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最終話「美少女フィギュアのパンツを見るのが何より好きな俺は(中略)ラノベ作家になることにした。は、タイトルに偽りがありました」 加筆修正版
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亜美が言っていた、妹は実は俺のことが好きだという話を、俺はふと思い出していた。
まさかとは思うが、対抗心を燃やした結果がこれだということだろうか。
妹は明らかに意気消沈しており、
「この二年間? 三年間? わたしも頑張ったら破魔矢梨沙に勝てるかなって、お兄ちゃんを亜美さんに取られないですむかなって思ってたんだけど……
あの破魔矢梨沙がこんなにかわいいとか、なにこれ、もうチートじゃん……
生まれてからずっといっしょにいたわたしよりも、お兄ちゃんのことを理解してくれる人が、こんなにかわいかったら、わたしなんか絶対勝てるわけないじゃん……」
瞳に涙を溜めながら、亜美と俺の目の前で敗北宣言した。
マジか、と俺は思った。
「お前、彼氏いるんじゃなかったのか?」
「あんなのお兄ちゃんが亜美さんと仲良くしだしたから、やきもち焼かせるための嘘にきまってんじゃん」
妹にキッと睨まれた。
中学時代から付き合っている彼氏がいるという話は、どうやら嘘だったらしい。
俺も亜美も、まさか玄関先でこんなことになるとは思っていなかった。
亜美と妹のファーストインプレッションはもっとアットホームな感じになるだろうと俺は想像していたのだが、真逆の方向に行ってしまっていた。
俺はただあたふたすることしかできなかったが、亜美は違った。
「ごめんなさい、雪さん。わたし、本当にあなたのお兄さんのことが好きなの」
亜美は泣きじゃくる妹を抱きしめて、
「章くんは、わたしが本を出すたびにいつも感想や近況を教えてくれるお手紙をくれて、それがわたしの心の支えになってた。
大学で出会う前から、三年前からずっと、わたしは章くんのことが好きだったの」
頭をなでながらそう言った。
「知ってる……お兄ちゃんはいつも破魔矢梨沙の、亜美さんの話ばっかりしてた……」
鼻をすすりながら妹は返事をした。
「お兄ちゃんは亜美さんから返事をもらえなくて寂しそうにしてて……そんなの普通に考えたら当たり前のことなんだけど、わたしはすごく腹が立って、亜美さんの小説を全部読んだの……
読んだらわかったんだ。亜美さんは手紙じゃなくて小説でお兄ちゃんに返事をしてくれてるんだって……」
俺が亜美から聞かされるまで気づかなかったことに、妹はとっくに気づいていたことに、俺はただただ驚くしかなかった。
「わたしはあなたから大好きなお兄さんを奪うわけじゃないの。
章くんはこれからも雪さんのお兄さんのままだし、一生雪さんを大事にすると思う。
章くんの大事な人たちの中に、わたしも雪さんといっしょに入れてもらうだけ。
それから、わたしの大事な人たちの中に、雪さんにも入ってもらうだけ。
雪さんはこれまで通り章くんに甘えていいし、これからはわたしにも甘えていいんだよ」
妹は、うん、うん、と言いながら、亜美の胸に顔をうずめると、
「おっぱいまで負けてるから、さすがにもうしょうがないや」
と言って、顔を上げると無理矢理笑顔を作った。
「亜美さん、お兄ちゃんのことをよろしくお願いします」
妹は亜美に深々と頭を下げた。
妹の想いを知らされたときには一体どうなることやらと思った。
だが、妹は亜美のことを認めてくれて、俺のことは全部ではないにしろ吹っ切ってくれたようで、ふたりはあっという間に仲良くなった。
うちの妹は歩くコミュ力であり、コミュ障の俺の扱いにも慣れている。
そのため、同じコミュ障の亜美との距離の縮めることはさして難しいことではなかったのだろう。
亜美にとっても姉の珠莉がコミュ力の化身のような子だ。姉に接するようにすればいいのだとわかったのかもしれない。
一緒に夕御飯を作ってくれ、それを3人で食べた後は、ふたりは妹の部屋でガールズトークをはじめてしまい、そのまま我が家に泊まっていくことになった。
それを聞き付けた珠莉までが我が家にやってきた。
日永家がこんなに賑やかになったのは、もしかしたらはじめてのことかもしれなかった。
が、俺はといえば、その隣の部屋でひとりキヅイセやフジキカのアクセス数や感想を確認したりしていた。
こんなはずじゃなかったのにな、と思いながらも、他にすることがなかったのだ。
俺の話題で盛り上がり次第に3人とも声が大きくなっていくことや、別に悪口を言われているわけではないのだが、その恥ずかしい内容に耐えられなくなった俺は、ノートパソコンを持って一階のリビングに逃げ込むことにした。
一通り感想に目を通し、珠莉がいつもしてくれているような感じで返信を書いていると、4つの投稿サイトで、最もアクセス数が多いサイトのアカウントにメールが届いた。
中堅の出版社の編集者を名乗る人物からの、キヅイセを書籍化したい、という内容のメールだった。
大手の出版社ではないが、ネット小説の書籍化をいくつも手掛けており、その多くがアニメ化し、大ヒット作になったりもしている会社だった。
「ついに来た」
と俺は口にしていたが、連載自体はまだ第1部の途中だったから、早すぎるくらいだった。
だが、文庫としてならすでに数冊分の分量があったから、そういうこともあるのだろうと思った。
俺はノートパソコンを両手で持つと、慌てて階段を駆け上がり、妹の部屋に向かった。
ハァハァと息を切らし、興奮のあまりドアをノックすることを忘れていたせいで、俺の目に飛び込んできたのは、
珠莉に無理矢理ピノアの格好をさせられている途中の妹の半裸、
だった。
「な、な、何で自分の彼女の目の前で、妹の裸見てハァハァ言ってんだ、コラーッ」
妹が俺の顔面に向かって何かを投げつけてきた。
ブラジャーだった。
「ちょ、ちょっと待って! 話、聞いて!!」
「聞けるかボケェッ」
今度はパンツが投げられてきた。
「何で彼女の目の前で、妹のブラとパンツ、頭に載せてんだーっ!!」
「お前が投げてきたからだろ!? コントロール良すぎなんだよ!」
「県ナンバー2のJKインフルエンサーなめんじゃねーぞぉ!!」
今日くらいは多少理不尽な目にあっても仕方がないと諦めることにした。
俺が妹に亜美を紹介した日だったのだから。
俺に恋をしてくれていた妹が失恋してしまった日だったのだから。
それに、このときの俺はまだ知らなかったが、この日は、俺と亜美と妹と珠莉、数年後に4人で暮らすようになる家族が、はじめて集まった日だったのだから。
まさかとは思うが、対抗心を燃やした結果がこれだということだろうか。
妹は明らかに意気消沈しており、
「この二年間? 三年間? わたしも頑張ったら破魔矢梨沙に勝てるかなって、お兄ちゃんを亜美さんに取られないですむかなって思ってたんだけど……
あの破魔矢梨沙がこんなにかわいいとか、なにこれ、もうチートじゃん……
生まれてからずっといっしょにいたわたしよりも、お兄ちゃんのことを理解してくれる人が、こんなにかわいかったら、わたしなんか絶対勝てるわけないじゃん……」
瞳に涙を溜めながら、亜美と俺の目の前で敗北宣言した。
マジか、と俺は思った。
「お前、彼氏いるんじゃなかったのか?」
「あんなのお兄ちゃんが亜美さんと仲良くしだしたから、やきもち焼かせるための嘘にきまってんじゃん」
妹にキッと睨まれた。
中学時代から付き合っている彼氏がいるという話は、どうやら嘘だったらしい。
俺も亜美も、まさか玄関先でこんなことになるとは思っていなかった。
亜美と妹のファーストインプレッションはもっとアットホームな感じになるだろうと俺は想像していたのだが、真逆の方向に行ってしまっていた。
俺はただあたふたすることしかできなかったが、亜美は違った。
「ごめんなさい、雪さん。わたし、本当にあなたのお兄さんのことが好きなの」
亜美は泣きじゃくる妹を抱きしめて、
「章くんは、わたしが本を出すたびにいつも感想や近況を教えてくれるお手紙をくれて、それがわたしの心の支えになってた。
大学で出会う前から、三年前からずっと、わたしは章くんのことが好きだったの」
頭をなでながらそう言った。
「知ってる……お兄ちゃんはいつも破魔矢梨沙の、亜美さんの話ばっかりしてた……」
鼻をすすりながら妹は返事をした。
「お兄ちゃんは亜美さんから返事をもらえなくて寂しそうにしてて……そんなの普通に考えたら当たり前のことなんだけど、わたしはすごく腹が立って、亜美さんの小説を全部読んだの……
読んだらわかったんだ。亜美さんは手紙じゃなくて小説でお兄ちゃんに返事をしてくれてるんだって……」
俺が亜美から聞かされるまで気づかなかったことに、妹はとっくに気づいていたことに、俺はただただ驚くしかなかった。
「わたしはあなたから大好きなお兄さんを奪うわけじゃないの。
章くんはこれからも雪さんのお兄さんのままだし、一生雪さんを大事にすると思う。
章くんの大事な人たちの中に、わたしも雪さんといっしょに入れてもらうだけ。
それから、わたしの大事な人たちの中に、雪さんにも入ってもらうだけ。
雪さんはこれまで通り章くんに甘えていいし、これからはわたしにも甘えていいんだよ」
妹は、うん、うん、と言いながら、亜美の胸に顔をうずめると、
「おっぱいまで負けてるから、さすがにもうしょうがないや」
と言って、顔を上げると無理矢理笑顔を作った。
「亜美さん、お兄ちゃんのことをよろしくお願いします」
妹は亜美に深々と頭を下げた。
妹の想いを知らされたときには一体どうなることやらと思った。
だが、妹は亜美のことを認めてくれて、俺のことは全部ではないにしろ吹っ切ってくれたようで、ふたりはあっという間に仲良くなった。
うちの妹は歩くコミュ力であり、コミュ障の俺の扱いにも慣れている。
そのため、同じコミュ障の亜美との距離の縮めることはさして難しいことではなかったのだろう。
亜美にとっても姉の珠莉がコミュ力の化身のような子だ。姉に接するようにすればいいのだとわかったのかもしれない。
一緒に夕御飯を作ってくれ、それを3人で食べた後は、ふたりは妹の部屋でガールズトークをはじめてしまい、そのまま我が家に泊まっていくことになった。
それを聞き付けた珠莉までが我が家にやってきた。
日永家がこんなに賑やかになったのは、もしかしたらはじめてのことかもしれなかった。
が、俺はといえば、その隣の部屋でひとりキヅイセやフジキカのアクセス数や感想を確認したりしていた。
こんなはずじゃなかったのにな、と思いながらも、他にすることがなかったのだ。
俺の話題で盛り上がり次第に3人とも声が大きくなっていくことや、別に悪口を言われているわけではないのだが、その恥ずかしい内容に耐えられなくなった俺は、ノートパソコンを持って一階のリビングに逃げ込むことにした。
一通り感想に目を通し、珠莉がいつもしてくれているような感じで返信を書いていると、4つの投稿サイトで、最もアクセス数が多いサイトのアカウントにメールが届いた。
中堅の出版社の編集者を名乗る人物からの、キヅイセを書籍化したい、という内容のメールだった。
大手の出版社ではないが、ネット小説の書籍化をいくつも手掛けており、その多くがアニメ化し、大ヒット作になったりもしている会社だった。
「ついに来た」
と俺は口にしていたが、連載自体はまだ第1部の途中だったから、早すぎるくらいだった。
だが、文庫としてならすでに数冊分の分量があったから、そういうこともあるのだろうと思った。
俺はノートパソコンを両手で持つと、慌てて階段を駆け上がり、妹の部屋に向かった。
ハァハァと息を切らし、興奮のあまりドアをノックすることを忘れていたせいで、俺の目に飛び込んできたのは、
珠莉に無理矢理ピノアの格好をさせられている途中の妹の半裸、
だった。
「な、な、何で自分の彼女の目の前で、妹の裸見てハァハァ言ってんだ、コラーッ」
妹が俺の顔面に向かって何かを投げつけてきた。
ブラジャーだった。
「ちょ、ちょっと待って! 話、聞いて!!」
「聞けるかボケェッ」
今度はパンツが投げられてきた。
「何で彼女の目の前で、妹のブラとパンツ、頭に載せてんだーっ!!」
「お前が投げてきたからだろ!? コントロール良すぎなんだよ!」
「県ナンバー2のJKインフルエンサーなめんじゃねーぞぉ!!」
今日くらいは多少理不尽な目にあっても仕方がないと諦めることにした。
俺が妹に亜美を紹介した日だったのだから。
俺に恋をしてくれていた妹が失恋してしまった日だったのだから。
それに、このときの俺はまだ知らなかったが、この日は、俺と亜美と妹と珠莉、数年後に4人で暮らすようになる家族が、はじめて集まった日だったのだから。
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