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13.知らない話?
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「マリナに怒りをぶつけられ、サエナリアが苛めるどころか友人として支え続けていた事実を知らされた私は、サエナリアを侮辱し罵倒したことを後悔した。噂に流されてあまりにも酷いことをしてしまった。マリナにも見限られるほどにな……」
「そ、その、マリナ嬢とは、」
「ああ、マリナには嫌われてしまったよ。あれから避けられるようになったんだ。はは、自業自得だな」
自嘲気味に笑うカーズだが、目は笑っていない。宝石のような瞳と言われて女性の人気を獲得した目は、今は死んだ魚を彷彿させるほど暗かった。
一方で、全く知らない話をいくつも聞かされたベーリュは呆然とした。潰すつもりだった男爵令嬢のことも頭から離れるほどだった。
「(そんなことが……)」
公爵令嬢サエナリアと王太子カーズの婚約は王家から望まれたことだったのだ。王家からの頼みを公爵家が無下にするわけにもいかないし、ソノーザ公爵家の権力も強くなるからベーリュにとってメリットしかなかった。だからこそ、ベーリュは喜んでカーズと同い年のサエナリアを嫁がせた。ベーリュ自身が直に会ってサエナリアに伝えることもなく。
「(いや、確かネフーミに確認させたら喜んでいたと聞いていたが……嘘だったのか? いやそもそもだ、あんな母親の言うことが信じられるわけが無いではないか! あいつ、娘の意思を無視していたのか!?)」
ベーリュはここでも妻ネフーミの無能ぶりに憤るが、カーズはそれを自分への怒りと勘違いしたのか申し訳ないという顔で頭を下げる。
「公爵、貴方の娘を侮辱し傷つけたことをお詫びしたい。願うなら、どうか彼女自身にも会って謝罪したい」
頭を下げるカーズに驚かされるが、肝心の公爵にとっては迷惑だった。重要な娘が家出しているのだ。
「(マズいぞ、サエナリアはいないのに! 帰ってもらわねば!)王太子殿下、どうか頭をお上げください! いずれこの国を背負うお方がそのような、」
「今の私にその資格はない。王太子は国王ではないのだ。私に非があることなのに頭を下げることくらいためらうことがあるか?」
「(頑固だな! やむを得ん! 非が殿下にある以上、こっちが大きく出ても問題ない。ならば……)」
ベーリュは、少し無礼を承知でカーズを帰らせようと試みることにした。娘思いの父親を装って。
「殿下、都合がよすぎるのではありませんか? わざわざお越しいただいて申し訳ありませんが、たとえ王太子とはいえ大事な娘をそこまで傷つけるような男をすぐに再会させるほど私もできた人間ではありません。どうか、もう少し娘に心の傷をいやすだけの時間を与えてもらえないでしょうか?(サエナリアを探す時間が欲しいんだ、帰ってくれ!)」
「心を癒す時間……そうか。それは分からなくもないが、私はすぐにでもサエナリアに謝罪したいのだ。女性を二人も傷つけた私にできることは、たとえ許されなくてもいい。心からの謝罪をすることなんだ」
カーズは簡単に引き下がろうとしないようだった。ベーリュはどうすれば帰ってもらえるか思案する。こんな男にサエナリアがいなくなったと知られれば大変なことになるのは間違いないのだ。
「殿下、しかし……(ヤバいぞ、国を挙げて捜索は勘弁してほしい。我が家の醜聞が社交界で噂されてしまう)」
だが、事態はベーリュが望まなかった方向に変わってしまう。彼のもう一人の娘によって。
「そ、その、マリナ嬢とは、」
「ああ、マリナには嫌われてしまったよ。あれから避けられるようになったんだ。はは、自業自得だな」
自嘲気味に笑うカーズだが、目は笑っていない。宝石のような瞳と言われて女性の人気を獲得した目は、今は死んだ魚を彷彿させるほど暗かった。
一方で、全く知らない話をいくつも聞かされたベーリュは呆然とした。潰すつもりだった男爵令嬢のことも頭から離れるほどだった。
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公爵令嬢サエナリアと王太子カーズの婚約は王家から望まれたことだったのだ。王家からの頼みを公爵家が無下にするわけにもいかないし、ソノーザ公爵家の権力も強くなるからベーリュにとってメリットしかなかった。だからこそ、ベーリュは喜んでカーズと同い年のサエナリアを嫁がせた。ベーリュ自身が直に会ってサエナリアに伝えることもなく。
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ベーリュはここでも妻ネフーミの無能ぶりに憤るが、カーズはそれを自分への怒りと勘違いしたのか申し訳ないという顔で頭を下げる。
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頭を下げるカーズに驚かされるが、肝心の公爵にとっては迷惑だった。重要な娘が家出しているのだ。
「(マズいぞ、サエナリアはいないのに! 帰ってもらわねば!)王太子殿下、どうか頭をお上げください! いずれこの国を背負うお方がそのような、」
「今の私にその資格はない。王太子は国王ではないのだ。私に非があることなのに頭を下げることくらいためらうことがあるか?」
「(頑固だな! やむを得ん! 非が殿下にある以上、こっちが大きく出ても問題ない。ならば……)」
ベーリュは、少し無礼を承知でカーズを帰らせようと試みることにした。娘思いの父親を装って。
「殿下、都合がよすぎるのではありませんか? わざわざお越しいただいて申し訳ありませんが、たとえ王太子とはいえ大事な娘をそこまで傷つけるような男をすぐに再会させるほど私もできた人間ではありません。どうか、もう少し娘に心の傷をいやすだけの時間を与えてもらえないでしょうか?(サエナリアを探す時間が欲しいんだ、帰ってくれ!)」
「心を癒す時間……そうか。それは分からなくもないが、私はすぐにでもサエナリアに謝罪したいのだ。女性を二人も傷つけた私にできることは、たとえ許されなくてもいい。心からの謝罪をすることなんだ」
カーズは簡単に引き下がろうとしないようだった。ベーリュはどうすれば帰ってもらえるか思案する。こんな男にサエナリアがいなくなったと知られれば大変なことになるのは間違いないのだ。
「殿下、しかし……(ヤバいぞ、国を挙げて捜索は勘弁してほしい。我が家の醜聞が社交界で噂されてしまう)」
だが、事態はベーリュが望まなかった方向に変わってしまう。彼のもう一人の娘によって。
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