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194.ルカス視点/ナーマクラ公爵家

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(ルカス視点)


俺は今、とある公爵家の当主を前にしている。勿論、ジノン・ベスクイン公爵ではないほうの公爵だ。


我が国には公爵家は三つ存在する。一つは俺の親友が当主を務めるベスクイン家、二つ目はシンクーロ公爵家、残りの三つめは俺の悪友が当主をしてしまっているナーマクラ公爵家だ。


つまり、俺の目の前で嫌な汗をかきながら緊張しまくっている小物感あふれる男がナーマクラ公爵家の当主なのだ。


「い、イムラン侯爵……ほ、本日はどのようなご用件でしょうか……?」

「今は貴族としての堅苦しい挨拶はいらん。俺とお前の中じゃねえか。公爵だの侯爵だのは抜きにして気楽に話そうじゃねえか、マック」

マック・ナーマクラ、それが目の前の男の名前だ。見るからに小物臭く見えるこいつが公爵家の当主なのだ。全く残念なことにだ。


「る、ルカス先輩……お、俺に何か用ですか?」

「だからここまで足を運んだんだよ」

「……」


ふん、その様子から見れば大体分かっているんだろう? お互いにな。


「ああ、お前の倅がよう、随分勝手なことをしてるんじゃないかと心配してなあ」

「なっ!? う、うちのバカ息子が、ど、どうしたので!?」


どうしたので、じゃねえだろう? 言いにくそうだろうから俺から言ってやるか。


「どうも、ろくでもない女にのめり込んだみてえじゃねえか。公爵令息の身でありながら顔とスタイルしか取り柄の無いくせにバカで金遣いが荒い伯爵令嬢にぞっこんと聞いたぞ?」

「ギクッ!?」

「そんでもって、その女の方がどこぞの馬鹿王子の婚約者になった話を聞かされて、お前さんの息子が御乱心だとか。いやあ、随分とやんちゃ者らしいなあ。権力を乱用して騎士に成り済ますくらいには」

「ギクギクッッ!?」


隠すのが本当に下手だな。思いっきり顔を青ざめて震えている。ポーカーフェイスを全く保てないのに公爵の当主の立場とは呆れる。……いや、他に適任な奴がいないからだろうな。


「やんちゃ者なのは子供なら仕方がないが……もういい年なんだから馬鹿なことはもう止めてもらえねえか? こっちにまで迷惑がかかるってんなら、」

「ああ、もう! 言えばいいんだろう! 言えば! 全部話しますよ! そんで息子も廃嫡する! だからもう俺を攻めないでくれ!」


おい、もう自棄を起こすのかよ。本当に公爵の立場だという重みを分かっていないんだな。





「もう勘弁してください………」

「それで全部か?」

「はい………おっしゃる通り、我が息子はワカマリナ嬢の虜でした。でも、あの娘が王太子の婚約者になったと聞いて息子は荒れ狂った。どうして自分じゃないんだとか、馬鹿王子に騙されたんだとか……」


……おいおい、若い頃のお前とそっくりじゃねえか……とは口に出す気も起きねえ。


「妻と一緒に息子をなだめたのですが中々うまくいかず、それで目を覚ましてもらおうとワカマリナ嬢について悪い話を聞かせてやったのです。幸い、酷い噂が多く、その決定的証拠を見せてもやりました」

「ほう、そこまでやっていたのか」

「はい、それでやっと息子はとんでもない女に誑かされたのだと気付いて反省しました。だからこそ、騎士団に入れさせたのです」

「何?」


……あ、聞き捨てならないことを聞いたぞ。


「おい、お前がそうさせたのか? 騎士団に入るってのは?」

「……はい、目を覚ました息子は己を恥じ入るばかりでふさぎ込んでしまったので、それを克服させようと思って騎士団に所属させたのです。息子は幼い頃、騎士にも憧れていたので、」

「馬鹿だろお前」


トラウマを克服させるために騎士団に入れるという発想はどこから来るんだ? お前に『馬鹿』呼ばわりされるような奴が騎士としてまともに働けると思ってんのか!?


「そんな行いが貴族として許されるとでも思ってんのか!? 騎士団や彼らが仕える王家に迷惑がかかるとは思わなかったのか!?」

「あ、ある程度は覚悟していましたが……息子は思っていた以上に面倒なことをしました……反省してます……」


最悪だこいつ。もうナーマクラ公爵家は降格したほうが良さそうだ。
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