ヶ月前夜子さんに刺されたこの体は限界を迎えつつあった。
病院に行けば、医者は刺された傷だとすぐに気づく。警察を呼ばれたりすれば大事になる。誰に刺されたのか、誰がホチキスと瞬間接着剤で応急処置をしたのか捜査が始まり、警察は僕と妹がしてきたことにたどり着いてしまう。
だから毎日のようにろくに効きもしない鎮痛剤を何十錠も飲み続けてきたが、この体はもう長くは持ちそうになかった。傷口は化膿し膿が溜まっていた。この先に待っているのはなんだろうか。この傷が原因で何かしらの合併症を起こし、僕は高熱や激しい痛みにうなされるのだろう。
早く楽になりたかった。この痛みから解放されるのなら、僕にとって死は救済だ。死が救済であると信じていた妹は死を恐怖しながら死んでいき、そんな妹を否定していた僕が死を救済と考えるようになるなんて皮肉なものだった。
救済か恐怖かは他人が決めることではないのだ。自分自身が決めることなのだ。そして、僕にとって死は恐怖などではなく救済以外の何物でもなかった。
痛みから解放されたかった。
妹から解放されたかった。
魔女と共に生きる王になることを選んだのは、次の肉体で目覚める僕は、僕であって僕ではないからだ。
妹と生きていくのは僕じゃなくていい。
僕じゃない「僕」でいい。

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