12 / 149
12.慕う?
しおりを挟む
そう言うとカーズはうなだれた。どうやら心の底から後悔しているようだった。だが、サエナリアがそんな仕打ちを受けたと知ったベーリュは同情できない。むしろ当然のように怒りが込み上げてくるのだった。父親としてなら、流石に怒りを示してもいいと打算した。
「………当然ですな。自分の婚約者が浮気をしていた挙げ句、その婚約者に罵られたのですからな!(よし、この流れならこちらのペースに持ってこれる)」
ベーリュは今の話に乗っかれば、カーズを追い返せると思い、あえて厳しく接することにした。今のカーズは見るからに罪悪感がある。そこに付け込めばうまく丸め込めるはずだと思ったのだ。
「王太子殿下、サエナリアとその御令嬢の間に苛めがあったのは初耳ですが、たとえこちらに非があったとしても、」
「違うんだ公爵! ……そこが違っていたのだ」
「は?」
怒気を少し強めたベーリュの言葉をカーズは遮った。王太子のその顔は見たこともないほど悲しそうだった。
「サエナリアが走り去った後、我に返ったマリナが私に向かって怒りを露にしたんだ。……サエナリアのために私に怒ったんだ。目に涙をためて『なんてひどいことをおっしゃるんですか!』『そんな人だとは思いませんでした!』などと、そう言われてしまったよ」
「ど、どう言うことですかな?」
「マリナはサエナリアを慕っていたんだ」
「はい?」
浮気相手が苛めてきた婚約者を慕う。それはどういうことなのだろう?
「……サエナリアはマリナを苛めてなどいなかったんだ! 最初だけは厳しく注意されたらしいが、その後からは私とマリナの関係を認めるようになってくれていたというんだ。しかも、マリナが私にふさわしい女性になれるように助言までしていたらしい。……二人は友達だったんだ」
「な、何ですと!? (馬鹿などういうことだ!?)」
ベーリュは訳がわからなかった。つまりカーズの話のよると、サエナリアは婚約者と浮気相手の恋愛を応援していたというのだ。しかも友人として。婚約者を差し置いて優しくされる女性など、貴族なら普通なら怒ることであり、本当に苛めがあってもおかしくないはずだ。なのに何故?
「な、何故、我が娘が、そんなことを? 自分の婚約者を差し出すなんてことを?(何が、どういうことだ?)」
娘の行動が理解できなくて、目に見える形で動揺するしかないベーリュだったが、そんな公爵の前でカーズは寂しそうに語った。
「ふっ、マリナが彼女から聞いた話だと、私との婚約は『親が勝手に決めた愛の無いものだから気にしない』のだとさ。『婚約破棄したくても王家が関わっているから無下に出来なかった』などと口にしていたらしい」
「そんな、あの娘がそんなことを………?(サエナリアは、気乗りではなかったのか? 王家に嫁ぐんだぞ!)」
「残念なことに、私は彼女のお気に召す男ではなかったということだ。………言われてみればその通りだ。私は婚約者がいながら他の女に入れ込むような男なのだから当然だな。最初の頃は私も婚約のことは特に問題ないと思ったのだがな。結果はこの通りだ」
「…………っ!」
ベーリュは信じられないことだと思った。目の前にいるカーズはかなりの美男子で、女性の人気は圧倒的だったはずだ。それほどの男なのにサエナリアは好まなかったというのだろうか。
「………当然ですな。自分の婚約者が浮気をしていた挙げ句、その婚約者に罵られたのですからな!(よし、この流れならこちらのペースに持ってこれる)」
ベーリュは今の話に乗っかれば、カーズを追い返せると思い、あえて厳しく接することにした。今のカーズは見るからに罪悪感がある。そこに付け込めばうまく丸め込めるはずだと思ったのだ。
「王太子殿下、サエナリアとその御令嬢の間に苛めがあったのは初耳ですが、たとえこちらに非があったとしても、」
「違うんだ公爵! ……そこが違っていたのだ」
「は?」
怒気を少し強めたベーリュの言葉をカーズは遮った。王太子のその顔は見たこともないほど悲しそうだった。
「サエナリアが走り去った後、我に返ったマリナが私に向かって怒りを露にしたんだ。……サエナリアのために私に怒ったんだ。目に涙をためて『なんてひどいことをおっしゃるんですか!』『そんな人だとは思いませんでした!』などと、そう言われてしまったよ」
「ど、どう言うことですかな?」
「マリナはサエナリアを慕っていたんだ」
「はい?」
浮気相手が苛めてきた婚約者を慕う。それはどういうことなのだろう?
「……サエナリアはマリナを苛めてなどいなかったんだ! 最初だけは厳しく注意されたらしいが、その後からは私とマリナの関係を認めるようになってくれていたというんだ。しかも、マリナが私にふさわしい女性になれるように助言までしていたらしい。……二人は友達だったんだ」
「な、何ですと!? (馬鹿などういうことだ!?)」
ベーリュは訳がわからなかった。つまりカーズの話のよると、サエナリアは婚約者と浮気相手の恋愛を応援していたというのだ。しかも友人として。婚約者を差し置いて優しくされる女性など、貴族なら普通なら怒ることであり、本当に苛めがあってもおかしくないはずだ。なのに何故?
「な、何故、我が娘が、そんなことを? 自分の婚約者を差し出すなんてことを?(何が、どういうことだ?)」
娘の行動が理解できなくて、目に見える形で動揺するしかないベーリュだったが、そんな公爵の前でカーズは寂しそうに語った。
「ふっ、マリナが彼女から聞いた話だと、私との婚約は『親が勝手に決めた愛の無いものだから気にしない』のだとさ。『婚約破棄したくても王家が関わっているから無下に出来なかった』などと口にしていたらしい」
「そんな、あの娘がそんなことを………?(サエナリアは、気乗りではなかったのか? 王家に嫁ぐんだぞ!)」
「残念なことに、私は彼女のお気に召す男ではなかったということだ。………言われてみればその通りだ。私は婚約者がいながら他の女に入れ込むような男なのだから当然だな。最初の頃は私も婚約のことは特に問題ないと思ったのだがな。結果はこの通りだ」
「…………っ!」
ベーリュは信じられないことだと思った。目の前にいるカーズはかなりの美男子で、女性の人気は圧倒的だったはずだ。それほどの男なのにサエナリアは好まなかったというのだろうか。
3
お気に入りに追加
5,051
あなたにおすすめの小説
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
他の令嬢に心変わりしたので婚約破棄だそうです。え?何で私が慰謝料を要求されているのですか?
火野村志紀
恋愛
ツィトー男爵家の令嬢ラピスはマーロア公爵令息リネオと婚約していたが、リネオはラピスの知らぬ間に他の令嬢と恋に落ちていたらしく、婚約破棄を言い渡された。
公務そっちのけで遊び歩いてばかりだったリネオに呆れていたラピスはそれを了承する。
ところが、「慰謝料を払うのは君の家だ」と言い始めるリネオ。
弁護士や裁判官は皆マーロア家と繋がりが深い者ばかり。
愛人になるなら慰謝料を払う必要がないとリネオは言うが、ラピスには受け入れがたい話。両親は世間の目とマーロア家からの援助欲しさに、リネオの愛人になれと娘に迫り……
「もう疲れました」とラピスは全てを捨てることにした。
期待はしてなかったけど、お前は呪う。
紺Peki獅子
ホラー
前世に満足している異世界転生主人公が見たい。
死んでやり直すんじゃなくて、幽霊になって復讐するのが見たい。
ギャグのつもりだったけど何故か微ホラーになった。
※主人公が今世の家族を呪います!
※主人公が悪霊になります!
よろしければどうぞ!!!!
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
王子の間違った溺愛、返却します! 〜返却不可!?それなら正しい溺愛をお願いします〜
川奈あさ
恋愛
王子! その溺愛、間違っています!
返却不可なら……せめて正しい方法で愛してくれませんか!?
ドレスに恋したドレス職人見習いのリルアは、
ドレス観察に訪れた夜会で謎の美青年と顔見知りになる。
美青年の正体は第三王子で、
気づいたときには囲い込まれ、すでに婚約していた――!?
ドレスはいくらでも買ってあげる!?
王家お抱えの職人が直接指導してくれる!?
私はそんなこと望んでいません。
あなたの溺愛、間違っています!
返却不可の歪んだ溺愛を正したいと奮闘するラブコメです。
【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。
天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」
甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。
「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」
ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。
「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」
この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。
そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。
いつもこうなのだ。
いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。
私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ?
喜んで、身を引かせていただきます!
短編予定です。
設定緩いかもしれません。お許しください。
感想欄、返す自信が無く閉じています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる