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21.心の傷?
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「あ、ああ…………(私は……俺は、本当になんてことをしてしまったんだ……)」
カーズは、思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほど、サエナリアの儚げな姿が頭に浮かぶ。無表情な素顔、寂しげな微笑、そして最後には、あの時の姿を。
「(あの時……サエナリアは涙を流して去っていった。女性のあんな顔は、姿は……始めて見た。俺が、そうさせた……俺が、君を、泣かせてしまった……俺は、目の前のこの男とは……別の意味で、最低じゃないか)」
泣き叫ぶのではなく、静かに涙を流し走り去るサエナリアの姿。最後に見た彼女の後ろ姿を思い出したカーズは、更に懇意にしていた男爵令嬢マリナの言葉を思い出す。
『今の殿下のことなんか、私は嫌いです!』
「~~~~~~っ!」
サエナリアを罵倒した後、その言葉を残してマリナはサエナリアの後を追っていったのだ。その時のカーズは、初めてマリナに罵倒された。そのショックのあまり呆然となって動けなくなり、マリナを追いかけることができなかったのだ。その日を境にマリナはカーズを拒絶するようになった。追い打ちをかけるかのように、サエナリアの姿を学園で見ることが無くなってしまった。
罪の意識に囚われたカーズは、二人との関係修復を目論んでサエナリアに頭を下げて謝罪することに決めた。学園で噂されないように、両親単語にすら何も伝えないでソノーザ公爵の屋敷に向かった。
そして、今に至る。
「(俺は、俺自身を見てくれたマリナの心すら傷つけてしまった。女性を二人も傷つけてしまうなんて、公爵より質が悪い……)」
婚約者にした仕打ちを考えると自分に公爵を攻める資格はないのではないか。そんなふうにも思えてきたカーズは、一気に頭が冷えて落ち込んだ気分になった。まるで、心の傷から罪の意識が流れ出てくるように。
「(……サエナリア……君は、どこか儚くて消えてしまいそうな印象があった。それを多くの者からは、よく言えば清楚とか、悪く言えば地味だとか言われてきた。思えば君は己に対する欲が無く、恋敵になっていたかもしれないマリナにも私との仲を取り持つようなことまで……。まさか、それは家族に愛されずに育ち、愛を諦めていたがゆえに、自分から求めることを止めてしまっていたからだったのか? だから、せめて他人に優しく……)」
更には、サエナリアの心情を勝手に解釈して美化し始める。学園でのマリナとのうわさを聞いた時とは全く逆のことだ。肝心のサエナリアとは、家族関係のことを話したことなどないというのに。
「殿下……?」
急に黙り込んで何も言わなくなり、俯き続けるカーズ。そんな彼にどう接すればいいか分からないベーリュだったが、下手のなことして余計に刺激するわけにはいかない。ベーリュには今の王太子の心中など計り知れないのだ。
カーズは、思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほど、サエナリアの儚げな姿が頭に浮かぶ。無表情な素顔、寂しげな微笑、そして最後には、あの時の姿を。
「(あの時……サエナリアは涙を流して去っていった。女性のあんな顔は、姿は……始めて見た。俺が、そうさせた……俺が、君を、泣かせてしまった……俺は、目の前のこの男とは……別の意味で、最低じゃないか)」
泣き叫ぶのではなく、静かに涙を流し走り去るサエナリアの姿。最後に見た彼女の後ろ姿を思い出したカーズは、更に懇意にしていた男爵令嬢マリナの言葉を思い出す。
『今の殿下のことなんか、私は嫌いです!』
「~~~~~~っ!」
サエナリアを罵倒した後、その言葉を残してマリナはサエナリアの後を追っていったのだ。その時のカーズは、初めてマリナに罵倒された。そのショックのあまり呆然となって動けなくなり、マリナを追いかけることができなかったのだ。その日を境にマリナはカーズを拒絶するようになった。追い打ちをかけるかのように、サエナリアの姿を学園で見ることが無くなってしまった。
罪の意識に囚われたカーズは、二人との関係修復を目論んでサエナリアに頭を下げて謝罪することに決めた。学園で噂されないように、両親単語にすら何も伝えないでソノーザ公爵の屋敷に向かった。
そして、今に至る。
「(俺は、俺自身を見てくれたマリナの心すら傷つけてしまった。女性を二人も傷つけてしまうなんて、公爵より質が悪い……)」
婚約者にした仕打ちを考えると自分に公爵を攻める資格はないのではないか。そんなふうにも思えてきたカーズは、一気に頭が冷えて落ち込んだ気分になった。まるで、心の傷から罪の意識が流れ出てくるように。
「(……サエナリア……君は、どこか儚くて消えてしまいそうな印象があった。それを多くの者からは、よく言えば清楚とか、悪く言えば地味だとか言われてきた。思えば君は己に対する欲が無く、恋敵になっていたかもしれないマリナにも私との仲を取り持つようなことまで……。まさか、それは家族に愛されずに育ち、愛を諦めていたがゆえに、自分から求めることを止めてしまっていたからだったのか? だから、せめて他人に優しく……)」
更には、サエナリアの心情を勝手に解釈して美化し始める。学園でのマリナとのうわさを聞いた時とは全く逆のことだ。肝心のサエナリアとは、家族関係のことを話したことなどないというのに。
「殿下……?」
急に黙り込んで何も言わなくなり、俯き続けるカーズ。そんな彼にどう接すればいいか分からないベーリュだったが、下手のなことして余計に刺激するわけにはいかない。ベーリュには今の王太子の心中など計り知れないのだ。
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