上 下
29 / 55
番外編

公爵夫人⑧

しおりを挟む
父に続いて母も私に怒りをぶつけてくる。いつものような甘やかしてくれる顔じゃない。

「ネフーミ、貴女は自分のしでかしたことの重さを分かっていないのですか? あんなに人がいる場で姉の婚約を破棄するように頼むなんて……実の姉を何だと思っているの! あんなにやさしいマリアのことを!」

「ひっ!」

母の顔は今まで見たこともないほど怒りに染まっていた。弟に厳しくしていた時もこんな顔はしていなかったのに。この時の私は悪い夢でも見ているんじゃないかと思った。だから私は現実を受け入れられなくて反論してしまった。

「な、何言ってるのよ! あ、あれはダイド様がおかしいのよ! こんなにも美しくて愛される私よりもお姉さまを選ぶだなんて間違っているわ! だから、みんなの前で婚約を私に替えてもらおうと思って、」

そして、途中で遮られたのだ。

バシッ!

突然、頬を叩かれることによって。

「痛っ……え?」

私の頬を叩いたのは弟だった。弟もまた怒った顔で私を睨んでいた。そして、思いっきり私に向かって叫んだ。

「いい加減にしろよ! ネフーミ姉様は、ネフーミ姉様のやったことは家族みんなを悲しませることだったんだぞ! ダイド様とマリア姉様が幸せになることを願う父上と母上と僕、そしてマリア姉様に対する最低の裏切り行為なんだって何で気付かないんだよ!」

「え、だって、エクスだ、」

エクスだって私に協力したじゃない、と言う前に、弟はそれさえも遮って言葉を吐き捨てる。

「僕だってマリア姉様とダイド様が幸せになることを望んでいたよ! 我儘で自分のことしか考えないネフーミ姉様じゃなくて優しくて他人のことを考えてくれるマリア姉様の幸せをだ! ネフーミ姉様がダイド様と結婚したいなんて言い出した時は下らない冗談だと思ったのに、本当に告白してぶち壊そうとするなんて許されることなんかじゃないよ!」

「な、な……!」

下らない冗談……そう思われたことがショックだった。いや、それ以上にこの弟が姉マリアの幸せの方を望んでいたことの方が衝撃を受けたかもしれない。私達姉妹は弟と話す機会が少なかった気がしたから。なのに………。

「ちっ、本当に事態の重さを理解していないんだな。……もし、もしもだ。ダイド様が本当にネフーミ姉様の身勝手な思いを受け入れようものなら、ダイド様もネフーミ姉様もそれぞれの家が決めたことを破った裏切り者として貴族籍を奪われて平民になっていたかもしれないんだぞ? 」

「そ、そんな……!」

ここまで言われて私は本当に事態の重さが本当にマズいことになっていたことを理解した。あのまま、私の計画が上手く言っていたら平民になるだなんて……受け入れられるはずがない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

Tの事件簿

端本 やこ
恋愛
 一般会社員の川原橙子は、後輩の森下亜紀と休日ランチを楽しんでいた。  そこへ恋人の久我島徹から電話が入り、着替えを届けて欲しいと頼まれる。徹は刑事という職業柄、不規則な勤務も珍しくない。  橙子は二つ返事で了承するも、今回ばかりはどうやら様子が違う。  あれよあれよと橙子たちは事件に関わることになってしまう。  恋人も友だちも後輩もひっくるめて事件解決まっしぐら! なお話です。 ☆完全なるフィクションです ・倫理道徳自警団の皆様や、現代社会の法や常識ディフェンダーとしてご活躍の皆様は回避願います。 ・「警察がこんなことするわけがない」等のクレームは一切お受けいたしかねます。 ※拙著「その身柄、拘束します。」の関連作品です。登場人物たちの相関関係やそれぞれの状況等は先行作品にてご確認くださいませ。 ※時系列は、本編および「世にも甘い自白調書」のあと、橙子が東京に戻ってからとお考えください。設定はふわっとしていますので、シーリーズの流れは深く考えずお楽しみいただければ幸いです。 ◆シリーズ④

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

処理中です...