上 下
13 / 61

第13話「とりにくチキン、始動」③

しおりを挟む
 西日野はすでにネット小説の流行りをおさえているようだった。
 やはりオタクだからなのだろうか。
 あるいは、先輩部員たちの小説を酷評するためだけにネット小説を覗いていたからか、それとも今朝別れてから俺が部室にやってくるまでに調べてくれたのだろうか。若干もう古いジャンルのような気もしたが、だとしたらすごいやる気だと思った。
 正直俺も悪役令嬢が何なのかよく知らなかった。今ネット小説の最先端にかるのは何なのかもわからなかった。明らかに勉強不足だった。

「不良がタイムスリップする漫画が実写化されて大ヒットするくらいだから、不良が実は魔法使いとか異世界転移するのもありかもね」

 俺は、西日野が本当に俺が理想とするヒロインの小説を書いてくれることになったことがいまだに信じられないでいた。

「本当に書いてくれるのか?」

 だから思わずそう尋ねていた。

「書くわ。約束したもの」

 彼女はそう言って、バッグから一冊の文庫本を取り出した。

「それにこれはあなたのためだけじゃないの。わたしのためでもあるから」

 その意味が俺にはわかりかねた。
 だが、「デビルエクスマキナ」というタイトルのその本にあった著者名「日野西 美亜(ひのにし みあ)」を見て、そういうことかと思った。

「さらば文学賞の前に、ラノベの新人賞も取ってたのか」

「中学3年のときにね。でも、全然売れなかった。続編も書かせてもらえなかった」

 中学生でラノベの新人賞を取るなんてまるでZ壱先生だ。もしかしたら彼女が本当に書きたかったのは純文学や大衆文学ではなく、ラノベだったのかもしれなかった。リベンジするチャンスをずっと待っていたのかもしれなかった。


 俺たちは構内に学生がいてもいい時間ギリギリまで、「とりにくチキン」の処女作となる異世界転移を題材にしたラノベについて話し合った。

 舞台となる異世界は、オヒスと呼ばれる地球によく似た世界であり、大きく違うのは魔法が存在することだ。魔法と科学が融合したギャラクシーウォーズのような文明社会が存在する世界観に決まった。
 魔法についての設定や、魔人や魔物についても、俺のアイディアがほとんど採用されることになった。
 精霊たちの名前はよくあるサラマンダーやウンディーネなどではなく、ソロモン72柱からとることになった。精霊の数を最初から限定せず、最大で72出せるようにしておけば、後からいくらでも精霊を増やしていくことができるからだった。

 主人公の少年は高校2年生で、10年ほど前に父親がある日突然神隠しにあったかのように行方不明になっている。母親はそれ以来酒びたりの日々を送るようになり、主人公は父方の祖父母と母、そして妹と暮らしているということになった。
 彼自身もまた神隠しにあうように異世界転移してしまうことになる。古来からある神隠しの正体は実は異世界転移であり、父親もまたその異世界に迷い込んでしまって帰れずにいるのだ。

「大気中に存在する、魔法の源になるエーテルっていうのは、昔、光を伝達する物質が大気中にあると言われていた頃のものよね?」

「そうだね。実際には光を伝達するのに物質は必要なかったわけだけど。俺たちの親が子どもの頃にはもう、RPGでMPを回復するアイテムとしての方がおなじみだな」

「魔物が人間と共存可能な存在なら、彼らを本当のモンスターに変えてしまう別の魔素が必要になると思わない?
 モンスターを操る存在が使う魔法もその魔素を源にしていて、同じ魔法でもエーテルとは桁違いの威力になるの」

「ダークマターはどうだ?
 異世界と地球は人間が転移できるくらいなんだから、地球から放射性物質が流れこんでるとか、そういう設定」

「それがエーテルに取り憑くとダークマターになるってところね。魔物はそれを取り込んでしまって、強靭な肉体と獰猛な性格になり、知性を失ってしまう」

 そんな設定がネット小説の読者に受けるかどうかはわからなかったが、俺たちは互いにアイディアを出し合い、互いに良いと思えるものへ昇華させていった。

 西日野の発案で、俺の理想のヒロインであるピノアとは別にもうひとりヒロインを用意することになった。
 どんなキャラクターがいいかふたりで頭を悩ませていたときに、部室のドアを開け、西日野にそっくりの女の子が入ってきた。

「あれ? 誰そのイケメン。まさか亜美の彼氏?」

 目の前に西日野はいるのに、ドアの前にも彼女がいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...