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第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

第30話 風華と響の天気予報1・占い

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 朝九時前。俺は乃和木風華の天気予報が始まるのをソワソワしながら待っていた。

 俺が緊張する必要はないが、二ヶ月も一緒に居たらさすがに愛着が湧かないわけもなくて、笑ってみていられるほどの客観性は既にない。

 なによりラストチャンスかも知れないからな。真剣に応援したいと思う。

 そして九時ちょうど。スタジオの映像が映った。大画面モニターを挟んでビッキーと乃和木風華が座っている。

「皆さんこんにちは。本日六月八日、ブランチ時間の放送は私、鳴神響と」

「の、乃和木風華でお送りします!」

 さすがに緊張しているようだ。

「さて、今日は乃和木キャスター初めての天気予報ということで、気分はどうですの?」

「きききき緊張もなく、すがすがすがしい気持ちででです」

 緊張しかねぇじゃねぇか!

「うふふ、かわいいですわね。そんな風華ちゃんを視聴者の皆さんもどうか温かく見守っていただけたらと思いますの」

「がががが頑張ります!」

 が多いな。ガードレールに車擦ったのかよ。

「それではさっそくお天気の方見ていきますわ。乃和木キャスター、お願いしますわね」

「は、はい!」

 モニターが天気図を表示した。

「本日六月ようかん、じゃなくて、八日木曜日の全国のお天気をお伝えします」

 よう噛んでますなぁ!

「西からの梅雨前線の影響で全国的にすっきりしないお天気となっています」

 いいじゃんいいじゃん、その調子だぞ。

「西日本から東日本にかけては広く激しい大雨に見舞われるでしょう。特に太平洋側は一日中降り続ける予想で、道路冠水、河川増水など災害にご注意ください」

 ちゃんと言えてエライ!

「北日本は全般的に晴れ間が続くものの、午後からは曇り空が広がるところもあるので、にわか雨にはご注意ください」

 すげぇ、“普通の”お天気お姉さんみたいだ!

 ビッキーも授業参観に来た親御さんのように不安と期待の入り混じった顔で乃和木を見守っている。

「続いて各地のお天気アイコンを見ていきましょう。北海道、東北は午前中晴れている場所が多いですが、午後からは曇り空が広がるところが多くなります。釧路を見てみますと、曇りのちファンファーレ、じゃなかったです、晴れとなっていますね」

 ある意味合ってるしセーフ!

「続いて関東地方です。まず、東京は晴れのちレクイエム……雨です」

 うーん、中二病的表現でセーフ!!

「午後からは激しい雨に加え、デスボイスに……雷にも、ご注意下さい」

 デスボイスに聞こえないこともないからセーフ!!!

 それから中部、近畿、中国、四国、九州は無難に紹介して終わった。

「続いて各地の気温を見ていきましょう。前日と比べると全国的に気温が下がっていますね。雨の影響もあり、肌寒いと思うので服装で上手く調整してください。それと西日本から関東にかけて湿度が高まっているので食品が痛みやすいです。衛生管理にお気をつけください」

 え、この方本当に乃和木風華なの? レクイエムやデスボイスのくだり以外完璧過ぎて怖いんですけどー?

 そして、どうにかこうにか、はじめの天気予報は終了した。

 うん、まぁ悪くなかったかな。乃和木にしては、だけど。チャット欄を見ても荒れてないし、それどころかデスボイスの話題で大盛り上がりだ。

 この後もまだまだ先は長いとはいえ、出だしは好調。この調子で頼むぞ。

 ふと、乃和木の顔を見ると引き締まった顔、ではなく溶けた雪だるまみたいな腑抜けた顔をしていた。

 おい! 早くもガス欠になってんじゃねぇぞ!

「続いては占いのコーナーですわ。……あ、映像は無しですの?」

 あ、マズイ。トラブルだ。

 乃和木を見てみる。すると、いつものように目がグルグルし出すかと思いきや、めちゃくちゃ薄目にして耐えていた。

 良いぞ頑張れ。ただ、その状態だとスタッフをにらんでいるようにしか見えないから早くどうにかしろ。

「風華ちゃん、手元の紙に書かれた占い結果を読み上げていただけます?」

「お、お任せください! コホンッ、それではまずは干支占いの結果をお伝えします! 本日、運勢の良い方ベスト3を発表します! でけでけでけ、じゃん! 三位はロバ年の方です!」

 馬だろ!

「ラッキーお天気アイテムは馬刺し!」

 なんか嫌だわ! つーか、お天気要素ないだろ!

「二位はネコ年の方です!」

 トラだろ!

「ラッキーお天気アイテムは馬刺し!」

 またかよ! どんだけ馬刺し食わせたいんだよ!

「一位はヤキトリ年の方です!」

 焼くな! お腹減るだろ!

「ラッキーお天気アイテムは犬!」

 よーし、ここまでの動物でブレーメンの音楽隊でも結成しよう! ってバカ! お天気アイテムの定義教えろ!

「続いては星座占いです!」

 まだ占いやるのかよ! 占いなんて一種類でいいよ!

「三位は三つ子座の方です!」

 へぇ、双子座って進化すると三つ子になるタイプだったんだー! じゃねぇんだよ! 増やすな!

「二位は、いてて座の方です!」

 射手座だろ! いっけなーい、自分の矢が刺さっちゃった! いててっ、テヘペロ! じゃねぇんだよ!

「そして一位はなんと! うおおお座の方です!」

 うんうん、一位だしテンション上がっちゃったね! うおおお! じゃねぇよ! 魚座だろ!

「続いての占いに行きたいと思います!」

 だから占い多すぎだろ! バイキング形式かよ!

「次はキャロット占いです」

 タロットだろ! 人参で何がわかるんだよ! ロバ年のやつにでも食わせとけよ!

「使うのは二十二枚の大アルカナのみです。これから私がシャッフルしたカードを一枚めくるので、それで全員の今日の運勢が決まります」

 今までの占いなんだったんだよ! クイズ大会で最終問題だけポイント百倍です、って言うくらい暴挙だろ!

「カードにもよりますが、正の位置が出れば今日はラッキー、逆の位置が出ればアンラッキーです」

 アバウト過ぎだろ!

「それでは行きます!」

 乃和木が息を呑みながらカードをめくる。

 そのカードはなんと正の位置だった。ただし、絵柄は死神。

「あ……い、今のは練習です」

 確か逆の位置の方が良い運勢をあらわすカードあったよな。多分死神がそうなんだろう。てかやり直しありなのかよ!

 カードを戻してシャッフル。

「さぁこれが本番です! てゃああ!」

 乃和木が競技カルタをするかの勢いでカードをめくった。

 続いて出たのは——“死神”。

 またかよ! 二回連続引くかよ! ある意味持ってるけど!

「いいえ、まだです! うりゃああああ!」

 死神のカードを机に叩きつけて風圧で横に束ねてあったカードをめくった。

 メンコしてんじゃねぇぞ!

「あ、見てください! これは太陽のカードで、しかも正の位置です! 簡単に言うと当たりです! いやーお天気番組らしく太陽で締められるなんて完璧ですねぇ!」

 無理やりまとめやがった! 荒技すぎんだろ! 嫌いじゃないけど!

「という風華ちゃんの独自解釈で勢い重視のぶったぎり占いコーナーでしたわー! ありがとうございましたわー!」

 絶対そんな企画名じゃなかったよな! つーかこんなクソ企画考えたやつ誰だよ! クビにしろ!

 まぁそれは置いといて、第一関門はギリギリクリアかな? 乃和木基準だけど。
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