上 下
3 / 25
序章 出会い編

第2話 魔女の過去/少年の涙

しおりを挟む
 私は自分の過去を包み隠さず、静かに語ろう。そのほうが分かりやすいし。

「この世界には人間と魔族が存在してる。そして今まで争いあってきた」
「ああ、そうだな」
「昔、ある国が魔族の脅威から逃れるために、当時の魔王に一人の聖女を引き渡した」
「何?」
「魔王は聖女を気に入って娶り、その国への侵攻を止めた」
「そんな話は初耳だが?」
「魔王の名は『ディハルト』。聖女の名は『ミヨダ・ボリャ』」
「聞いたことのない名前だな。魔王も聖女も……え?ボリャって、もしかして……」
「そうよ。魔王ディハルトと聖女ミヨダの間に生まれた子供が私なの」
「なんだって!? じゃあお前は魔王の娘なのか!?」
「ええ。人間との混血だけどね」

 ゼクトの反応は、私の予想通りだった。かなり動揺してる。正直、ここまでだと面白いくらい。ゼクトは嘘感知魔法に反応が無いことが分かるから信じるしかないでしょ? 普通の人間にしか見えないのは分かるけどね。

「ふふ、私の見た目ってさ、魔王の娘って感じじゃないでしょ?」
「……ああ、正直信じられないな、魔族と人間の間に子供ができるなんて。見た目は人間の女の子にしか見えないし」
「そうね。実際、私の魔力は魔族のものでも体は人間のものとして生まれたの」
「……父親の力と母親の血肉をもらって生まれたってわけか」
「理解が早くて助かるわ」
「それをどう証明する? お前の言葉以外に?」
「意地悪なこと言うのね。こんな封印をされてるのが証明じゃない?」
「……お前の存在が危険だったからか?殺せないくらいに?」
「魔王を父親に持つんだからその力は強大でしょう?」
「…………」

 あれ? ゼクトが怒ってる? 私が当たり前のように告げた言葉に苛立ちを感じてるみたい。何か気に障ることでも言っちゃたかな? でも事実だし。だからこそ私はこんなところにいるんだから。純粋な人間と混血の違いかな?

「どうしたの? 急に黙って?」
「! ……話を続けてくれ」
「私は父が治める魔界で生まれ育ち母と共に暮らしていたわ。父も魔王の仕事の合間に会いに来てくれたわ。父も母も仲が良くて、私を大切にしてくれたわ」
「え? もしかして魔王と聖女が夫婦になって愛し合ってたのか? 魔族の王と人間の聖女なのに!?」
「まあ、最初はそこまでの仲じゃなかったけど、私が生まれた頃にはすっかり打ち解けてたそうよ」
「そんな二人の子供のお前はどうしてここに? 何があったんだ?」
「母との関係が良好になった父は人間と魔族の共存を考えるようになったの、母と私のために。それが悲劇の始まりだった」
「人間と魔族の共存!? そんなことを魔王の方からが考えただって!?」
「大半の魔族には大反対されたわ。人間とは争いあってきた歴史があるもの。いくら魔王の言葉といえども、そんな考えは受け入れがたかったの。人間側もそうでしょ?」
「……そうだな」

 魔族と人間の共存。その言葉に驚くようだと人間側はそんなこと考えもしなかったみたいね。やっぱり、私たち親子の考えたことは難しいどころか不可能だったんだ。感じの悪い家庭教師の先生から、とても弱そうな姿で言葉は通じるけど魔族と憎しみあってきた弱小種族だと聞いていたけど、今もそんな感じなのね……。

「私の父を許せないと思った当時の将軍『ガルケイド』が反乱を起こし、父を殺した。そして異端分子として私と母を殺そうとしたの。父が死に際に転移魔法で逃がしてくれたおかげで助かったけどね」
「…………お前たちはその後どうなったんだ?」
「転移先が母の故郷の国だったの。母は国に助けてもらおうとしたんだけど……それが間違いだった」
「……国は助けなっかたんだな」
「ええ。その国の王様は話を聞いて私たちを危険視したわ。国を守るために魔王にその身をささげたのに、そんな母を人類の裏切り者だの魔王の子を産んだ魔女だと罵った。……挙句の果ては私達は災いをもたらすものとして処刑を決めた。そして母は私を庇って……私の目の前で殺された」
「なっ!! そんな!?」
「ただでさえ父を失った悲しみをひきずっていた私は、悲しみと怒りに身を任せて力を思いっきり振るった。母を殺した者たちを許せなかったから」
「強大な力がお前にはあった……」
「復讐はできたわ。母を殺した騎士もそれを命じた王も殺したわ。私の周りには母の亡骸以外何もなかった、いいえ、何もかも消えていたわ」
「何もって……国もか?」
「ええ。焼野原ならあったわ」
「……!? マジか……」
 
 やっぱり、ゼクトは私にも驚いた。きっと、怖がっているだろう、私のことを。「可哀そうな女の子」だって自分で言ったけど、私自身も、自分がそういう存在なんだって分かってる。だからこそ、人間側と魔族側にも親を殺されちゃったんだから。

「自分の力を自覚した私は父の復讐をしようと思ったわ。でもその前に母のお墓を作ろうと思って見晴らしがいい場所を探したの。それがあなたが言うグオーラム山の頂上にね」
「グオーラム山の頂上に? 一人で登ったのか? いや、魔法を使えば大丈夫か」
「? 普通に登ったけど、どうして魔法がいるの?」
「……ええー?」

 あれ? ここでも驚くの? 魔法を使わずに登ったんだけど、そのグオーラム山って、そんなに高かったの? ……まあ、運動力も体力も自信はあるほうだからね。

「母を埋葬して山を下りた直後に大勢の魔族が待ち構えていたわ。どうやら人間の国を亡ぼしたのが私だと知られたみたいでね。そこには新たな魔王となったガルケイドもいた」
「そうか! その時に!」
「そうよ、そこで封印されたのよ。国一つ亡ぼせるお前は危険すぎる、いずれ魔族に災いをもたらす魔女になるから封印するって……殺そうとしなかったのは、ガルケイド達でも私を殺すのは難しいと思ったんでしょうね」
「将軍だった魔族でも? 魔王を殺せるようなやつなのに?」
「国一つ亡ぼせる力なんて父にもなかったわ。恐れられて当然よ。ご丁寧に私が山を登ってる間に最高レベルの封印を使ったみたい。そしてより残酷なやつをね」
「残酷って……どんな?」
「封印されてる間は意識があっても、殺さない限り死なない、魔法を使えない、飢えることも老いることも自殺もできないのよ。暗い中で身動き駅無くて退屈だったわ」
「そんな!」
「それだけじゃなく、封印ごと私を山の中にあったダンジョンの奥に閉じ込めたの」
「な! なんだよそれ!?」

 ゼクトが大声で喚く。私にはうれしい反応だ。暗くて動けない場所にたった一人で何年もここにいる私にとっては、ゼクトの反応のすべてが新鮮に感じられる。

「いくらなんでもひどすぎるだろ! なんでそんな! なんでだよ!? なんでそこまでされなくちゃいけないんだよ!? 女の子なのに!」
「私のために怒ってくれるのは嬉しいけどある意味当然よ。私は国をまるごと亡ぼせるのよ。魔王でもできないことができる時点で危険視されるわ。それに私の存在が魔界で反乱がおきるきっかけになった、魔族側からしたら許せないと思われたんでしょう」
「なんで当の本人がそんな冷静に語れるんだよ!? 封印した奴らが憎くないのか!?」
「もちろん憎んだわ。冷静に答えられるのはね、それだけの年月が過ぎたってことよ。憎しみさえも不要に感じられるくらいに、無駄だしね」
「…………」

 ゼクトが黙ってしまった。これを絶句するというのかな? ゼクトから見て私はくるっているようにしか見えないのかもしれない。私自身、何度も絶望したか分からないしね。あれ? この子、今泣いてるの? もしかして、私のため?

「ありがとうゼクト。私のために泣いてくれて」

 私は涙を流すゼクトに微笑んでみた。魔女の笑顔なんて喜べるものじゃないけどね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...