58 / 71
おまけ8 第48話
しおりを挟む
カリブラが計画を実行する前日、侯爵家の屋敷で一悶着あった。それはいつものようにソルティアの我儘から始まったことだった。
「いい加減にしろ! 僕がお前にどれだけ迷惑をかけられてると思ってんだ!」
「きゃあ!」
ソルティアの我儘に堪忍袋の緒が切れたカリブラは遂に手を上げた。ソルティアに拳を振り上げて殴ったのだ。
「う、うわあああ~!」
ソルティアは殴られたと理解すると痛みで泣き喚いて部屋に籠もってしまった。その場面をマキナは見て絶句した。
「か、カリブラ……なんてことを……令嬢に拳を振り上げるなんて……!」
「母上……」
母親に見られたと気づいて一瞬『しまった!』という顔になったカリブラだったが、すぐに何でも無いかのように振る舞い出した。
「母上、何のこともありません。今のはソルティアがいけないのです。僕は手を上げてしまいましたが悪いことをしたとは思いません」
「な、何を言うの!? 貴族紳士としてあるまじき行為よ!」
「それは相手が貴族令嬢ならの話でしょう? ソルティアは貴族令嬢の皮を被った獣です。容赦する必要なんかなかったんですよ、もともとね」
「なっ!?」
マキナは呆然とした。確かにソルティアの我儘は酷いがあれでも貴族令嬢の端くれなのだ。それを拳で殴って獣呼ばわりする息子にマキナは目眩すらしそうになった。
(ああ……この子には当主どころか貴族すら無理かも……っていうか、何ができるの?)
幼い頃のカリブラを甘やかした結果が今の状況かと何度後悔したか覚えていないが、令嬢に理由をつけて殴るという蛮行を見て、後悔を通り越して絶望したのは初めてだ。
(いっそ追い出してしまおうかしら? これ以上馬鹿なことをしないうちに……)
廃嫡どころか追い出すことまで思案に入れ始めたマキナだったが、この時のカリブラをもっと叱りつけていれば後の運命は少し変わったのだろうか。
◇
――カリブラが計画を実行して失敗した日、マキナは暴れ狂うソルティアに手を焼いていた。どうすることもできないと思っていた矢先、突如訪れたアスーナたちに止めてもらったのだ。
何の前触れもなしに訪れたアスーナたちに感謝したが、訪れた理由を聞かされてマキナは絶望した。
「――……そ、そんな!? か、カリブラがそのような犯罪まがいの行動に!?」
マキナが聞かされたのは、アスーナとバニアを手籠めにするというカリブラの悍ましい計画だった。昨日、ソルティアを殴ったばかりだというのに、今日はそれ以上比べ物にならない様なことを行おうとしたのだ。そして、失敗して連行されたとも……。
「なんてこと……もう、終わりよ……」
マキナは泣き崩れた。もう侯爵家の終わりだと確信したのだ。マキナの顔はその瞬間に十年分老けたかのような顔になった。ただでさえバカ息子とそのバカな婚約者の娘のせいで疲弊しているのに追い打ちを掛けられればそうなってもおかしくない。
「マキナ様……私からなんと申せばいいか……」
アスーナも言葉に詰まる。掛ける言葉が見つからない。マキナからすれば死刑判決を宣告されたようなものなのだから。
しかし、現実は死刑ではない。別の意味で死刑な方が良かったのかもしれないが。
「いい加減にしろ! 僕がお前にどれだけ迷惑をかけられてると思ってんだ!」
「きゃあ!」
ソルティアの我儘に堪忍袋の緒が切れたカリブラは遂に手を上げた。ソルティアに拳を振り上げて殴ったのだ。
「う、うわあああ~!」
ソルティアは殴られたと理解すると痛みで泣き喚いて部屋に籠もってしまった。その場面をマキナは見て絶句した。
「か、カリブラ……なんてことを……令嬢に拳を振り上げるなんて……!」
「母上……」
母親に見られたと気づいて一瞬『しまった!』という顔になったカリブラだったが、すぐに何でも無いかのように振る舞い出した。
「母上、何のこともありません。今のはソルティアがいけないのです。僕は手を上げてしまいましたが悪いことをしたとは思いません」
「な、何を言うの!? 貴族紳士としてあるまじき行為よ!」
「それは相手が貴族令嬢ならの話でしょう? ソルティアは貴族令嬢の皮を被った獣です。容赦する必要なんかなかったんですよ、もともとね」
「なっ!?」
マキナは呆然とした。確かにソルティアの我儘は酷いがあれでも貴族令嬢の端くれなのだ。それを拳で殴って獣呼ばわりする息子にマキナは目眩すらしそうになった。
(ああ……この子には当主どころか貴族すら無理かも……っていうか、何ができるの?)
幼い頃のカリブラを甘やかした結果が今の状況かと何度後悔したか覚えていないが、令嬢に理由をつけて殴るという蛮行を見て、後悔を通り越して絶望したのは初めてだ。
(いっそ追い出してしまおうかしら? これ以上馬鹿なことをしないうちに……)
廃嫡どころか追い出すことまで思案に入れ始めたマキナだったが、この時のカリブラをもっと叱りつけていれば後の運命は少し変わったのだろうか。
◇
――カリブラが計画を実行して失敗した日、マキナは暴れ狂うソルティアに手を焼いていた。どうすることもできないと思っていた矢先、突如訪れたアスーナたちに止めてもらったのだ。
何の前触れもなしに訪れたアスーナたちに感謝したが、訪れた理由を聞かされてマキナは絶望した。
「――……そ、そんな!? か、カリブラがそのような犯罪まがいの行動に!?」
マキナが聞かされたのは、アスーナとバニアを手籠めにするというカリブラの悍ましい計画だった。昨日、ソルティアを殴ったばかりだというのに、今日はそれ以上比べ物にならない様なことを行おうとしたのだ。そして、失敗して連行されたとも……。
「なんてこと……もう、終わりよ……」
マキナは泣き崩れた。もう侯爵家の終わりだと確信したのだ。マキナの顔はその瞬間に十年分老けたかのような顔になった。ただでさえバカ息子とそのバカな婚約者の娘のせいで疲弊しているのに追い打ちを掛けられればそうなってもおかしくない。
「マキナ様……私からなんと申せばいいか……」
アスーナも言葉に詰まる。掛ける言葉が見つからない。マキナからすれば死刑判決を宣告されたようなものなのだから。
しかし、現実は死刑ではない。別の意味で死刑な方が良かったのかもしれないが。
2
お気に入りに追加
2,308
あなたにおすすめの小説
罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。
え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?
水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」
子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。
彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。
しかし彼女には、『とある噂』があった。
いい噂ではなく、悪い噂である。
そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。
彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。
これで責任は果たしました。
だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?
クリスティーヌの華麗なる復讐[完]
風龍佳乃
恋愛
伯爵家に生まれたクリスティーヌは
代々ボーン家に現れる魔力が弱く
その事が原因で次第に家族から相手に
されなくなってしまった。
使用人達からも理不尽な扱いを受けるが
婚約者のビルウィルの笑顔に救われて
過ごしている。
ところが魔力のせいでビルウィルとの
婚約が白紙となってしまい、更には
ビルウィルの新しい婚約者が
妹のティファニーだと知り
全てに失望するクリスティーヌだが
突然、強力な魔力を覚醒させた事で
虐げてきたボーン家の人々に復讐を誓う
クリスティーヌの華麗なざまぁによって
見事な逆転人生を歩む事になるのだった
身分を隠して働いていた貧乏令嬢の職場で、王子もお忍びで働くそうです
安眠にどね
恋愛
貴族として生まれながらも、実家が傾いてしまったがために身分を隠してカフェでこっそり働くことになった伯爵令嬢のシノリア・コンフィッター。しかし、彼女は一般人として生きた前世の記憶を持つため、平民に紛れて働くことを楽しんでいた。
『リノ』と偽名を使って働いていたシノリアの元へ、新しく雇われたという青年がやってくる。
『シル』と名乗る青年は、どうみても自国の第四王子、ソルヴェート・ステラムルにしか見えない男で……?
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。
しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ!
平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる