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36(23裏側).獣?
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「「ああー、疲れた……」」
ソノーザ公爵家の地下室から、二人の若い執事が出てきた。すごい顔で。
「……くそっ! 最っ悪だ!」
「全くだ。あんな女だったなんてな」
二人はワカナに対して暴言を吐く。
「あれはもう獣だよ。貴族令嬢じゃないぜ! 獣令嬢だ!」
「だよな。我儘だけでなく、怒り出すとあんなに狂暴になるとは。恐ろしいな……」
二人の執事は酷い顔になっていた。酷いと言っても元から醜悪だったという話ではなく、むしろ美男子だった。その顔が傷だらけになったということなのだ。しかも、その傷をつけた相手が公爵令嬢なのだからとんでもない話だ。
◇
執事達の部屋に戻った二人は仲間達に話した。貴族令嬢のはずのワカナの本性、自分達の顔の傷のことも。
「あれはもう猿だよ、猿! いや、狂犬かな?」
「言えてるな。思いっきり爪で引っ掻いてきやがったんだ。怖かったよ」
二人の顔を見て話を聞いた仲間達は驚いた。彼女の性格が悪いとは思っていたが、そこまでだったとは、という感じで。
「マジか、そこまでかよ」
「熊か狼だな。俺達も危ないかも」
他の執事たちも身の振り方を考えるようになり始める。ワカナの性格の悪さが王太子に知られてしまったという事実は、使用人たちにも知れ渡ったのだ。彼らの間でソノーザ家が落ち目に戻るのもありうるかもしれないという話題が広まった。
◇
ソノーザ家の地下室。ここは滅多に使われることがないため、ろくに掃除もされていない。そんな場所で、
「ムキーッ! ここから出しなさいよ!」
ガンッガンッ、という音が響く地下室から響く。これが公爵令嬢が鉄格子を蹴ったり噛みついたりする音だとは直接見なければ分からないものだ。もっとも、実際に見てもふるまいからして貴族令嬢だと思う者は少ないかもしれない。
「何でよ、何で私がこんなことになるのよ! お父様は実の娘を何だと思ってんのよ! あの王太子もこの美しさの価値が何も分かってない! お母様は一体何してんのよ! 何で使用人も来ないのよ! 皆、皆役立たず! どうして私を怒らせるのよ!」
確かに周りも問題あるが自分のしたことの重さもまるで分っていない。全てを人のせいにするワカナ。ここでワカナが姉の名前を口にしないのは、本当にワカナが姉に関心を持っていないからだ。
家族愛などない。それがワカナ・ヴァン・ソノーザなのだ。
「くっそおおおぉぉぉ! うわあああぁぁぁ!」
悔しさのあまり涙声で叫ぶ。まるで獣のような叫びを。だが、どうにもならない。彼女は母親の偏った教育のせいで、姉に関心を持てず、父親に見放され、使用人たちからも距離を置かれたのだから。
「どうしてよぉぉぉ……どうして、この私が……こんな目にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
◇
「どうしてこんな目に、ですか。滑稽ですね」
ワカナの叫びが反響する中で、地下室の入り口の方で一人の女が微笑を浮かべている。侍女の格好をしたメガネの女だ。
「自業自得………そんなこと言っても分からないでしょうね、きっと。甘やかされて育てられるということは貴族として幸せではありません。むしろ致命的です。後々になって不幸になるだけです」
女の正体は、サエナリアの侍女のミルナだった。彼女の鋭い目がワカナの反対側に向いた。
「さて、もうそろそろ王太子殿下が変える頃でしょうか。上手く引き留めて仕込みを入れておきましょうか」
ミルナは地下室から出ていく。ただ、その前に一度だけワカナの方を振り返った。
「獣のような愚かなワカナお嬢様、幸せな時間は終わりました」
トレードマークのようなメガネを外して、ミルナは普段の彼女らしからぬ満面の笑顔でこう言った。
「さあ、地獄を楽しんでくださいね!」
ミルナは地下室から出た後、王太子がお帰りだと聞いて全力で走っていった。
ソノーザ公爵家の地下室から、二人の若い執事が出てきた。すごい顔で。
「……くそっ! 最っ悪だ!」
「全くだ。あんな女だったなんてな」
二人はワカナに対して暴言を吐く。
「あれはもう獣だよ。貴族令嬢じゃないぜ! 獣令嬢だ!」
「だよな。我儘だけでなく、怒り出すとあんなに狂暴になるとは。恐ろしいな……」
二人の執事は酷い顔になっていた。酷いと言っても元から醜悪だったという話ではなく、むしろ美男子だった。その顔が傷だらけになったということなのだ。しかも、その傷をつけた相手が公爵令嬢なのだからとんでもない話だ。
◇
執事達の部屋に戻った二人は仲間達に話した。貴族令嬢のはずのワカナの本性、自分達の顔の傷のことも。
「あれはもう猿だよ、猿! いや、狂犬かな?」
「言えてるな。思いっきり爪で引っ掻いてきやがったんだ。怖かったよ」
二人の顔を見て話を聞いた仲間達は驚いた。彼女の性格が悪いとは思っていたが、そこまでだったとは、という感じで。
「マジか、そこまでかよ」
「熊か狼だな。俺達も危ないかも」
他の執事たちも身の振り方を考えるようになり始める。ワカナの性格の悪さが王太子に知られてしまったという事実は、使用人たちにも知れ渡ったのだ。彼らの間でソノーザ家が落ち目に戻るのもありうるかもしれないという話題が広まった。
◇
ソノーザ家の地下室。ここは滅多に使われることがないため、ろくに掃除もされていない。そんな場所で、
「ムキーッ! ここから出しなさいよ!」
ガンッガンッ、という音が響く地下室から響く。これが公爵令嬢が鉄格子を蹴ったり噛みついたりする音だとは直接見なければ分からないものだ。もっとも、実際に見てもふるまいからして貴族令嬢だと思う者は少ないかもしれない。
「何でよ、何で私がこんなことになるのよ! お父様は実の娘を何だと思ってんのよ! あの王太子もこの美しさの価値が何も分かってない! お母様は一体何してんのよ! 何で使用人も来ないのよ! 皆、皆役立たず! どうして私を怒らせるのよ!」
確かに周りも問題あるが自分のしたことの重さもまるで分っていない。全てを人のせいにするワカナ。ここでワカナが姉の名前を口にしないのは、本当にワカナが姉に関心を持っていないからだ。
家族愛などない。それがワカナ・ヴァン・ソノーザなのだ。
「くっそおおおぉぉぉ! うわあああぁぁぁ!」
悔しさのあまり涙声で叫ぶ。まるで獣のような叫びを。だが、どうにもならない。彼女は母親の偏った教育のせいで、姉に関心を持てず、父親に見放され、使用人たちからも距離を置かれたのだから。
「どうしてよぉぉぉ……どうして、この私が……こんな目にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
◇
「どうしてこんな目に、ですか。滑稽ですね」
ワカナの叫びが反響する中で、地下室の入り口の方で一人の女が微笑を浮かべている。侍女の格好をしたメガネの女だ。
「自業自得………そんなこと言っても分からないでしょうね、きっと。甘やかされて育てられるということは貴族として幸せではありません。むしろ致命的です。後々になって不幸になるだけです」
女の正体は、サエナリアの侍女のミルナだった。彼女の鋭い目がワカナの反対側に向いた。
「さて、もうそろそろ王太子殿下が変える頃でしょうか。上手く引き留めて仕込みを入れておきましょうか」
ミルナは地下室から出ていく。ただ、その前に一度だけワカナの方を振り返った。
「獣のような愚かなワカナお嬢様、幸せな時間は終わりました」
トレードマークのようなメガネを外して、ミルナは普段の彼女らしからぬ満面の笑顔でこう言った。
「さあ、地獄を楽しんでくださいね!」
ミルナは地下室から出た後、王太子がお帰りだと聞いて全力で走っていった。
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