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第22話「とりにくチキン、始動」⑫
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「日永くんは自分の欲望に正直なくせに、それ以外のことは無頓着みたいだからね。
破魔矢梨沙を使ってお金を儲けようとする人は山ほどいる。発行部数が全然変わってくるから顔出ししろってどれだけ言われたかわかんないくらいだし。
でも、日永くんがしようとしてることは、自分の理想のヒロインが出てくる小説がアニメになって、その子がフィギュアになったときに、そのパンツを見ることだけ。
お金なんてどうでもいいと思ってる。
破魔矢梨沙を尊敬しながら、西日野亜美っていう女の子とは普通に会話する。
最高に馬鹿だし、最高にド変態な夢に、平気であの子を巻き込んでる。
そんな人は、わたしが知る限りいなかった。
わたしから見ても日永くんはおもしろい人だよ。
だからあの子は今、日永くんに惹かれてる」
珠莉が言っていることはなんとなくだがわかった。
だが、理解が追い付かないというか、やはりそんなことがあるはずがないと思ってしまう俺がいた。
「じゃあ、もうひとつ、そんなわけないだろってことを言うよ」
「何だよ?」
「日永くんも亜美のことを好きになりかけてるよね?」
「それは西日野が、俺が理想とするヒロインに似ているからそういう風に見えるだけだろ」
「今はまだ、実際にいたらこんな感じかなって重ねてる部分が確かにあると思う。
でもね、そのうちきっと、日永くんは本当に亜美のことが大好きになるよ。
わたしは、ふたりはお似合いだと思ってる。
亜美のことがかわいくてしかたがないわたしが、日永くんなら亜美をあげてもいいかなって思うくらい」
珠莉は、明日さっきのコスプレ写真を全部USBメモリに保存して持ってくるね、と言って、俺を送り出した。
文芸部の部室に戻ると、着替え終わった亜美が先ほどのコスプレ写真を微笑ましそうに眺めていた。
「意外に気に入ってたりするのか?」
ドアをノックするのを忘れていたから、どうやら亜美は話しかけられるまで、俺には気付かなかったようだった。
慌ててポストカードファイルを閉じ、バッグの中にしまった。
「気に入ってるとか、そんなことあるわけないでしょ」
俺は、
「まぁ、コスプレしてるのもかわいいけど、西日野は私服が一番かわいいからな」
と、思わず本音をもらしていた。
きっと珠莉にいろいろと吹き込まれてしまったからだろう。
亜美はまた顔を真っ赤にし、
「随分遅かったわね。待ちくたびれたわ」
それを隠すように俺に文句を言った。
「お姉ちゃんの方に捕まってたからな」
「どうせまた何か馬鹿なことを吹き込まれたんでしょ」
俺は、まあね、と苦笑するしかなかった。
「あの衣装は、主人公より前に異世界転移した奴が、国王に冗談で自分たちの世界ではあれが最もポピュラーな服装だって騙したって設定なんだってな」
「だめだった?」
不安そうにそう尋ねてきた彼女に、
「いや、すげーこと思い付くなぁって感心したよ」
俺は正直に答えた。
「俺はピノアがなぜあの衣装を着ているのかってことを考えたことがなかったからな。
小説にするなら、あの衣装を着なければいけないだけの説得力が絶対に必要だった」
「そうね、随分悩んだわ」
「世界が違えば、当然文化が異なる。
異世界転移は、文明開化以上の異文化交流だといってもいいと思う。
それを利用して、国王を騙して、主人公のような転移者を導く巫女の衣装をあれにさせたっていうのは、なかなかの説得力だと思うよ」
俺の言葉に亜美は安心したように、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「で、お姉ちゃんの方に吹き込まれたのは、ピノアとステラは正反対の性格の方がいいから、ピノアが堂々とあの衣装を着ているなら、ステラは思いっきり恥ずかしがってた方がいいってさ。
だから、わたしに無理矢理着せられたばかりの頃の気持ちがステラの気持ち、段々ノリノリになってきた頃の気持ちがピノアの気持ちだって、わたしの意見じゃなくて俺の意見だって伝えてくれって」
俺はてっきり、彼女はノリノリという言葉に反応するものだと思っていた。
だが違っていた。
「どうして、言われた通りにあなたの意見ということにしなかったの?」
問われたのはそこだった。
「西日野に嘘はつきたくないからだよ」
俺はそう言い、
「いい姉ちゃんだな」
と続けた。
亜美は、わたしもそう思う、と頷くと、
「ピノアとステラの話をしましょう」
と言った。
破魔矢梨沙を使ってお金を儲けようとする人は山ほどいる。発行部数が全然変わってくるから顔出ししろってどれだけ言われたかわかんないくらいだし。
でも、日永くんがしようとしてることは、自分の理想のヒロインが出てくる小説がアニメになって、その子がフィギュアになったときに、そのパンツを見ることだけ。
お金なんてどうでもいいと思ってる。
破魔矢梨沙を尊敬しながら、西日野亜美っていう女の子とは普通に会話する。
最高に馬鹿だし、最高にド変態な夢に、平気であの子を巻き込んでる。
そんな人は、わたしが知る限りいなかった。
わたしから見ても日永くんはおもしろい人だよ。
だからあの子は今、日永くんに惹かれてる」
珠莉が言っていることはなんとなくだがわかった。
だが、理解が追い付かないというか、やはりそんなことがあるはずがないと思ってしまう俺がいた。
「じゃあ、もうひとつ、そんなわけないだろってことを言うよ」
「何だよ?」
「日永くんも亜美のことを好きになりかけてるよね?」
「それは西日野が、俺が理想とするヒロインに似ているからそういう風に見えるだけだろ」
「今はまだ、実際にいたらこんな感じかなって重ねてる部分が確かにあると思う。
でもね、そのうちきっと、日永くんは本当に亜美のことが大好きになるよ。
わたしは、ふたりはお似合いだと思ってる。
亜美のことがかわいくてしかたがないわたしが、日永くんなら亜美をあげてもいいかなって思うくらい」
珠莉は、明日さっきのコスプレ写真を全部USBメモリに保存して持ってくるね、と言って、俺を送り出した。
文芸部の部室に戻ると、着替え終わった亜美が先ほどのコスプレ写真を微笑ましそうに眺めていた。
「意外に気に入ってたりするのか?」
ドアをノックするのを忘れていたから、どうやら亜美は話しかけられるまで、俺には気付かなかったようだった。
慌ててポストカードファイルを閉じ、バッグの中にしまった。
「気に入ってるとか、そんなことあるわけないでしょ」
俺は、
「まぁ、コスプレしてるのもかわいいけど、西日野は私服が一番かわいいからな」
と、思わず本音をもらしていた。
きっと珠莉にいろいろと吹き込まれてしまったからだろう。
亜美はまた顔を真っ赤にし、
「随分遅かったわね。待ちくたびれたわ」
それを隠すように俺に文句を言った。
「お姉ちゃんの方に捕まってたからな」
「どうせまた何か馬鹿なことを吹き込まれたんでしょ」
俺は、まあね、と苦笑するしかなかった。
「あの衣装は、主人公より前に異世界転移した奴が、国王に冗談で自分たちの世界ではあれが最もポピュラーな服装だって騙したって設定なんだってな」
「だめだった?」
不安そうにそう尋ねてきた彼女に、
「いや、すげーこと思い付くなぁって感心したよ」
俺は正直に答えた。
「俺はピノアがなぜあの衣装を着ているのかってことを考えたことがなかったからな。
小説にするなら、あの衣装を着なければいけないだけの説得力が絶対に必要だった」
「そうね、随分悩んだわ」
「世界が違えば、当然文化が異なる。
異世界転移は、文明開化以上の異文化交流だといってもいいと思う。
それを利用して、国王を騙して、主人公のような転移者を導く巫女の衣装をあれにさせたっていうのは、なかなかの説得力だと思うよ」
俺の言葉に亜美は安心したように、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「で、お姉ちゃんの方に吹き込まれたのは、ピノアとステラは正反対の性格の方がいいから、ピノアが堂々とあの衣装を着ているなら、ステラは思いっきり恥ずかしがってた方がいいってさ。
だから、わたしに無理矢理着せられたばかりの頃の気持ちがステラの気持ち、段々ノリノリになってきた頃の気持ちがピノアの気持ちだって、わたしの意見じゃなくて俺の意見だって伝えてくれって」
俺はてっきり、彼女はノリノリという言葉に反応するものだと思っていた。
だが違っていた。
「どうして、言われた通りにあなたの意見ということにしなかったの?」
問われたのはそこだった。
「西日野に嘘はつきたくないからだよ」
俺はそう言い、
「いい姉ちゃんだな」
と続けた。
亜美は、わたしもそう思う、と頷くと、
「ピノアとステラの話をしましょう」
と言った。
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