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第49話「とりにくチキン」④ 加筆修正版
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第1部でパーフェクト・ピノアとなったピノアは、第2部でさらにアルティメット・ピノアとでも言うべき存在に進化した。
第3部はまだ書かれていなかったが、ピノアを主人公とし、異世界人であるピノアが逆に1部と2部の主人公であったレンジが生まれ育った街に転移してくる話になるという。
そうなれば、アルティメット・ピノアはライジングアルティメット・ピノアともいうべき存在になるだろう。
ピノアがメインヒロインになる4部以降は、ピノア・コンプリート21だろうか。
キヅイセは全九部作、さらにスピンオフが三作予定されている。
それ以降のピノアは、亜美の力を借り、俺の中でもはや形容する言葉がないくらいの存在に進化するだろう。
おかしな話をしているのはわかっていた。
オタクという者は、みんな現実と虚構の区別がちゃんとできているものだ。
現実のパートナーと虚構の推しは全く別物で、顔はもちろん性格も全然似ていなかったり、正反対だったりする。
それがオタクという者のごくごく自然な生き方だ。
だが俺は、俺の中にしかいなかった虚構の推しを、現実のパートナーになるかもしれない女の子に育ててもらったのだ。
育てた本人が、最強最悪の恋敵と表現するくらいに。
オタクはどうして、漫画やラノベ、アニメやゲームのキャラクターに恋をするのか。
その答えは簡単だ。
それがたとえ一方通行のものでしかなかったとしても、キャラクターは自分を裏切らないからだ。
作品の中で誰かと恋仲になろうが、たとえ死んでしまったとしても、オタクは脳内で自分にとって不都合な情報を排除し、自分にとって都合のいいように補完することができるからだ。
まぁ、一部の過激なオタクの中には、恋愛禁止のはずのアイドルの熱愛が発覚したときのドルオタのように、作中で恋人ができたり過去に恋人がいたとわかるやいなや、まるで日本国旗を燃やす近隣諸国の過激な人達のように、単行本を燃やしたり円盤を割ったりする輩もいたりするのだが。
俺に言わせれば、そういう連中は想像力が足りないと言わざるを得ない。
想像力があれば、脳内でキャラクターは自由に補完できる。一方通行でしかなかったはずのものを、そうじゃなくすることができる。脳内で会話をすることだって可能になる。
出来ないことは、手を繋ぐだとか、抱き締めるだとか、キスをするだとか、体を重ねるといった物理的なことだけだ。
そして、それはオタクに限ったことではない。
「西日野は、ピノアと会話しようと思ったら、頭の中で出来たりするよな」
「そうね。ピノアだけじゃなく、ステラも。
レンジやニーズヘッグも、ケツァルコアトルやアルマ、アンフィス、ライトにリード、ショウゴにタカミ、ミカナ、それにブライやサトシとも会話できるわ。
それはキヅイセのキャラクターに限ったことじゃないの。破魔矢梨沙の小説のどんなキャラクターともわたしは会話が可能よ」
もしかしたら、それが小説家というものなのかもしれない。
どのキャラクターが何を考え、どんな行動をとるか、小説家は常にキャラクターと向き合いながら、物語を組み立てていくからだ。
少なくとも亜美は、破魔矢梨沙は、とりにくチキンは、そういう小説家だった。
俺が何を言わんとしているのか、彼女にはもうわかっていたのだろう。
「珠莉が言ってた。
あなたが、恋は必ずいつか終わりが来るものだって言ってたって。
だから、わたしとの関係は現状維持を望んでるって。
わたしを好きでいてくれるけど、付き合うつもりはないみたいだって。付き合わないんじゃなくて、付き合えないんだって言ってたって。
きっと何か理由があって、恋をするのが怖いんだと思うって言ってた」
「西日野もすごいヤツだけど、あいつも相当すげーヤツだよな。何でもお見通しなんだから」
「わたしは、幼い頃からずっと、あの子の方がわたしなんかよりもずっとすごいと思ってるわ。
わたしはきっと、どこに行ってもうまく立ち回れない。
小学生のころから高校までクラスではずっと浮いてたし、いつもあの子に助けてもらって、何とか学校に通えてたくらいだから。
今だってあの子やあなたがいなかったらって考えたらゾッとするくらいだもの」
コンビニのバイトも、彼女は仕事を覚えるだけで精一杯だったという。
だが珠莉は、彼女の代わりに、彼女のふりをして、たまにシフトに入ったりしていただけなのに、あっという間に仕事を覚えてしまったという。
最近はずっと珠莉が彼女の代わりをしてくれており、うまくやってくれているそうだ。
「わたしは小説を書くことしかできないけれど、あの子は書かないだけで、たぶんわたしよりもずっと面白い小説を書けるんじゃないかってわたしは思ってるの。きっと、書かないだけじゃなくて、書く気もないだろうけど。
それくらい、あの子はすごいの。わたしは幼い頃からずっと、あの子には何もかなわないって思って生きてきたの」
「俺も妹がとんでもないやつだからな。歩くコミュ力みたいな。だから、なんとなくわかるよ」
俺たちは本当によく似ていた。
第3部はまだ書かれていなかったが、ピノアを主人公とし、異世界人であるピノアが逆に1部と2部の主人公であったレンジが生まれ育った街に転移してくる話になるという。
そうなれば、アルティメット・ピノアはライジングアルティメット・ピノアともいうべき存在になるだろう。
ピノアがメインヒロインになる4部以降は、ピノア・コンプリート21だろうか。
キヅイセは全九部作、さらにスピンオフが三作予定されている。
それ以降のピノアは、亜美の力を借り、俺の中でもはや形容する言葉がないくらいの存在に進化するだろう。
おかしな話をしているのはわかっていた。
オタクという者は、みんな現実と虚構の区別がちゃんとできているものだ。
現実のパートナーと虚構の推しは全く別物で、顔はもちろん性格も全然似ていなかったり、正反対だったりする。
それがオタクという者のごくごく自然な生き方だ。
だが俺は、俺の中にしかいなかった虚構の推しを、現実のパートナーになるかもしれない女の子に育ててもらったのだ。
育てた本人が、最強最悪の恋敵と表現するくらいに。
オタクはどうして、漫画やラノベ、アニメやゲームのキャラクターに恋をするのか。
その答えは簡単だ。
それがたとえ一方通行のものでしかなかったとしても、キャラクターは自分を裏切らないからだ。
作品の中で誰かと恋仲になろうが、たとえ死んでしまったとしても、オタクは脳内で自分にとって不都合な情報を排除し、自分にとって都合のいいように補完することができるからだ。
まぁ、一部の過激なオタクの中には、恋愛禁止のはずのアイドルの熱愛が発覚したときのドルオタのように、作中で恋人ができたり過去に恋人がいたとわかるやいなや、まるで日本国旗を燃やす近隣諸国の過激な人達のように、単行本を燃やしたり円盤を割ったりする輩もいたりするのだが。
俺に言わせれば、そういう連中は想像力が足りないと言わざるを得ない。
想像力があれば、脳内でキャラクターは自由に補完できる。一方通行でしかなかったはずのものを、そうじゃなくすることができる。脳内で会話をすることだって可能になる。
出来ないことは、手を繋ぐだとか、抱き締めるだとか、キスをするだとか、体を重ねるといった物理的なことだけだ。
そして、それはオタクに限ったことではない。
「西日野は、ピノアと会話しようと思ったら、頭の中で出来たりするよな」
「そうね。ピノアだけじゃなく、ステラも。
レンジやニーズヘッグも、ケツァルコアトルやアルマ、アンフィス、ライトにリード、ショウゴにタカミ、ミカナ、それにブライやサトシとも会話できるわ。
それはキヅイセのキャラクターに限ったことじゃないの。破魔矢梨沙の小説のどんなキャラクターともわたしは会話が可能よ」
もしかしたら、それが小説家というものなのかもしれない。
どのキャラクターが何を考え、どんな行動をとるか、小説家は常にキャラクターと向き合いながら、物語を組み立てていくからだ。
少なくとも亜美は、破魔矢梨沙は、とりにくチキンは、そういう小説家だった。
俺が何を言わんとしているのか、彼女にはもうわかっていたのだろう。
「珠莉が言ってた。
あなたが、恋は必ずいつか終わりが来るものだって言ってたって。
だから、わたしとの関係は現状維持を望んでるって。
わたしを好きでいてくれるけど、付き合うつもりはないみたいだって。付き合わないんじゃなくて、付き合えないんだって言ってたって。
きっと何か理由があって、恋をするのが怖いんだと思うって言ってた」
「西日野もすごいヤツだけど、あいつも相当すげーヤツだよな。何でもお見通しなんだから」
「わたしは、幼い頃からずっと、あの子の方がわたしなんかよりもずっとすごいと思ってるわ。
わたしはきっと、どこに行ってもうまく立ち回れない。
小学生のころから高校までクラスではずっと浮いてたし、いつもあの子に助けてもらって、何とか学校に通えてたくらいだから。
今だってあの子やあなたがいなかったらって考えたらゾッとするくらいだもの」
コンビニのバイトも、彼女は仕事を覚えるだけで精一杯だったという。
だが珠莉は、彼女の代わりに、彼女のふりをして、たまにシフトに入ったりしていただけなのに、あっという間に仕事を覚えてしまったという。
最近はずっと珠莉が彼女の代わりをしてくれており、うまくやってくれているそうだ。
「わたしは小説を書くことしかできないけれど、あの子は書かないだけで、たぶんわたしよりもずっと面白い小説を書けるんじゃないかってわたしは思ってるの。きっと、書かないだけじゃなくて、書く気もないだろうけど。
それくらい、あの子はすごいの。わたしは幼い頃からずっと、あの子には何もかなわないって思って生きてきたの」
「俺も妹がとんでもないやつだからな。歩くコミュ力みたいな。だから、なんとなくわかるよ」
俺たちは本当によく似ていた。
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