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第2章 無限イチャイチャ計画

第39話 風華の匂わせ天気予報2・象いじり

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 風華の一人天気予報は“匂わせ”を除いて完璧に進行していた。

「続いては視聴者投稿のコーナーです」

 それは定番のやつで、視聴者から寄せられた天気に関する画像や動画を見て情報を共有する人気のコーナーだ。

 その時、画面下にコメントが表示された。

『待ってました!』

 この番組には視聴者がリアルタイムで気軽にコメントできるチャット欄があり、書かれた中からスタッフが選んで画面に表示させているのだ。

 これによって選ばれた視聴者からしたら嬉しいし、さらにお天気お姉さんに読み上げられて反応してくれようものなら、有頂天になってその日一日中スキップで移動しちゃうだろう。俺は職質されそうなのでしないが。

「待ってました、ですか。うんうん、そうでしょうそうでしょう。この美人で聡明な風華ちゃんに構ってもらえますもんねぇ」

 聡明? バカには使えない用語のはずだが?

『聡明?』
『聡明?』
『象名?』

 チャット欄も疑問符だらけだ。さすがみんな分かってるな。まぁ数々の醜態を晒してきたし当然だよな!

「ちょっと待ってください、象名ってなんですか! 象に関することを私に言うのは禁止ですよ! スタッフさん、ブロックしてください!」

 なぜこんなに象に反応するかというと、風華がビッキーと初めて天気予報をした時に元気象もときしょうキャスターを元気象げんきぞうと言ったことで、最近は社員や視聴者から象いじりをされるようになったからである。

「いいですか、象いじりはダメですからね」

『分かったゾウ』
『了解だゾウ』
『承知しましたゾウ』

「こらぁ! 語尾も禁止です!」

 アハハ、おもしれー。こういう視聴者とのプロレス好きだわ。やり過ぎはよくないけど風華ならいいだろ。

「コホンッ、気を取り直して視聴者さんの投稿を見ていきましょうか。まずはユーザーネーム、エレファント乃和木さんからの投稿ですね……ってエレファント乃和木ってなんですか! やめてください!」

『プロレスラーかな?』
『毒霧吐きそう』
『ホースを武器に使うけど失敗してビチャビチャになってそう』

「もぅ、次に行きますよ! この方は動画を投稿してくれたみたいですね」

 動画を見ると、動物園で象が歩いているものが映し出された。そしてカメラがゆっくりと空を映すと、象っぽい形の雲があった。

「うわー、かわいいですねぇ……って、こら! 象の盛り合わせやめなさい!」

 グギギ、って感じの表情をしている。

「あ、この方はコメントも書いてありますね。読んでみます……えー、晴れでしたので年間パスポートを使って動物園に行きました。そしたら象の形の白い雲があったので撮影してみました。乃和木さんの白くて美しい肌のように綺麗でした。あ、ちなみに英語でホワイトエレファントは無用の長物という意味らしいですよ。他意はありません……とのことですが、いや、他意あるでしょう! 悪意ですよ悪意しかありません!」

 口をとがらせて怒っている。

「えー次です次! ユーザーネーム、コクゾウムシさんからの投稿です……あのね、動物の象じゃなければセーフな訳ではないですよ? 平仮名でもカタカナでも“ぞう”という二文字は許しません!」

 頬を膨らませている。かわい……ふん、ぶりっ子してんじゃねぇぞ!

「えーっと、この方は画像を投稿してくれてますね。一応見てみましょう」

 画像にはベランダから撮られた空と共に“S = -8.245 + 6.807H + 7.073FFC”と書かれた紙が映っていた。

「うーん? なんの数字ですかこれ?」

 風華が考えていると、コメントが表示された。

『インドゾウの体表面積を求める公式』

「へぇ、インドゾ……おい! 巧妙な象ネタ仕込まないでください!」

 あはは、よく考えるなぁ。

「続いていきますよ。ユーザーネーム、三蔵帽子さんからです……スタッフさん、“ぞう”と読む漢字は全てNGワードに放り込んでおいてください」

 無茶言うな。

「この方も動画を投稿してくれてますね」

 庭の花に水をやり、小さな虹が掛かっている動画が流れる。

「象要素はなさそうですね……いや、待ってください……あ、ジョーロが象の顔だぁ……って、アハ体験させないでください!」

 風華は、ムキッーって感じの顔をしている。

「さてさて、次のユーザーネームは、南風小僧さんです……もうイジってあげませんよ? 仏のように優しい私もしつこいと無視しますからね!」

 そう言う時点でイジってるだろ。

 直後、海岸で男女が手を繋いでいる画像が映し出された。後ろ向きなので顔は写っていない。

「象は、象はどこですか……!」

 血眼で探す風華。

 疑心暗鬼になってんじゃねぇか!

「ふぅ、どうやらただのカップルの写真のようですね……って恋人いる自慢やめてください!」

 確かに、ただのリア充かよ。滅びろ!

「ぐぬぬ、羨ましいですね。でもいいんです。私には空雄がいますから」

 風華は、目を細めて満面の笑みを浮かべている。

 俺はなんとなく画面から視線を外した。

 ふ、ふん、どうせ子犬のことだろ。なんだか喉が渇いた俺は急いでお茶を飲んだ。

「それじゃあ次は——」

 と言いかけたところで、とあるコメントが画面に表示された。

『理想のカップル“像”ですね』

「あ、そっちの像ですかぁ……って、ゾウネタを入れるなぁあああ!」

 荒ぶる風華を見て、俺は鼻で笑った。鉄板ネタができてよかったな。キャラも立ってきたし、余程の問題を起こさない限りクビになることはないだろう。

 その後も象いじりをされつつ番組は順調に進んでいき、風華の初めての一人天気予報は無事に幕を閉じた。
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