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番外編

ザイーダ侯爵①

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私の名はエクス・ヴァン・ザイーダ。ザイーダ侯爵家の現当主だ。自分で言うのもなんだが、年齢に比べて若々しい顔立ちをしている金髪碧眼の壮年の体格のいい男である。子供のころから嫡男として厳しく育てられたかいあって、上流貴族として恥じない生き方ができている。今は亡き両親とターナル侯爵家に嫁いだ上の姉マリアのおかげだ。

そして今日も私はいつものように仕事に励む。この日は、青い空が広がる晴天だったが、外出は午後の予定だ。まず午前中は、机に置かれた書類を片付ける。数年前に成功した領地改革に関するものだが、今も目が離せないでいる。

……一週間前に前ザイーダ侯爵夫妻だった私の両親の死亡が確定して、しかもその元凶が下の姉のネフーミだったと発覚したが、複雑な気持ちをいつまでも抱き続けるわけにはいかない。思うところがあるが、貴族として仕事に支障をきたすわけにはいかないのだ。黙々と仕事をこなしていかなければならない。

肝心のネフーミは修道院行きから死刑に変更されるらしい。その知らせがわざわざこっちにも届いてきた。……愚か者の罪人になり下がった方の姉には本当に迷惑ばかりかけられるものだ。今も昔も本当に変わらない。両親の件で早く死刑になるべきだったな。あの頃に真相が分かっていれば、どれだけよかっただろう。

そんな風に思っていた時だった。嬉しい知らせが耳に入ってきたのは。それは丁寧に私の部屋に入ってきた執事から聞くことになる。

「旦那様。たった今、3カ月前に修道院に送られたネフーミ・ヴァン・ソノーザが処刑場に送られて処刑されたという知らせが届きました」

「! ほう、そうですか。それは当然ですね、と言えばいいでしょうかね? 後、他に何かありますか?」

「いえ、これからの旦那様の予定が変わるような知らせは他にありません」

「そうですか。わざわざご苦労様です。下がっていいですよ」

「はい。失礼しました」

執事が去って行った後、私は本当に気が楽になった。心から安心した。悲しみは一切湧いてこない。

「……やっと死んでくれたか、ネフーミ姉様。本当に面倒な人だったよ……」

ネフーミ・ヴァン・ソノーザ。ソノーザ家に嫁いだ私の『元』姉であり、私の最も嫌いな女性だった人だ。というか、彼女を好きだと思う人はまずいないだろう。

「あの世で両親に詫び続けるがいいさ。まあ、許してはくれないだろうがな」

ネフーミがまだ姉だった頃、彼女は随分甘やかされて育っていた。そのせいでとても我儘で自分勝手な性格が形成されていたものだ。子供の頃の私が厳しくされている時に、ネフーミが可愛がられる姿はすごく忌々しく思った。どうにかして彼女を厳しくできないだろうかと考えさせられた。

もっとも、その機会はネフーミの方から持ってきてくれたのは運がよかった。思い出すたびに顔がにやけそうになってしまうな。あの女、ネフーミの馬鹿さ加減と私の人生最初の謀略は。
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