上 下
22 / 40
本編

22.アイズ ―見る―

しおりを挟む
ワカナの絶望ぶりは実によかったです。やっと報いを受けてくれました。ざまあ。

しかし、私の仕事はまだ終わっていません。今度はあのクズ王子にサエナリアお嬢様の部屋を見ていただかないと。それとあの日記も見てもらわないと、計画に支障をきたします。

そう思っていると、同僚の使用人たちがこんなことを口にしていました。

「王太子殿下にサエナリアお嬢様が家出したって知られたみたいわよ。それで殿下はすぐに探しに行くって」

え? 今なんて?

「そうみたいね。急ぎ足で屋敷から出て行こうとしていたわ。自分でサエナリアお嬢様を傷つけたくせに」

ええー!? もう王宮に戻るつもり? マズイ! 早くしないと間に合わない!

あの馬鹿な王太子がお帰りだと聞いて私は全力で走っていきました。






間に合った! 屋敷から出る直前だ!

「急がなくては! 待っていてくれ、サエナリア!」

ちっ。ふざけんな! 待つのはそっちだ!

「お待ちください! 王太子殿下!」

「! 君は……?」

……何不思議な顔してるんですか。やはり、私の顔なんか知らないでしょうね。お嬢様の侍女として何度かお目に掛かったはずなのに。

「はあはあ………お初におめにかかります王太子殿下。私はサエナリアお嬢様の唯一の侍女ミルナと申すものです」

「サエナリアの、侍女? そういえば一人だけサエナリアに侍女がいると聞いたな。君がそうか。サエナリアのことは世話になっ、」

「王太子殿下! サエナリアお嬢様の捜索にご協力してくださるという話は真でしょうか!?」

真であれ。そうでないと私は許さない。

「!? あ、ああ………真も何も、これから父上、国王陛下に直接願い出るつもりだ。願わくば私が先導したいくらいだと思っている」

国王陛下に直接か。これならばうまく乗ってくれそうですね。

「それならば、無礼を承知でお頼み申し上げますが、今すぐにでもサエナリアお嬢様の部屋を殿下ご自身の目で見ていただけないでしょうか?」

「何! サエナリアの部屋を? ………私が入っていいのか?」

正直、嫌ですよ? 貴方のような女性の害にしかならない男を私のサエナリアお嬢様の部屋にいれるなんて。でも、そうしないと計画が進まないんですよ! 本当に腹が立つ!

「王太子ともあろう者が、謝罪する前に許可なく彼女の部屋に入るなど、」

「今は非常事態なので仕方ありません。是非、お願いします。私達のような者の視点ではなく、第三者の目から見ればサエナリアお嬢様の手掛かりが見つかるかもしれません。そのお時間をいただけないでしょうか?」

こう言ったら断れないでしょう? 本心ではお嬢様の部屋に入って見たいという下心だってあるでしょうから。

「な、なるほど、それもそうだな。そういうことなら受け入れよう」

「ありがとうございます! 可能なら護衛の方とご一緒にお願いします」

「護衛も? 何故、護衛が必要になる? 公爵は大きな権力を持っているが、王家の者に対して危害を加えるようなことはしないと思うのだが?」

この屋敷にいるでしょう。危害を加えそうな獣以下の馬鹿が。

「それは旦那様ならです。ワカナお嬢様は違います」

「!」

気づきましたよね。さっき、絡まれたばかりですしね。

「ワカナお嬢様はそういう教育がなっておりません。それゆえにでございます」

「あ、ああ……そうだな。彼女なら何をしてきてもおかしくはないな。む? だが、彼女は今地下室にいるのでは?」

「奥様が娘可愛さに出してしまう可能性もなくはありません」

「なっ、ありえ、そうなのか?」

目を丸くして驚かれるのも無理はありまあせんね。さっきも、奥様のせいであの馬鹿は解放されましたから。

「奥様がサエナリアお嬢様を蔑ろにしてワカナお嬢様を可愛がる様を見てきてまいりましたゆえ、可能性は高いと存じます」

「娘可愛さ、か……」

不快感が顔に出てますよ無能な王子様。まあ、ソノーザ公爵家の家庭の歪みを見聞きしましたからねえ。娘可愛さと聞いて顔をしかめるのも無理はないですよね。

「分かった、待っててくれ。すぐに呼んでくるよ」

カーズは屋敷の外に待機している二人の護衛を連れてきました。二人ともガタイはよくて鍛えられた騎士、この王子にはもったいないです。さぞかし苦労されているでしょうね。

「これで護衛は十分だ。二人とも私が信頼できる騎士だからな。では、案内してくれ」

「かしこまりました。私についてきてください」

私はサエナリアお嬢様の部屋に三人を案内します。ソノーザ公爵家の許可も無しに。





私の案内で、カーズと護衛二人はサエナリアお嬢様の部屋に来た。ソノーザ公爵家の物置……倉庫にされているこの部屋を見るために。

「「…………?」

「じ、侍女よ、ここが……」

「はい?」

「ここが、そうなのか? ここが、サエナリアの……」

「はい、間違いなく。この倉庫がお嬢様の部屋として与えられたのです」

「「「…………っ!」」」

カーズと護衛二人の反応は、数時間前にやってきたソノーザ公爵夫妻と同じような反応です。いえ、カーズの場合は怒り心頭のようですね。

「…………何ということを! これが実の娘に倉庫で過ごさせるなど、何という非道なる仕打ちか! 虐待と同じではないか!」

「その通りです、殿下。これも奥様とワカナ様のお決めになったことです。旦那様がこの状況を知ったのは、今日でございます」

「今日だと!? ああ、確かにそう言ってたな! 何と馬鹿な奴だ!」

馬鹿? それは貴方も同じでしょう? お嬢様のことを何も知らないくせに。

「信じられません……貴族令嬢ですよ……?」

「ソノーザ公爵の頭は鳥頭ですか?」

鳥頭か。いい線いってますね。あの次女と夫人のほうがふさわしいですけどね。

「今日までこんな仕打ちを受けていたことを知らなかっただと!? ここまでサエナリアに関心がないとは! あんな立派な娘を自慢もせずにか! ソノーザ公爵家はやはり断罪すべきだ!」

ソノーザ公爵家の断罪は賛成です。だからこそ、今は私にうまく利用されてもらいますね。

「殿下、落ち着いてください」

「ここに来たのはそんな目的ではないはずです」

「だが! いくらなんでもこれは酷いだろうが! 大体何だ、次女の方が可愛いから蔑ろにしてきたって! 同じ両親を持ったのだから同じだけ愛情を注げばいいだろう! お前たちも見ているだろ、挙句にはこの部屋だぞ? 貴族が行うべき仕打ちではないわ! 公爵家が聞いて呆れる所業だ、決して許さん!」

……この人も決して許されはしないけど、もっと言ってやってくださいな!

「……私は、少しでもソノーザ公爵家を断罪できる証拠を求めてサエナリアの部屋を案内してもらったが、これだけでもう十分だ。我々三人の証言があれば公爵夫人の非道を訴えることができる。これで、少しでもサエナリアの心が晴れるなら……」

んん? 何かこいつ、もう目的がずれてますね。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

過去の私は死にました〜元悪役令嬢は途中で逃げ出し、行方不明になります

みたか
恋愛
元傲慢悪役令嬢のルファイナは初恋の相手であるセヴァン殿下の為に身を引く覚悟を決め、過去の自分と決別することにした。しかし、予定とは違うことが起こった結果、平民として暮らしていくことになった。平民暮しは大変だが、元々の性格に合っていたのか料理人という目標を見つけて充実した生活を送っていると王都を去って三年程経っていた。そんなある日、雇われ料理人として店の買い出しで出かけた先でセヴァン殿下と再会し──。 ※他者視点や権力争いもでてきます。 その裏では熾烈な国の利権争いがあり、行方不明になったルファイナの為にセヴァンが立ち上がり──。 □こちらの話はプロット無しの思いつきで書いています。王道を目指して進んでいます。稚拙で粗な部分が多いかと思いますが、ご都合主義という事を念頭に入れて読んで頂けたら幸いです。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...