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亜美が立てた殺人計画は、わたしが練り直したことにより、より精度の高いものになった。
当たり前のことだが、勿論成功した。
今思えば、それでもやはりずさんで、完全犯罪の計画としてはいまいちだった。
もう少し準備期間があれば、より精度の高いものにできただろう。
だが、大寒波がやってきたあの日が、先生を凍死させるには一番最適の日だった。だから仕方がなかった。
それに、警察や学校が早々に不慮の事故として処理するだろうことは容易に想像がついていたし、結果として完全犯罪が成立したのだから、何の問題もなかった。
わたしの計画はそれからさらに1ヶ月後、第三段階に移行することになった。
回収した先生のスマホを、クラスメイトのひとりに送ることだ。
その者は、先生の死の真相を最も知りたがっており、頭の良い者でなければいけなかった。経済的な余裕も必要だった。
候補はふたりいた。
ひとりは星野修司。
もうひとりは、藤本花梨(ふじもと かりん)という女子生徒だった。
どちらも、クラスメイトの中では一番先生に近く、親しい間柄にあり、ふたりとも彼女に対し恋心を抱いていた。
死の真相を誰よりも知りたがっていることは間違いなかったし、ふたりとも頭もよかった。
先生が何故死ぬことになったのか、死ななければいけなかったのかは、明石家珠莉や西日野亜美、八王子梨沙の秘密にまでたどり着ければわかるだろう。
だが、わたしにまでたどり着けるだろうか。仮にわたしにたどり着いたとしても、本当の死の真相を理解できるだろうか。
わたしという存在を理解できるだろうか。
だが、星野がうってつけの人材かといえばそうではなかった。
頭は良いが、経済力が花梨とは3桁か、あるいは4桁は違っていたからだ。
だからわたしは花梨を選ぶことにした。
彼女は藤本商事というそれなりの会社の社長令嬢で、執事兼運転手の男にリムジンで送り迎えをさせているような生徒だったからだ。
彼女は先生が顧問を務めていた天文部の部員で、先生を崇拝しているといっても過言ではなく、一時期は髪型から化粧まで先生の真似をしていた。
サッカー部の大和昭吾と付き合いはじめた頃からは以前のように先生の金魚の糞のような言動は薄れていたが、先生の死をきっかけに再び崇拝がぶりかえしているように見えていた。
神道では、人は死ねば神になるという。だが本当にそんな風に死者を神のように生前より崇める者がいることにわたしは驚いた。
先生のスマホを彼女の自宅に宅配便で送り、一枚のメッセージカードを同封した。
3年C組の中に犯人がいる、とだけヒントを与えた。
彼女なら西日野亜美らのようにわたしが手を貸さなくても、きっとその頭の良さと経済力で、先生を殺した犯人を見つけ出そうとするだろうと思った。
けれど、3ヶ月も彼女は動きを見せなかった。
期待外れだったかと落胆していたところにわたしのスマホに届いたのが、件の西日野亜美からのグループチャットへの招待だった。
わたしはそのグループチャット「アカシャの門」の名前を見たとき、明石家珠莉が自ら名付けたものだと思った。
万引きでしか自分を表現できないような女王様気取りのブスが、今度は神様を気取ろうとしているのだと勘違いしてしまった。
が、そうではなかった。
わたしは藤本花梨がわたしの想像をはるかに上回る、とんでもない逸材であったことに驚かされた。
アカシャの門は、本当に宗教だった。
死んだ先生がアリステラピノアという神として存在し、やがてクラスメイトのほぼ全員が参加するようになるそのグループチャットの神は、皆から崇拝される存在となっていった。
わたしが楽しい思い出だけを書き残していくために買ったこの日記帳は、本当にその役割を果たすものとなった。
ただひとつ残念なことがあった。
花梨はそこまでの頭の良さを持ちながらも、わたしにたどり着くことができなかっただけではなく、明石家珠莉らの秘密にさえたどり着けなかったことだ。
結果として彼女は、誰が先生を殺したのかわからないなら、いっそ全員を殺してしまえばいいという発想に至ってしまった。
愚かだなと思った。
当たり前のことだが、勿論成功した。
今思えば、それでもやはりずさんで、完全犯罪の計画としてはいまいちだった。
もう少し準備期間があれば、より精度の高いものにできただろう。
だが、大寒波がやってきたあの日が、先生を凍死させるには一番最適の日だった。だから仕方がなかった。
それに、警察や学校が早々に不慮の事故として処理するだろうことは容易に想像がついていたし、結果として完全犯罪が成立したのだから、何の問題もなかった。
わたしの計画はそれからさらに1ヶ月後、第三段階に移行することになった。
回収した先生のスマホを、クラスメイトのひとりに送ることだ。
その者は、先生の死の真相を最も知りたがっており、頭の良い者でなければいけなかった。経済的な余裕も必要だった。
候補はふたりいた。
ひとりは星野修司。
もうひとりは、藤本花梨(ふじもと かりん)という女子生徒だった。
どちらも、クラスメイトの中では一番先生に近く、親しい間柄にあり、ふたりとも彼女に対し恋心を抱いていた。
死の真相を誰よりも知りたがっていることは間違いなかったし、ふたりとも頭もよかった。
先生が何故死ぬことになったのか、死ななければいけなかったのかは、明石家珠莉や西日野亜美、八王子梨沙の秘密にまでたどり着ければわかるだろう。
だが、わたしにまでたどり着けるだろうか。仮にわたしにたどり着いたとしても、本当の死の真相を理解できるだろうか。
わたしという存在を理解できるだろうか。
だが、星野がうってつけの人材かといえばそうではなかった。
頭は良いが、経済力が花梨とは3桁か、あるいは4桁は違っていたからだ。
だからわたしは花梨を選ぶことにした。
彼女は藤本商事というそれなりの会社の社長令嬢で、執事兼運転手の男にリムジンで送り迎えをさせているような生徒だったからだ。
彼女は先生が顧問を務めていた天文部の部員で、先生を崇拝しているといっても過言ではなく、一時期は髪型から化粧まで先生の真似をしていた。
サッカー部の大和昭吾と付き合いはじめた頃からは以前のように先生の金魚の糞のような言動は薄れていたが、先生の死をきっかけに再び崇拝がぶりかえしているように見えていた。
神道では、人は死ねば神になるという。だが本当にそんな風に死者を神のように生前より崇める者がいることにわたしは驚いた。
先生のスマホを彼女の自宅に宅配便で送り、一枚のメッセージカードを同封した。
3年C組の中に犯人がいる、とだけヒントを与えた。
彼女なら西日野亜美らのようにわたしが手を貸さなくても、きっとその頭の良さと経済力で、先生を殺した犯人を見つけ出そうとするだろうと思った。
けれど、3ヶ月も彼女は動きを見せなかった。
期待外れだったかと落胆していたところにわたしのスマホに届いたのが、件の西日野亜美からのグループチャットへの招待だった。
わたしはそのグループチャット「アカシャの門」の名前を見たとき、明石家珠莉が自ら名付けたものだと思った。
万引きでしか自分を表現できないような女王様気取りのブスが、今度は神様を気取ろうとしているのだと勘違いしてしまった。
が、そうではなかった。
わたしは藤本花梨がわたしの想像をはるかに上回る、とんでもない逸材であったことに驚かされた。
アカシャの門は、本当に宗教だった。
死んだ先生がアリステラピノアという神として存在し、やがてクラスメイトのほぼ全員が参加するようになるそのグループチャットの神は、皆から崇拝される存在となっていった。
わたしが楽しい思い出だけを書き残していくために買ったこの日記帳は、本当にその役割を果たすものとなった。
ただひとつ残念なことがあった。
花梨はそこまでの頭の良さを持ちながらも、わたしにたどり着くことができなかっただけではなく、明石家珠莉らの秘密にさえたどり着けなかったことだ。
結果として彼女は、誰が先生を殺したのかわからないなら、いっそ全員を殺してしまえばいいという発想に至ってしまった。
愚かだなと思った。
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