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本編

38.ユートピア ー結婚式ー

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サエナリアお嬢様………ソノーザ公爵令嬢行方不明事件から約一年後。貴族の格好の私は王都の喫茶店でくつろいでいました。かつて、お嬢様がソノーザ公爵令嬢だった頃にバイトしていた喫茶店に。

「………ということが一年前にあったのですよね。まったく、あの女には腹が立ちました。反省してくれれば良かったのに、私が黒幕だと思い込んで殺そうとするなんて、どういう思考回路なのでしょうね」

今私は一人の友人と会話している。この店の店員でもあり次期店長になるというアリナという女性とです。まあ、正体は……ふっ、もう昔のことですね。

「………いえ、よくたどり着いたと言う方が正しいでしょうか。多くの方々が動いていましたが私もその中の一人でした。礎と言う意味なら、当たっているのでしょうね。私も貴女も」

一年前に私がワカナと取り巻きに襲撃された事件、あの時は肝が冷える思いでした。まさか私が狙われるとは予想もしていませんでしたからね。アリナさんも話を聞いた時は大変な思いをさせてしまいました。たとえ私が並の騎士よりも強いことを知っていても心配せずにはいられないのですね。

本当にお優しいお方です……。

「ああ、処遇といえば、彼女は修道院にもいけなくなって終身刑でしたね。一生牢から出られなくなりました。貴女が聞けば刑が重いと思われるかもしれませんが、王家をはじめ多くの人たちの怒りを買ったのです。特に王家の方々のですね。死刑にならなかったのは、『気性荒い性格だから一生牢で暮らすほうが酷だろう』ということらしいです。まあ、生きているうちに更正できれば軽くなるかもしれませんが、その可能性は薄いです」

私としてもワカナの処遇には別に不満はない。むしろ妥当軽い気もしますね。アリナさんは複雑な気持ちみたいですがそこは割り切るしかないですね。たとえ元妹だとしても。

……もうこの話はよしましょう。大事なのは明日ですから。

「ああ、失礼しました。もう一年以上も前の話はこれでいいでしょう。話が逸れて申し訳ありません。それでは明日のこの時間と場所に来てください。大丈夫です。分かるのは間違いなく私とマリナ様くらいしか分かりませんので」

マリナ様の名を聞いて顔が笑みで綻ぶアリナさん。お二人の友情は健在ですからね。まあ、何だか友人と言うよりも恋人同士のような関係に見えるのは気のせいでしょうか?

もっとも、この喫茶店もマリナ様の御父上が経営している商会の傘下にあるから、その関係でマリナ様と何度も会っているようですし、特別仲良くなるのは当然と言えば当然ですか。

「それでは、アリナさん。明日の私達の結婚式でお待ちしておりますので!」

もうそろそろ喫茶店を出てエンジ君のもとに戻ります。何しろ明日は私とエンジ君の結婚式ですからね。








王都の教会で、真っ白な格好で私とエンジ君が立っている。具体的に言えば、エンジ君が白い装束に、私がが白いドレスを着ているのです。今日ここで結婚するから。

「……遂にこの時が来ましたね」

「ああ」

私達二人は互いに頬を赤く染めて見つめ合う。そんな仲睦まじい私達を見て、教会の神父様が優しく微笑みかける。

「新郎、エンジ。汝はこの女性と結婚して夫婦になろうとしています。貴方は、健康な時も病気の時も、喜ぶ時も悲しむ時も、彼女を愛し、彼女を敬い、彼女を慰め、彼女を助け、その命の続く限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい。誓います」

「新婦、ミルナ。汝はこの男性と結婚して夫婦になろうとしています。貴女は、健康な時も病気の時も、喜ぶ時も悲しむ時も、彼を愛し、彼を敬い、彼を慰め、彼を助け、その命の続く限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい! 誓います」

私達の誓いを聞いた神父様が微笑んで更に言葉を続ける。

「それでは、誓いのキスを」

き、キス! エンジ君とキス! 遂にこの時が!

そして、エンジ君は私の顔を覆う薄いベールを持ち上げ、私のスレンダーな体を優しく抱き寄せて……熱いキスを交わした。

ああ……私達の唇と唇が重なる……たったそれだけの行為で、大きな感情が更に熱くなるのを感じます……。

「エンジ君……私……」

あ、涙が目から……。

「ミルナ、泣く前に指輪の交換をしないと」

「うん……」

こんな私でもエンジ君は落ち着いて微笑んでくれる。神父様から差し出された指輪を互いの薬指にはめていく。手が震えてうまくできない。

何とか指輪をはめたら、神父様が合図しました。すると聖歌の曲が切り替わりました。何だか聞き覚えのあるような気が……これは!?

この歌は聞き覚えがあります。私の故郷のコキア領地とアクセイル領地の聖歌の音楽なのです!

「エンジ君、これって……!」

懐かしい曲が流れるというサプライズ。こんなことをする人は一人しかいません。エンジ君を見ると、彼は祝いに来てくれた王族の皆様の方を向いている。正確に言うと親友であるレフトン殿下の方だ。

「ああ、レフトンたちだ。粋なことをしてくれる……!」

私もちらっと一瞬だけレフトン殿下を見ると、ライトさんと共に親指立てて満面の笑みを見せるがありました。

「私聞いてない!」

「ああ、俺もだ!」

彼らの粋な計らいを知って、私達は互いに顔を見合わせて笑った。音楽が終わると祝いに来てくださった多くの方々が一斉に祝いの声を捧げてくれました。

「おめでとうエンジー!」

「エンジしあわせになれよー!」

「エンジ最高! 幸せを楽しみな!」

「ミルナちゃーん! おめでとう!」

「ミルナ先輩! おめでとうございます!」

「ミルナさん。おめでとうございます!」

私達二人のために多くの人々が祝ってくれている。レフトン殿下をはじめとした王族の方々、バイラ様たち側近の方々、エンジ君のご両親、それに私と同様使用人としてソノーザ家にいた同僚の皆さんまで……! 

もちろん、一番後ろの方はマリナ様とアリナさんもいました。あらら、二人して満面の笑みを浮かべながらに涙を流していますね。かくいう私もうれし泣きして手を振ります。こんなにたくさんの人に私達の結婚を祝ってもらえる日が来るなんて……!

「エンジ君、私幸せです。もう胸がいっぱい……」

「俺もだ。君のおかげだ」

お互いに思いが爆発してしまいました。私達はみんなの前で再び熱いキスを交わします。

本当に……今日は最高の日でした。最高の結婚式です!


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